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リーザの告白

◆◇◇


「――というわけなんです」

 リーザは全てを語り終えると、どこか困惑したように帽子ごと頭を下げた。

「なるほど、ね」

 ロズが深く息をつく。

 それは牧師ですら救いようのない懺悔だと言えた。

 さて、リーザの告白。

 それを要約すれば、事の始まりは彼女が水龍岬に別荘を建ててひとりで隠居し始めた頃に遡るのだという。

 リーザの前に『カーバンクル』と名乗る奇妙な魔物が現れて彼女と魔法契約を結ぶことを提案してきた。

 本来は疑うべきところ、未熟な娘は一定の魔力をもたらしてくれるというカーバンクルの言葉を信じて迂闊にも魔法契約を結んでしまう。

 しかし、それは狡猾な悪魔の罠であり、名の知られた著名人であるリーザは、カーバンクルの獲物となる犠牲者をおびき出すダシとして利用されることになった。

 おまけにリーザは洋館ごと、カーバンクルの創った特殊魔法陣ペンタグラムの中に閉じ込められてしまったのだという。

 そして、このペンタグラムに関してはリーザからは決して破壊することができない代物で、外側から打ち消してもらうのが唯一の破壊方法だというのだ。

「お願いです! 助けてください! 普通ならカーバンクルに完全に見張られていて助けを求めることなんてできないんです! でも、今なら間に合うんです。きっと、なんとか……。ううう。これを逃したらもはや……。お願いします。ラストチャンスなんです」

 再び顔を上げたリーザ。彼女の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

「安易に魔物と契約を結んだことを悔い改めて、今後の自分に活かしてください。それが条件ですね。犠牲になった方々にも詫びることです」

 ワイマは心を痛めたような表情で目を伏せてそう言った。

 これに対して、

「はい。本当に……。すみませんでした、とお詫びしたいです」

 リーザは力なく頷くのみである。

「仕方ありませんね。ならば消してあげる、か」

 その懺悔を聞いたワイマが短く言ってペンタグラムを靴の踵で打ち消そうとした時。

 ――――バ、バ、バババ、バチッ!

 凄まじい勢いで雷撃のような閃光が走って、ワイマは吹き飛ばされた。

「うああああっ!」

 そして、そのまま近くの草むらに落下。

 転がる。

「「ワ、ワイマっ!」」

「お嬢様ぁっ!」

 悲鳴がこだまして、

「大丈夫か!」

 すぐにお屋敷メンバーたちがワイマのもとへ駆け寄る。

「いて、て。なんとか……大丈夫だよ。へーき、へーき。うん」

 苦痛に顔を歪めているが、無事だったようだ。

 ワイマは腰を押さえて、ゆっくり草むらから立ち上がった。

「それにしても……。なんなのだ」

 すると、『敵』の居場所にいち早く気付いたフランチェスカがその一点を見据えて怒りに声を震わせた。

「ワイマお嬢様に、先の一撃を加えたのは……、貴様ですか?」

 残りの皆がフランチェスカの目線の先、苔むした岩の上に目をやると。

 そこには羽を広げた一匹の奇怪な生き物がちょこんと座り込んでいた。それはロズとワイマが漂流中に出会ったカーバンクルだった。

「そうだ。……我のペンタグラムに触るなという警告じゃ」

 カーバンクルは落ち着いた様子で冷淡に言い放った。

「あ、カーバンクル……」

 ロズは驚きで口をぽかんとさせてつぶやいたが、すぐにフランチェスカの鋭い声によってかき消される。

「リーザさんから話を聞く限り、どうやらおまえが裏で糸を引いていたようですね」

 しかしフランチェスカからの指摘に対して、カーバンクルが表情を変えることはない。

 それどころか悠然とした様子で、

「そうだ。我の魔力を補給するには生贄が必要だった。そして、その生贄をおびき出すにはこれまた甘い蜜が必要じゃ。その役割を果たしてもらっただけなのじゃ」

 と嘯きながらムチのような尻尾を揺らしている。

「もう戦いは避けられないのかな」

 ワイマがどこか悲しげな表情で言い放った。

「そんなに悪いやつでは、ないはず……」

 これにロズも同調する。

 しかし、見かねたメギウスが「待てニャ、おまえら」と手で制して、

「おまえたちはさっそく魔物の魅惑に取りつかれそうになっているニャ。ここでこのままやつに心を付け込まれたらおまえたちまでリーザの二の舞になるぞ。目を覚ますにゃ」

 と2人の肩を軽く揺すった。

「「わっ!」」」

「危なかった、かも」

 おかげで、ロズとワイマは我に返ったようである。

「メギウスさんの言う通りです。やつの額に埋め込まれた宝石の効果でしょう。見つめすぎると心を魅入られます。あれには特に気を付けてください。ついでに言っておきますと、もはや、カーバンクルとの戦いは避けられないでしょう」

 フランチェスカはそう言い終えると静かに瞳を伏せた。

 そして、何やらぶつぶつと詠唱をする。

 彼女の手にはいつの間にか、ランタンがひとつ握られていた。


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