【ウォータードラゴンの魔女】リーザ
◆◇◇
客間に通された取材陣。
「室内でも帽子は被ったままなんですね?」
椅子に座るワイマは、不思議そうな顔で家主に尋ねた。
「そうですね。自宅でも、帽子のほうが落ち着くんですよね。まず、これは脱がないです」
7人分のアイスコーヒーの載ったトレーを手にして、娘は言った。
彼女いわくトレードマークである魔法使いを思わせるようなツバが丸く広がった帽子。
それには巨大な目を思わせるような奇妙な装飾が施されている。
帽子からは娘の長い銀髪がしなやかに伸びる。
切れ長の琥珀を思わせる瞳に、淡い桃色の頬と唇、白い雪肌。すらりとした身体はぴったりとしたシャツとデニムスカートに一ミリの誤差もないかのようにフィットしていた。
それは、まさしく写真のとおりの『リーザ・ウォーターズ』だった。
「……」
ただし、ワイマたちのそばに座ってリーザを見ていたロズは不思議な感覚を覚えていた。
あえて口にこそ出さないが、まるでこのリーザという娘にこの館にそぐわない違和感のようなものを感じるのである。
この違和感の正体がいったいなんなのかは分からない。
それに加えて、いま大事なのはそんなことよりも、彼女への『取材』のほうなのだ。
ロズは気を取り直して、首にさげた写真用機材のシャッター具合をチェックする。
「皆さん、どうぞ」
やがて、ロズたちの前のテーブルにはアイスコーヒーがずらりと並び、リーザも椅子にかけてそのうちひとつを手にした。
「「ありがとうございます」」
取材陣は家主からのさり気ないもてなしに礼を述べる。
「おかまいなく。毒は入れていません」
リーザは短くそんな冗談を言った。
「あはは。では、さっそくですけど取材に入らせてもらいますね。リーザ・ウォーターズ運河の開発についての質問です。リーザさんはこの運河開発の資金面における最大の貢献者として認知されていますけどそれに対してはどのようにお考えですか?」
ワイマがまず簡素な質問をリーザに投げかけた。
文化面コラムの取材開始だ。
「えーと……、そうですね」
対してリーザは帽子から伸びる銀髪を揺らすと微笑しながら答えた。
「開発に携われたことは非常に光栄なことですし、この運河の発展によって、世界における西の地峡『ラグラ』と東の地峡である『ネウス』との友好がさらに高まることをわたくしは大いに期待しております」
「なるほど。素晴らしいお考えですね」
質問役のワイマが「うん、うん」といった具合に相槌をうち、傍らに座るフランチェスカやスタニが黙々とリーザの回答を専用メモに書き写していく。
「では、次の質問に参りますね」
「はい。どうぞ」
「運河を仕切り水位を大幅に変化させる閘門の建設に関してですが――――」
このような具合で取材は順調に進んだ。
そして、約1時間が経過する頃には最後の質問も終わったのだった。
「えーと、これで取材用の質問は全て終わりです。長い時間、お付き合いありがとうございました」
ワイマは満足げな笑みでリーザに礼を述べて丁寧に頭を下げた。
アフターケアとしての礼節を欠かさない辺り、まだ15歳といえど、さすがは熟練の取材経験者である。
「いえいえ。創意工夫が凝らされた興味深い質問の数々でこちらとしても有意義な時間でしたよ。ありがとう」
ワイマの対応はリーザの目からしても感じが良く映ったようで無事に取材は終了した。
その後、リーザは取材用の統合メモ(全てのメモの筆記内容をまとめたもので一次モニターの原料になる)に目を通したいと言った。
フランチェスカは不思議に感じつつも、「構いませんよ」とこれを了承してメモをリーザに渡す。
「ふむ。いいでしょう」
ほどなく、統合メモを全て読み終えたリーザ。
「……校正赤字は早めに出してくださいね。ではこれで」
彼女はそのように言い残してメモをフランチェスカに返すと客間をふらりと出ていってしまった。
その後ろ姿にはどことなく名残惜しそうな印象があった。それに加えてリーザ自身が何かを伝えたそうに一瞬だけ、ロズのほうを振り返ったのを少年は見逃さなかった。
だが、それがいったい何かはもちろん分からない。
「では、私たちもそろそろ……」
さて、フランチェスカのそんな言葉で取材陣が荷物をまとめようとしていると。
ロズは脳裏にふ、と一筋の閃きのようなものが走るのを感じた。
そして、おもむろにある提案をした。
「あの、とりあえず一次校正をここで済ませても構いませんか?」
「「えっ!?」」
お屋敷仲間たちは驚いたような目線をロズに注いだ。
当然だ。普通ならば、緊急時を除いて現地での校正は行わないのだから。
しかし少年には、ある確信があった。……何故だかは分からないけれど、ある確信が。
「取材した分の統合メモを僕に貸してください。手早く終わらせます」
ロズはそう言って、フランチェスカからそれを受け取った。




