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魔女の別荘

 ◆◇◇


「これで終わりだ。おつかれ」

 そんな言葉を最後にカーバンクルは、ついに飛翔するのを止めて、ある陸地の岩上にとまった。ここが水龍岬なのは聞くまでもない。

「や、やっとだ! 長かった!」

「ついに……。ついに着いたね。ロズくん!」

 さて、先導を受けたロズは必死の思いで最後のオール漕ぎを済ませてワイマと共になんとか水龍岬にたどり着いた。

 2人は舟から降りて、すぐさま浜へと上陸すると、感動を噛みしめるかのように大きく背伸びをした。浜に吹きよせる心地よい風を感じる。

 さて、どうやら一番乗りか、と思いきや……。すでに先客がいた。

「あー。待ちに待ったロズとワイマではないデスか! ずいぶん遅かったデスね」

「俺たちなりに心配したニャ」

 浜にて、2人を出迎えたのはグリモワルスとメギウスである。……しかも、それだけではなく、フランチェスカやスタニも出発時と何一つ変わらない穏やかな表情でそこに佇んでいるではないか。

「ワイマお嬢様もロズ様も、ご無事でなによりです」

「よかったねー。ボクちゃん氏の祈りが通じたようです」

 そんな言葉を聞くに、ワイマとロズ以外のお屋敷仲間たちはさほど苦労することもなく、あっさりと岬までたどり着いたようである。

「まったく……。お屋敷メンバーたちに関しては心配いらずだったな」

 ロズがやれやれといった具合に肩をすくめる。

「むしろ心配されていたのは、わたしたちのほうだったか……。なんてこと」

 ワイマも恥ずかしさを感じ始めたのか、少し顔を赤らめていた。

「しかし、あの状況下でよくたどり着けたもんだなーと思う。なっ、ワイマ」

「そうだね、ロズくん。どちらにしろ、カーバンクルがいなかったらあのまま漂流を続けるはめになっていたに違いない」

 そのような回想を互いに交わしながら、ロズとワイマがカーバンクルのいるほうを振り返れば。

「……あれ。いない」

 そこにはまるで最初から何もなかったかのように、コケむした大岩だけが存在していた。

「おかしいな。さっきまでそこにいたはずなのに……。まぁ、いいか」

「どこかにエサでも探しにいったのかもしれないね」

 不思議に思いつつも、ロズとワイマはあまり深く考えないことにした。

 岬で仲間たちと無事に合流できた今となっては、もはや使い魔の行先などはどうでもいい事柄に過ぎなかった。

「さて、そんなことより大事なのは、コラム原稿のほうだ」

「そうですね」

 ワイマの言葉にすかさずフランチェスカが相槌を打つ。

「お嬢様。ギルドからのデータによると、この陸地の奥に『ウォータードラゴンの魔女』が住む別荘があるみたいです」

「なるほど。行ってみよう」

 こうして一行はこの陸地の奥にそびえる洋館。魔女の待つ別荘へと向かうことになった。

 ――歩くこと20分ほど。

 ほどなく、6名は目的の洋館に到着する。

「では、リーザ氏の取材へと参りましょうか。ただ、その前に……」

 この『洋館』を目前にして、ランタンを手にするフランチェスカが眉根を寄せて「ふーむ」と小さく唸った。

 彼女の視線は足もとへと向けられている。

 ……というのも館の周囲には大きく謎の円のような模様が描かれていたからだ。円の中にはこれまた巨大な五芒星のようなものが描かれており、まず間違いなく、何らかの魔法陣だということが分かる。

「魔法陣です、ね。……おそらくセキュリティー用のものだとは思いますけれど、中身が分からないだけに何といいますか、不気味ですね」

「確かにそうだニャ。だが、足を踏み入れないことには取材は申し込めそうにないニャ」

 メギウスはフランチェスカに同調しつつも、もっともな言葉で諭した。

 妖精猫の言う通り、アポイントメントを取っていない以上はある程度のリスクは覚悟しなければならない状況にある。

「仕方あるまいデス」

 こうしてついに6名は、洋館を囲む魔法陣の中に足を踏み入れた。

「…………っ」

 一瞬、びりびりとした緊張が6名の間に走った。

 だが、今のところ特に変化らしいものは何もない。

「よかった」

 ワイマは、ほっと胸をなで下ろし安堵する。

「ただのセキュリティー用でしたか。びびって損でした」

 その傍らに佇むスタニが無関心につぶやいた。

「では、さっそく取材とまいりましょうか」

 フランチェスカは微笑を浮かべて、さっそうと扉に近づく。

 そして扉に備え付けられた呼び鈴を、3回鳴らした。

「こちら異世界新聞の者です。リーザ・ウォーターズ様はご在宅でいらっしゃいますか?」

 フランチェスカの物腰柔らかな声が続くと。

「…………」

 少しの沈黙。6名に刹那の緊張が走る。

「う」

 ロズがごくりと唾を飲み下した時。


 ――――ギィィィ。


 扉に小さく隙間ができていた。

「ほう、取材ですか。良いですよ。入ってくださいな」

 闇の中から聞こえてきたのは白銀のように怜悧な声だった。

 


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