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第三惑星で紡ぐ日常  作者: 火蜂
黒渦と異世界と少年
1/5

1 異世界転移

初心者ですが、宜しくお願いします。


拙い文章なのは大目に見て下さい。

【地下迷宮ヘスペラス:B55】



「クソッ、モンスターハウスに飛ばされるなんてついてねぇッ」


 今回の探索ではフォスフォラス大国の地下に広がる巨大迷宮にて素材集めの為に迷宮攻略をしていた。しかし、未確認領域を探索中に運悪く転移トラップに引っ掛かり大量のモンスターが湧く空間に飛ばされてしまった。


 内心焦りつつも剣筋だけは鈍らせず、身体が酸化魔鉄で構成されたスピログというモンスターを力任せに叩き切る。

 斜めにずれていくスピログの影から、液化酸素と炭素の外殻をもつスパロテというモンスターが氷の魔法を放ってきた。


(拙い、見落としたッ)


 真横へ転がり、辛うじて直撃は避けられた。反撃の為攻撃してきたスパロテの方を見ようとして、新たなスピログの 死角からの一撃を喰らい殴り飛ばされる。


( ──────ッ!!視界が、かす、むッ)


 無様に転がされて上下が歪み、殴打の衝撃で意識が明滅する。

 だが、休む暇などあるはずもないので、無理矢理に身体を起こし反射的にその場から飛び退く。

 直後、複数の錆びついた拳が襲いかかり、それを巻き込む様に氷撃が突き刺さった。土煙が晴れれば、そこには琥珀のようにスピログを閉じ込めた氷塊が出来ていた。


(拙いッ、拙いッ!終わりが見えないッ!)

 

 得物の長剣は金属で出来ているスピログとは相性が悪く、スパロテ相手にはリーチが足りずに刃が届く前に氷魔法を喰らう。

 さながら前衛と後衛の様に区別化されている。何より同種族でも仲間意識が薄いのか、近くのモンスターごと攻撃をしてくる為、反撃の前に追撃が来る。


 先程のダメージが響いたのか、移動をしようとして身体がつんのめった。何が、と思い足元を見ると、いつの間にか片足を氷が覆い地面に縫い止められていた。


(いつの間に、何故気が付かなかった、それよりも何とかしなければ死────ッッッ!!)

 

 焦りを塗り潰す前後からの激痛。浮遊感と回る視界の中で薄ぼんやりと捉えたのは、拳を振りかぶった3体のスピログと砕けて残った右脚だった。


 短くない時間宙を舞い、壁に激突して勢いが殺される。


 もう、呼気すらも出ない。視界左半分は靄がかかり、腹部に発生した微かな冷気の方へ目を向ければ鋭い氷柱が生えていた。


(あぁ、これは駄目だ)


 既に聴覚も視覚も機能せず、四肢を動かす事も出来ない。

 空間が波打つ様な感覚が身体を突き抜け、モンスターの動きが(のろ)くなっていった。

 死の風に吹かれた様に意識という名の灯火は急速に萎みゆく。


 自我すらも消える刹那、モンスターを呑み込む闇がやけにはっきりと見えて────






 ───── 1人の冒険者が迷宮に沈んだ。











 ◇◆◇◆◇



【東京三級制限区域:螺旋塔防衛砦】





「あ〜あ、毎日毎日 代わり映えしないダンジョンの警戒任務なんてやんなっちゃうよ。

 可愛い男の子との出会いの為に特殊防衛隊に入ったのに、男の子どころか魔獣すら滅多に出てこないとこに配属されるなんて。

 きっとこのまま孤独に死ぬんだわっ」


「もう、アンナ。その台詞 今月何回目?耳にタコが出来そうなんだけど。

 それより聞いた?女防衛隊員へ宛てたお見合い募集が対魔東京本部に来たらしいんだけどさ……応募数は驚異の2万超えだって!ヤバくない!?」


 特殊防衛隊の同期である風早リンの話に私は目を剥いた。


「本部って事は全員エリート組でしょ?しかも2万超えって……幾ら出会いが希少だって言っても、ハードル高過ぎない……?」


 高学歴は結婚に有利なのは分かるが、本部勤めになるのはほんの一握りだ。全国の防衛隊員が2000万人程なのに対して本部所属の隊員数は3千人前後。数が合わないのは、きっと噂を聞きつけた本部所属じゃない隊員が多いからだろう。


「もうダメだぁ……やる気どっかいった。

 このままばっくれて早く帰りた────」




 ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!




 現実の厳しさに打ちのめされて愚痴を零した時、緊急警報のサイレンが鳴った。


「えっ?リン、これって……」


「う、うん……多分そう……」


 研修期間の時に座学の授業で習った、黒渦(ゲート)発生時の警報。それによく似ている。


 似ているが、過去を遡っていっても実際に鳴った事は片手の数よりも少ない。

 いや、黒渦自体は珍しくはない。

 珍しくはないけど、警報を鳴らすレベルの黒渦はほんの数回。


 つまり、かなりヤバい事がこれから起こるという事だ。




 黒渦を直接目にした事はないが、その現象の事は知っている。

 頭の片隅から引っ張ってきた知識によれば、黒渦とは魔獣という危険性の高い生物を産み続ける漆黒の穴だという。

 それと同時に人類に奇跡の力を授けたとも。

 それが何処に繋がっているのか、もしくはその穴自体が魔獣を作っているのか、どうやって黒渦を消す事ができるのか、殆ど解明されてない中、唯一分かっている事がある。


 それは、魔獣を放置すれば人類は滅びるという事。


 まず、魔獣の習性だと推測される行動の1つに、男性を狙うというものがある。

 100年以上前に発生した1番最初の災害、太平洋大黒渦によって起きた文明崩壊級の魔獣災害で、世界の男性の約97%が死亡した。 

 当時は日本の総人口が1億5000万人。その6割が男性だったらしいが、災害による死者は8500万人を超し、誇張抜きで日本は崩壊しかけた。他の国も似た様な感じで、地球規模で人類の存続が危ぶまれたと言う。

 しかし、絶望に飲まれる事はなく、そこからの対策は迅速であった。男性の保護を最優先とし、次点で対魔獣武力の強化、長期間の人工授精による出産の義務化など、とにかく必死になって人類は動いたらしい。

 

 そんなこんなで緩やかに、確実に人類は増えていったが、太平洋大黒渦の発生以降の、およそ1世紀の間にも2回の大災害が起きた。

 それによって、世界の総人口は40億人弱、生活可能な土地は陸地に対して3割程にまで減ってしまい、残りは全て魔獣が蔓延る魔境と化した。


 地上も、地中も、空も、海も。


 もしかしたら宇宙空間さえも。


 現代の支配者は人類に代わり、魔獣が君臨する様になった。




 そんな、発生時の全てにおいて歴史の転換期となっている文明崩壊級の黒渦が、




 今現在発生しようとしている。




『総員戦闘準備ッ!魔獣と会敵次第、対象脅威を排除せよッ!繰り返す────』


 無線から流れる戦闘許可の指示がやけに遠くに感じる。


「アンナっ!何ボーっとしてるのっ!早く隊長の元に行くよっ!」


「あっ、そ、そうだねっ」


 リンの叱咤で、意識がハッキリする。いきなりの事態でパニック気味になっていたようだ。

 早く隊長と合流しないと怒鳴られる、そう思い移動しようとした時にそれは起こった。







 何かが身体の中を通った。






 いや、今も尚通っている。






 地震に似ているようで、決定的に違う。






 身体ごと、もしかしたら空間ごと揺れている。






 圧倒的なまでの死の予感に、否が応でも理解さ(わから)せられる。






 これが、これこそが黒渦。







 パキッ、という小さくもハッキリとした音と共に地獄が始まった。






 ◇◆◇◆◇



 何処を見ても、怒号が飛び交い、死が這い回る。




「衛生科兵は至急 治癒魔法を掛けて戦場を巡ってッ!」




「魔法準備ぃ!遠距離持ちはカウント2で斉射ッ!ワンッ、撃てぇぇッ!!」





「死にたくなければ、戦死した者も壁として使えッ!」





「おいッ!援軍はまだかッ!あと1時間も保たないぞッ!」






 耳に入る音はどれも絶望に染まっている。聞くだけで気が狂いそうになる。


「ねぇ!リンッ!生きて帰れるよねッ!」


「きっと!きっと大丈夫ッ!」


 焼け石に水と分かりつつも、未だに湧き続ける魔獣に向けてリンの雷魔法と共に炎魔法を放つ。

 お互いに励ますが、結果は分かりきっている。リンの顔は死人の様に青白く、目からは止め処なく涙が流れていた。きっと、私も似た顔になっているだろう。


「あ、あんな魔獣資料でも見た事がないよ……!」


「うん……非生物型魔獣、と言えばいいのか……明らかに過去にいないタイプ、しかもレベルⅣの魔獣並みに強い……」


 実戦科目はそれ程だが、魔獣の資料をほぼ全て覚えているリンが言うのであれば間違いない。

 そんな、弱点も何も分からないのに、1匹に対して最低でも4マンセルで対応しなければならないレベルⅣ並みに強いという。

 私達みたいな魔法型の防衛隊員は魔獣との距離がかなりあるが、それでもヒシヒシと強さを肌で感じる。


 近接格闘型の隊員が苦戦している金属質な魔獣は、球体から伸びた触手の先が金属塊となっているヒトデみたいな形をしているが、剣撃も銃撃も打撃も動きを鈍らせるだけで効いている様子を見せない。


 奥から氷の魔法を放っている魔獣は、頭部の無い3本脚の人型だが、身体が液体なのか、奥の景色が透けている。


 魔獣というのは、既存の生物が進化したという説がある。それは、どこまでいっても前提として血と肉で出来ていること、すなわちあくまでも生物、獣であるという事だった。

 あれらは違う。まるで物質や現象が具現化した様だ。防衛隊員は日々 対生物を想定して訓練している。金属の切り方や水の殺し方なんて知らない。


 だから、隊長クラスの魔法でも、せいぜい部位欠損がいいところで殺すには至れてない。


 無心で魔法を撃つが精神的な疲労が強い。アンナを見ても額に脂汗を浮かべて応戦している。けど、なんとなく感覚で分かる。もうすぐガス欠になる。


「り、りん……も、もうキツい……ッ!」


「あたしも……そろそろ限界だから……魔力が切れたら、一旦下がろう、か……ッ!」



 正直、今すぐにでも下がりたい。けど、魔法型の後退が許されるのは、魔力補給と欠損レベルの怪我の時のみ。

 だから、身体中の魔力を集め精錬する。リンも同じく魔力を練っている。最後に放つのは現状で1番威力のある魔法。その為に魔力を練って、練って、練って──────



「 ──────喰らえぇぇぇえええッ!!」


「 ──────はああぁぁぁあああッ!!」



 同時に放った炎と雷の魔法は混じり合い、極太の雷炎のレーザーとなって射線状の魔獣に大打撃を与える。

 もう、小指の先ほども魔力は残ってない。

 隣のリンも肩で息をして、今にも倒れそうだ。リンと目が合い、口に出さずとも互いに退こうという思いが伝わった。

 魔力切れで重く感じる身体に鞭を打ち、黒渦に背を向けて後退しようとした、その時。









 パキィィィィィッッ!!








 今日 2度目となる高音。

 まるで空間が割れたような破裂音。

 地獄の始まりを告げた音。


 一目散に逃げたかったが、思わず振り返った先にソレは見えた。





 黒渦から1つの影が落ちた。


 ソレまで何十メートルの距離があるだろうか。


 近い訳でもないのに やけに鮮明に見えたのは、雷炎魔法の射線上だけ魔獣が軒並み倒れていたからだろうか。


 それとも男女比故に接した事が無い為、その姿を幾度も夢想したからか。


 見間違いで無ければソレは──────






「リン、今のって……」


「え、えぇ……」






 ──────小さな男の子だった。







【地下迷宮ヘスペラス】


 鈍角の円錐型に広がる迷宮。深度に比例して、1層あたりの面積とモンスターの強さが増す為最深部まで到達した者はいないが、それでも過去の資料の中にはB158という観測記録がある。


 未だ詳しく解明はされていないが、過去の記録よりも1階層あたりの面積が広がっている事から、徐々に成長していると考えられる。



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