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第三惑星で紡ぐ日常  作者: 火蜂
黒渦と異世界と少年
2/5

2 ショタとの邂逅

閲覧ありがとうございます

【東京三級制限区域:螺旋塔防衛砦】




 黒渦(ゲート)から出てきたその小さな男の子は、跳ねる様に地面にぶつかるも、起き上がる様子を見せなかった。


 その子は微動だにしない。


 いや、気付けば男の子だけでなく、異形の魔獣すら動きを止めている。




 右を見ても、左を見ても、1匹の例外すらなく全ての魔獣が、男の子を狙うかの様に。




 男性を優先的に狙うという魔獣の性質を加味しても異常な程に見ていた。




(明らかに拙い────ッ!!)


 理屈ではなく本能で分かった。


 きっと他の隊員も理解しているだろう。


 自身の身に纏わりついていた恐怖や死の気配が消失している事に。

 

「リンっ、あの子を助けに行かないとっ」


「待ちなさい!今の状況が奇怪(おか)しいのはわかるでしょ!」


「でもっ!あの子、狙われてるよ!」


「分かるわよ!分かってるけど、私達じゃ無理よ!死にに行く様なものよ!」


「──ッ!けど……けどっ!」




『東京本部の増援が到着しました!戦闘中の全隊員は至急退避して下さい!

 後方特殊支援隊による広域魔法展開中です!魔法発動まで残り15秒!繰り返します────』



 アンナの葛藤を断ち切るかの様に、無線から司令部の伝達が届く。

 先に意識を切り替えたリンが、隣で未だ悩むアンナの腕を掴み怒鳴りつける。


「アンナ!下がるわよ!────何ボーッとしてるの!?ほら、行くわ────」


「……ダメだよ。今しかない……今しかチャンスは無いのっ!!」


 さっきまで揺れていたアンナの目からは迷いが無くなっていた。そして、


「あっ、ちょっと!」


 リンの声が聞こえてないように、アンナはリンの手を振り解き倒れた男の子の方へ駆け出した。




「────ッ、もう馬鹿っ!」


 同じ部隊としてアンナと出会ってから数ヶ月。それでも決して小さくはない友情があるとリンは感じていた。

 だからアンナを置いて自分だけ退がるという選択肢はリンには無かった。


 広域魔法発動までの残り時間は10秒を切っている。

 腰の携行ポーチから魔力回復薬を2本取り出し、直ぐに飲み干す。そして回復した魔力でアンナへ向けて、速度上昇と魔法耐性の付与魔法を飛ばし、自身にも魔法耐性を付与する。


「生き残れたらビンタじゃ済まさないから!」










 リンには申し訳ないけど、わたしはあの子を見殺しにする事を到底選べなかった。


 逸る気持ちに身を任せて更に脚を速める。

 チラと上空を見れば、無線から知らされた広域魔法のものと思われる魔法の円環が展開されていた。

 アレの発動までには間に合う、と予測していつの間にか身体に力が漲っている事に気が付いた。肩越しに見えたそこで、疲れて様な笑みのリンと目が合う。


(いつもリンには迷惑を掛けてるなぁ)


 なんて、申し訳無さと感謝の念が湧く。




 倒れたままのあの子まで残り数メートル。

 

 周りの魔獣は未だ停止中。

 

 まだ、あと少し、間に合────った。




 ポーチから魔力回復薬と体力回復薬を取り出し、男の子に体力回復薬を飲ませつつ魔力回復薬を飲む。

 少しづつ回復薬を飲ませてはいるが、男の子の意識は戻らない。


(間に合わなかった────いえ、胸は上下してるから息はある。よかった)


 命を繋ぎ止められた事により緊張が揺らぐが、上空からの雷鳴の轟を伴った死の予感によってアンナの身体は強張った。

 上で構築中だった円環は幾重にも展開されて、その全てが完成されていた。


 それは即ち、魔法が発動されるという事の証明。


(ヤバいっ、どうにかしないとっ!)


 周りを見渡しつつ打開策を考える。


(とは言っても、魔獣、魔獣、リンは……いないから安全圏まで退がれたのかな。────あれは……)


 分かった事は魔獣による四面楚歌。前後左右どこにも逃げ場は無いかと思われた。

 だが、視線を上げればそこには巨大な黒渦(ゲート)があった。


(確か黒渦は如何なるモノも呑み込むって性質があった……なら、一か八かっ!)


 男の子を抱えて黒渦の真下に潜り込み、有りったけの魔力を消費して防御魔法を発動させる。


「お願いっ、火の精よ我らを護り給へ!」




 直後、強烈な閃光と雷轟、身を裂く様な烈風が襲いアンナは意識を手放した。








◇◆◇◆◇





【 ■■■■■■ 】





「うっ……あれ……ここ、何処だ?」


 目が覚めて、身を起こすと何故か俺は真っ白い部屋にいた。


『目醒めましたかウルカよ。いえ、シンセーと呼んだ方がいいですか?』


 声のした方へ向くと、純白のドレスを着たとても美しい女性が立っていた。


(いや、それよりも今、なんて言った?)


『シンセー。この名で呼ばれるのはお気に召しませんか?』


「なんでその名前を……いや、その前に貴女は?」


『私は地母神、豊穣神、美神、色々と呼ばれましたが、本質的な呼び方なら……テラ。辰星神テラです」


「テラ……その名の神は聞いたことが無い……というか、ここは?俺は死んだのか?」


『ここは、言うなれば魂の休憩所でしょうか。消えかかり、けれども消せなかった灯火には意味がある。あぁ、何のことか分からなくても問題はありません。

 貴方を呼んだのは私で、送るのも私。その前に少し話すだけですから』


 通じてる様で、ズレている。そんな内容だが、生きているということか?と無理矢理納得しかけ、無意識に触っていた腹には穴が開いている。痛みは無いがゾッとしない、なんて感じてる間に話は進む。


『貴方を呼んだのは姉妹の為、貴方を送るのは私の為。貴方も死なずで、みんなWin-Winですね』


 うぃんうぃんとはなんだ、とは尋ねる隙は勿論無く、話は更に続く。


『貴方への願いは一つだけ。どうか死なないで、只 それだけです。死ぬ事は────ないので』


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


『謝罪と感謝を込めて少しばかりサービスしました。それでは健闘を祈ります』


 一方的に告げられて女神との邂逅は終わる。薄れゆく意識の中 最後に浮かんだのは、さーびすって何だ、という意味のない質問だった。








◇◆◇◆◇




【東京三級制限区域:螺旋塔防衛砦】





「……うぅっ、生き……てる?」


 焦げ臭い風に吹かれる中、私は目を覚ました。周りには身体から煙を吹かす金属と液体の魔獣が漏れなく倒れていた。

 なんとか生き残れた、という安堵と共に腕の中の男の子へ視線を向ける。


「ねぇっ!大丈夫っ!?起きてっ!」


 座り込んだまま、男の子の頬を叩きつつ声を掛ける。少しして男の子は呻き声をあげ、目を開けた。


「あっ、良かったぁ!大丈夫!?起きれる!?」


 男の子と視線が合い安堵、しかし続く言葉で数瞬の思考停止を余儀なくされた。




「──────?──────、──────」




 口は動いているし、声も出てるはず。なのに言葉の音が分からない。ただ喋っているということしか分からなかった。

 畳み掛ける様に、男の子の行動を目にして動きが止まる。


 空をなぞったかと思うと、次の瞬間には空いていた手には、青い液体の入った小瓶が握られていた。

 そしてその液体を浴びると、腕の中から起き上がり魔獣の方へ歩き出した。


「まっ、待って!まだジッとしてないと──」


 制止の声を掛けて、彼の袖を掴む。

 すると、男の子は驚いた顔した後に、柔らかく笑って私の頭を撫でて、


「────」


 何かを言って魔獣の方へ歩いていった。


 何と言っているか分からなかったけど、何故か私は、「任せろ」と言われた様に思えた。





◇◆◇◆◇




 白い部屋で意識を失っていた俺は、女性の声と頬への衝撃で目を覚ました。



「───!────!?────!」


 

 さっきの女神には劣るけど、それでも可愛らしげな少女の顔が目に入った。こっちを見ながら何か言ってるけど……。


(うん?なんて言ってんだ?)


 前の世界、ヴェヌスでは聞いたこともない言語だ。



「──、────!────!?────!?」


「君が助けてくれたの?アイツらは、モンスター共は来てないのか?」


 そう尋ねると、その少女は驚いた表情で固まった。


(やっぱり通じないか)


 ある程度は予想通り。少女の言葉が分からないんだから、俺の言葉も通じるわけがない。

 身を捩って、腹部に違和感。

 痛みは無いが穴が開きっぱなし、そんな感覚だったから、〈空間収納(ボックス)〉から治癒薬を取り出して頭から浴びる。

 これで、だいたいの傷は消えただろう。


(武器もちゃんとあるし、今回はこれで────っと?)


「────!──────!」


 何故か知らないが、ズタボロの状態で転がっているモンスター共にトドメを刺そうと歩き出したところで、少女に引き止められつつ何かを言われた。

 きっと、一人だと怖いのだろう。だから俺は、



「俺に任せとけ」



 そう言って、安心させるように頭を撫でて、モンスターのもとへ駆け出した。







「あの黒い穴から魔力が湧き出してるからなのか、ここら一帯は魔力濃度が高いな……これなら多少無茶しても問題ないか」


 魔力の出力上限を決めて、モンスターを殱滅する為の武器達を召喚する。


「〈魔剣召喚(エクイプ)〉『風精剣ストリクス』『水精鎚ネクトン』」


 呼び出したのは二振りの得物。風精霊を憑依させた大剣と水精霊を憑依させた大槌。

 すぐさまそれぞれに指示を出して、地に伏しているモンスターを仕留めるために動き出す。


「ストリクスは配下の雷精を召喚して、スパロテを相手してくれ。ネクトンは俺と一緒に鉄塊破壊だ」


『了解です、マスター。空気液の体には雷撃が効果的ですからね。しかし、お怪我は大丈夫なのですか?』


 風精剣ストリクスが魔剣の状態から風精霊本来の姿へと変化し、虚空から下級風精霊を召喚しつつ尋ねてきた。


「まぁ、万全とは言い難いけどな。けど、コイツ等を放置するわけにもいかないだろ」


『とにかく……続きは全部……終わってから……」


 手に持った大槌からの言葉に頷き、意識を切り替える。


「ネクトンの言う通り、言いたい事はモンスター共を片付けてからだ。

 じゃあ2人共、いくぞ!」


『はい!』『うんっ』


 2人の返事を合図にモンスターの掃討戦が始まった。








【魔獣】


 黒渦の発生の予兆の際に溢れ出る魔力波によって身体構造を変えられた生物の総称。

 他生物のイメージ、自己の願いなどによって特殊な能力を得る。

 例えば、炎を吐いたり、雷を纏ったりなど同種族でも多種多様である。

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