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一次校正の示す先

「……さて」

 ――――もはやリーザのいない客間にて。

 机の上で、スラスラと少年のペン先がリズムを刻んで赤字(修正する必要性がある誤字や脱字)を探索していく。

 ロズはとりあえずハンドブックを片手に通常は使用できないような表外字を探すが、運の良いことに今回はそういったものは見当たらない。

 というわけで誤字脱字の素読みに意識を集中させて、さらに校正を重ねる。

「…………」

 ずっと無言のロズ。

 ただし、彼の手にするペンは動きを止めることはない。

 卓上では丁寧かつ静かな作業が手早く、それでいて正確に展開されていく。

 ワイマやグリモワルス、フランチェスカたちが見守る中で、メモの中の赤字が少しずつ炙り出されていくことになるだろう。

 やがて、ロズのペン先がピタリと停止して。

「ここの部分ですけど、赤字があるようだね」

 少年は『地』という漢字を挿入する。

 よくある誤字だ。

 校正ペンによって書きだされた。最初の赤字。

 しかし、勘がいいロズはもはや気づき始めていた。これがインタビューの回答者によって誘導された作為的な赤字だということに。

「……これも赤だね」

 そうこうするうちに再びペン先が止まって『下』という赤字が炙り出される。

『し』という赤字。それが3つ目。

『つ』という赤字。これが4つ目だった。

 そして、『に』、『来』、『て』の順に赤字は炙り出されていく。

「もう分かっただろう。赤字を順番に見ていくとだね」

「「あっ!」」

 途端に、周囲からざわめきが起こった。

 そう。

 メモの中で見つかった赤字は『地下室に来て』というリーザからのメッセージに繋がっていたのである。

「まさかっ」

 取材メンバーたちはそれぞれに顔を見合わせる。

「気になるな。……気づいちまったからには行くしかないニャ」

 メギウスがヒゲをつまみながら言うと、

「もし、そこに行った場合は後戻りができなくなるような気がするけど。いいの?」

「なんでわざわざ行くんデスか。取材も終わったし、グリはもう帰りたいのデスよ。それに赤字が偶然そうなっただけかもしれないじゃないデスか」

 スタニやグリモワルスはあまり気乗りしないといったふうに首を横に振っている。

「……ふーむ」

 一方のワイマは顎に手を当てて冷静に静観しているようだったが、やがて自分なりに行きついた仮説を述べる。

「もし、リーザさんが何者かにずっと監視されていて自分の思ったことを自由に発言できなかったとしたらどう? すべてがしっくりくるんじゃない」

「僕もそう思う」

 ロズはワイマの発言に同調して頷く。

 そしてこう続ける。

「この洋館に地下室があればそこに全ての秘密が眠っているかもしれない。これは文化面コラムの取材どころか、ある意味ではそれを遥かに上回るスクープだと思う」

 ……スクープ。この言葉を聞くや、フランチェスカの瞳がギランと怪しく光った。

 そしてメイドは何気ない口調で言った。

「決まりですね」

 栗毛な彼女の掲げるランタンの内部がボォっと独りでに燃え上がる。

 これを見届けたメイド娘はにんまりと満足げな微笑みを浮かべてスタスタと、一人で先に歩き出す。

「「あ、置いてくな」」

 当然ながら残りの取材陣もフランチェスカに従うことになった。



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