SweetStrawberryRondo5
2020/03/01 2OL《expo》参加に伴い、前回の2OL名古屋で頒布したヤツを公開してなかったのに気づき、慌ててうpさせてもらいました
「ぅへぁ……最悪だ」
平日の昼下がり。
わたし、栗村悠翠は気分が落ち込んでいた。
というのも……
「カノジョ!おヒマですかぁ?♪」
繁華街の一角で、クシャクシャなアーミージャンパーにくたびれたTシャツ、これまた年季の入った?チノパンな格好の、ちょっとヤバめなナンパ男に絡まれていた。っていうか、絶賛絡まれ中。
「暇じゃありません!」
語気を強め、お断りしているのだけど。
「待ちぼうけ食らってるんっでしょお?聞こえちゃったんだよねぇ」
10分程前。
友人との待ち合わせで、繁華街に来ていたわたし。
久しぶりに会う友人に思いを馳せ、格好も気合が入っていた。
何時ものポニテを下ろし、肩甲骨下まである黒髪。小さい眼を隠すための、ファッションサングラス。白基調のトップスに、ジーンズブルー(でもジーンズではない)のボトムパンツ、ちょっと高めのピンヒールで、出来るオンナってのを表現してみました。
それなのに、いつもなら先に来ている彼女が、今日に限って待ち合わせ時間を過ぎても現れなかった。
(何かあったのかな)
時間に厳しい彼女なのに……さすがにおかしいと思い、連絡してみようと携帯端末を手にした矢先、その端末からメロディーが鳴り始めた。
「直電?」
着信の媒体によって、着信音をカスタマイズしているわたしは、その音で判断すると同時にディスプレイの表示を確認した。件の彼女からだ。何時もは、SNSで連絡してくるのに?
「もしも……」
『ごめん!!』
こちらの応答が終わらない内に、彼女から謝罪の言葉が飛んできた。
「どうしたの?」
『実はさぁ……さっき事故っちゃって』
「……はぁ!?」
『正確には、事故られたと言うか、突っ込まれた』
ちょ、事故って……大事じゃない!
「大丈夫なの!?怪我してない?」
『うん、真後ろからドーン!だったから、怪我はないよ』
「そっかぁ……良かったぁ」
『つーかさ、怪我とかしてたら電話なんか出来ないっしょ』
それはそうか。
『んで、今までゴタゴタしてて漸く連絡できたのよ。今日は行けなくなっちゃってゴメン』
「仕方ないね。事故処理は終わったの?」
『今、愛車がドナドナされて行ったとこ。相手とは、保険屋が間に入って交渉中』
「所定の処理は無事に済んでるのね」
『そりゃあ、アンタに色々な話聞いていたからねぇ』
わたしが色んな心配をする理由。
バスガイド何ぞをやっているせいか、事故に関する講習なんかもドライバーさんたちとともに受けたりするので、事故というワードには敏感だ。
ひっきりなしに謝る彼女を宥めて、通話を終える。さてどうしようか……と、ぽっかり空いてしまった予定を思案していた矢先、先のナンパに引っかかってしまった……というわけ。
「どう?とりあえずお茶でも。いい店知ってるよ♪」
「間に合ってます!」
更に声を荒らげてナンパを拒否。それがまずかったようだ。
「お高く止まってんじゃねーぞ。何様だ」
どうやら、ナンパ師様の逆鱗に触れてしまったようだ。
そんな時、何処からか声が私にかかった。
「ごめーん、待たせたね」
「???」
整ったショートレイヤーヘア、カジュアルなテーラードジャケットにポロシャツ。スリムなジーンズという出で立ちという、ちょっと爽やかな風貌の男性の登場に、私はプチパニック。
「待ち合わせ場所勘違いしちゃって、遅れちゃった」
そう言いながら、私とナンパ師の間に割り込んでくる。
「ど、どちらさま……」
(シッ、話合わせて)
どなたか知らないから抗議しようとしたら、そう言って耳打ちしてきた。
「いやぁ、この辺ちょっとわかりずらいよね?」
「え、あ、あぁ!そ、そうだね」
取り敢えず、言われた通り相手の話に相槌を打つ。
「おいテメェ、人様のカノジョに何してくれてんだ、アァ!?」
ナンパ師様、逆上されております。そりゃそうだよね。獲物を横取りされたんだもの。当然だよね。
「アンタこそ何だよ。人のオンナに手を出そうだなんて」
「!?」
え、わ、私いつ貴方のオンナになりました!?
仮にとは言え、そんな台詞がポンと出てくることに赤面してしまった。
「冗談じゃねぇぞ。ブチ殺してやる!」
ぅわー、ナンパ師様の本領発揮です。こういう状況になると、たいてい化けの皮剥がれる。ホント、この手のナンパ師って狡いヤツばっか……って、あの人が危ない!
「……」
そう思ったのもつかの間、殴りかかってきたナンパ師様をヒラリと避ける彼の人。その直後、ナンパ師様が何故かグルっと回転して道路に転がった!
「何コケてんすか笑」
「てんメェ?、何やりやがった!」
「アンタが勝手に転んだだけでしょ」
「しゃらくせー!」
起き上がったナンパ師様が、もう一度殴りかかる……が、先程のシーンをリプレイで見ているみたいに、同じ展開が繰り広げられた。
「クッ、怪しいワザ使ってんなぁ!」
「まだやるの?いい加減どっか行って。さもなくば、通報するけど?」
そう言って彼の人はスマホを片手に持ち、画面をナンパ師に見せてきた。角度的に私にも見えたのだけど、「110」と既に表示されていて、通話ボタンを押すだけの状態になっていた。あの状況でいつの間に!?
「……チッ、覚えてやがれ」
お決まりの捨て台詞を吐いて、ようやくナンパ師様ご退場。二度と来んな。
「大丈夫だった?」
ナンパ師の姿が見えなくなって、私に声をかけてきた彼の人。
「あ、はい。大丈夫です」
「ゴメンね、急に声をかけたりして」
「あの状況は仕方ないです。ホント助かりました」
声をかけてくれなかったら、今頃どうなってたんだろう。想像するだけで怖い。
「あ……ちょっとギャラリー増えてきちゃったかな」
彼の人が、あたりをみまわす。騒ぎを聞きつけたんだろうか。いつの間にか人垣ができていた。別の人に通報されちゃったかな?
「落ち着くために、近くのお店入ろうか。ナンパみたいで申し訳ないけど笑」
「いえ、大丈夫です。お礼もしたいし……」
「それは良いんだけど……とりあえずお茶が飲めるところで落ち着こう」
彼の人の台詞をきっかけに、私達は近くの喫茶店に移動するのだった。
◇
「……ということがありましてぇ」
翌る日のさくや観光バスガイド控室(という名のガイド寮空き部屋)。
その日集まっていた暇人(じゃない人もいるけど笑)ガイドたちの前で、昨日の事の顛末を話す私。
「大変だったんですねー」
とは、ガイド二年生の鶴見美佐ちゃん。一番下っ端ながら、なかなか評価の高い後輩ちゃん。若干私より背は低いせいで、皆んな妹のように扱っている。お団子頭が特徴だけど、たまにおろしているときがある。
「もーナンパ野郎がしつけーのなんのって……」
「ハルちゃん、言葉遣いがヤバイよ。イエローカード」
そう指摘してきた、宮下佳奈子先輩。私の一個上の先輩だ。若手では一番人気のある先輩で、私が尊敬するガイドの一人。背は同じくらいで、聖子ちゃんカット風なミドルボブがトレードマーク。
「ま、そういうナンパな輩は何処にでもいるしねぇ」
「気をつけるしかないな」
そう助言?する新澤珠美&蓼原秀美両先輩。大ベテランなお二人です。ミニマム&トールな凸凹コンビの大先輩。二人は同期で、現役の中ではトップ。珠美先輩は肩ぐらいまで伸びたサラサラなストレートヘア(羨ましい)で、秀美先輩は体育会系的なベリーショートと、此処でも凸凹?です。
「で?その殿方とは、どこまで行ったの?」
珠美先輩が、食い付いてきた。予想の範疇です。こういう話大好きだからなぁ、この人。
「何もありませんよ。お礼にお茶しただけですし」
「なぁ?んだ、つまらん」
いい歳して、子供なんだから。
「何を期待しているんですか、タマちゃん先輩」
「タマ言うな佳奈子!だって、そこから始まる恋ってのもあるじゃない?」
「ドラマの影響受けすぎです」
それには、私も激しく同意。
「いいじゃないのみさっぴ。ありふれた日常とは違う、非日常な刺激が欲しいのよ。わかるでしょ?」
「そんなに歳重ねてないのでわかりません」
ぅわー、言うねぇ美佐ちゃん。
「ほぅ、このわたしに喧嘩を売る気かね」
「そんなこと言ってると……」
「んん?」
美佐ちゃんのセリフが気になったのか、ふと後ろを振り向いた珠美先輩。そこには、彼女を睨む(ように見える)秀美先輩の姿があった。
「……」
「ひっ!!」
それを見た珠美先輩は、それ以降大人しくなった。秀美先輩に、何か弱みでも握られてるのかな?
「タマちゃん先輩じゃないけど、ホントにお茶だけで終わったの?」
佳奈子先輩までも食いついてくるとは。ちょっと想定外だ。
「そうですよ?向こうに用事が出来て、すぐ解散となりましたから」
「自己紹介とかも無かったんですか?」
「……あ、そういえばしなかったなぁ。あまり時間が無かったのもあるけど、ナンパ師狡いとか、その手の話で盛り上がっちゃったから」
「……ふむ、脈はある、と」
「珠美先輩はどうしてそっち方面にもっていきたがるのっ!?」
そんなどうでも良い話でワイワイやっているところで、控室の内線電話がジリジリと鳴り出した。
「はい、ガイド室……え、栗村さんですか?いますけど」
電話を受けた美佐ちゃんが、私の名前を言うと共に、受話器を差し出してきた」
「運行課からです」
「私に?ありがとう。……はい、替わりました、栗村です」
『満水です。そちらにいましたか』
あれ?私が受けたの、運行からの電話だよね?通話相手は、何故か経理担当の満水通江さんだった。
「課長じゃないんですか?」
『あぁ、すみません。今ちょうど此処で別件の打ち合わせをしていたものですから。えっと、明日の貸切の件で、向こうの添乗員さんがお見えになったとのことなので、打ち合わせに同席していただきたく、此処から内線をかけてもらいました』
「あぁ、はいはい。例のアレですね」
私の明日のお仕事。他所の旅行会社の貸切仕事が入ってるんだった。ウチの会社(さくや観光)は、基本的に自社受けで貸切も募集ツアーもやるのだが、たまにヘルプで他社の貸切のみ受ける場合がある。他社様の仕事なので、前日に打ち合わせが出来るのはありがたい。自社でもその方が嬉しいんだけどねぇ。ねぇ、聞いてる?そこの営業担当者様!
「で、何処へ行けばいいのですか?」
『玄関横の、応接スペースまでお願いできますか』
「了解です」
そう満水さんに告げると、内線を切った。
「お仕事?」
珠美先輩が聞いてきた。
「明日の打ち合わせです。先方の添乗さんが会社に来たようなので」
「自社便じゃないからねぇ。疑問に感じたことは、全て聞いておいた方がいいよ?」
とは、佳奈子先輩の弁。
「担当がミスターTなら、口撃でフルボッコしますけどね」
過激な発言をする美佐ちゃん。
「美佐ちゃんも言うようになったねぇ。おねいさん、嬉しいやら悲しいやら」
「わたしの教育の賜物だね!」
「タマちゃん先輩にはイジメられた記憶しかありません」
「そんなことないでしょ!?秀美と一緒にアレコレ教えたよね!?」
「私はタマのフォローしかしてなかったが」
「ひぃ〜でぇ〜みぃ〜……(泣)」
何故かここで漫才勃発。このままだと収拾がつかないので、佳奈子先輩に後をお願いして私は玄関に向かった。
後方から、何故か珠美先輩の怒号が聞こえた気がしたが、気にしない方向で。
◇
「失礼します」
言われた通りに、会社玄関を中に入った横の、簡単な応接スペースにやってきた。会社への来客には、基本的にはこの場所で応対する。すぐ隣には、事務のカウンターがあり、初動の対応は主にそちらだ。
「お待ちしてました。どうぞ此方へ」
満水さんから椅子を進められ、着席する。相変わらず綺麗なストレートロングだこと。背も若干高めで、切れ目な瞳。クールビューティーとは言い得て妙だ。
「織恵さん。明日の仕事に乗務するガイドが参りました」
そう満水さんが告げると、対面に座って書類仕事をしていた女性が顔を上げた。
(あれ?どこかで……)
彼女の顔を見た瞬間、何かが引っかかった。つい最近、この人を何処かで見た?
「初めまして。スターライトトラベルの織恵明日茄と言い……ま……す?」
向こうも同じ思いだったようで、何故か挨拶が尻つぼみになっていった。
「もしかして、昨日の……?」
均衡を破ったのは、向こうだった。
「昨日って……何処かでお会いしました?」
「人違いだったら申し訳ないけど、昨日〇〇駅近くでナンパに絡まれてなかった?」
「はい。確かに絡まれてましたが」
「それを助けたの、わたし」
「……はいぃ!?」
「あの時はゴメンね。急な用事で、お茶も満足に出来なくて」
「え、え?いあ、だって、助けてくれたの男の人で、目の前の人は女性で……」
衝撃的な事実に、私は大混乱。だって、あまりにも風貌が違いすぎるよ!?目の前の女性は、白いフリルブラウスに黒のパンツスーツという、如何にも添乗員という出で立ち。パンプスも履いていらっしゃっていて、昨日の爽やか系な青年とは全然イメージ違うんですけど!?
「ほ、ホントに昨日の方……なんですか?」
「あー、わたし、仕事とプライベートではイメージがまるっきり違うらからねぇ。よく驚かれるんです」
「それにしても違いすぎます!しかも女性だったとは……」
珠美先輩じゃないけど、ここから始まる恋心……は儚い夢だった。
「あの、お二人はお知り合いですか?」
ここまで空気状態だった満水さんが、ようやく会話に参加して来た。
「いえいえ、たまたま昨日街で偶然出会っただけです」
「まさかその人が、さくや観光さんにいるとはねぇ……世の中狭いね」
「あ、改めて……その節は大変助かりました。ありがとうございました」
男女の違いはあれど、助けてもらったことは事実なので、この場で改めてお礼を述べる。
「そんなのはいいんですよ。わたしもあの手は大嫌いですし。偶然でも、見てしまった以上は放っておけないですから」
「そんな事があったんですね。盛り上がってるところ恐縮ですが、打ち合わせを始めてもよろしいですか?」
満水さんの発言を機に、明日の打ち合わせが始まった。
◇
それ以来、スターライトトラベル(以降SLTで)様から、頻繁に仕事がまわってくるようになり、営業のチーフから感謝されると共に、こんな事を聞かれた。『俺たちが幾ら営業頑張っても、精々年一回の仕事だったのに、何をした?』と。
そんな事、私も知らないよ。きっかけは多分、織江さんと出会った事だとは思うんだけど。でもそれだけ。私が何かしたわけじゃない。ガイドとして、当たり前にに仕事をしてきただけ。その辺りは、珠美先輩の教えの賜物でもある。その当たり前のレヴェルがハンパないんだけどね(苦笑)。
ただ、最初に私が乗務した仕事で、お客様から多大なる感謝をされた記憶はある。……もしかして、そのせいなのか?うーむ、自惚れにも程があるか。
さらに言えば、SLT様から来る仕事の殆どが、私のガイド指名というオマケ付き。どうしてこうなった!?ガイドなら、佳奈子先輩やら珠美先輩という出来る先輩がいるのに、何故に私なのか。解せぬ。
「どうしてなんです?」
「何、突然どうしたの?」
今日も今日とて、仕事を共にする織江さんに、休憩を見計らって疑問をぶつけてみたが、伝わっていなかったようだ。
「どうして、ウチに仕事をくれるようになったんですか?」
「あぁ、その話ね……」
主語が入っていなかった疑問を再度ぶつけてみたところ、織江さんはようやく理解したようだった。
「お客様のウケが良いんだよね、さくや観光さんは」
「でrも、今までは殆ど仕事したことありませんよね?」
営業も言ってたけど、私達ガイドがSLT様の仕事をした記憶は、殆ど……というか全くない。
「確かに。でも、今まではガイドが付かない仕事だったから」
そう言われ、あぁ、と言いながら手をポン!と叩く私。それじゃ、記憶に無いのも当然だ。
「今まではわたしが一人添乗で何とかしてきたけど、流石に限界を感じてね。初めてガイドさんを頼んだのが、ハルちゃんと初めて一緒に乗ったあの仕事なの」
ほぇ?そうだったんですね。
もぅ、織江さんと何度一緒に乗務したかわからない。いつの頃からか、織江さんは私のことを「ハルちゃん」と呼ぶようになっていた。私の事をそう呼ぶのは、他には佳奈子先輩しかいないので、初めて呼ばれた時は、妙に嬉しかったのを覚えている。
「あの仕事が大成功でね。次も確か頼んだでしょ?」
「あ、ハイ」
「ハルちゃん、ウチのお客様と相性が良いみたいでね。他のガイドさんだと、どうもウケが良くない……あぁ、他のガイドさんが悪いわけじゃないよ?さっきも言ったけど、相性の問題なのよ。それは誤解しないで」
そういうの、わかる気がする。
「それで、殆どが私の指名になってるんですね」
「そういうこと。……建前はね」
「は?」
建前?ドユコト?まだ理由があるんですか?指名に関して。
「実はぁ、わたしが気に入っちゃったの。貴女の事」
「……はい?」
ドウイウコトデショウカ?
「色んな人と仕事してきたけど、ハルちゃんほど仕事がやりやすい人は、今までいなかった。もう、運命感じたね」
「運命って何ですか……」
ワケワカンナインデスケド。
「もうね、ハルちゃん覚えたら他の人となんて……」
ヤバい方向に持ってかないでください。
「もう、他の人と仕事したくない。あ、そうだ!いっその事、わたしの会社に来て添乗員やりなさい。はい、決定」
「決定じゃありません!」
どうしてそんなことになるんですか……ん?今、なんて言った?あの人。
「あの?、つかぬ事をお聞きしますけど」
「何?改まっちゃって」
「SLTって、従業員はどれ位いらっしゃるんですか?」
「何故そんな事を聞くの?」
質問を質問で返された。
「先程の発言に、気になるところがありましたので。『わたしの会社』という……」
「あぁ、それで……いないよ?」
「……は?」
ナニヲイッテイルノデショウカ、コノヒトハ。
「従業員は、わたしだけ。個人経営」
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!?」
なんという事……SLTって、小さい会社だったの!?その割には、頻繁に仕事ありますよね?
「今までお一人でやってこられたのですか?」
「正確には、父の会社……だったのを継いだの。数年前に亡くなったのでね」
なんか……ヘヴィな話になってきたよ?
「顧客は、父の人脈よ。それを、何とか今日までやって来た。女だからって、ナメられないように色々努力もした。何時ぞやの格好は、その為。新規顧客の営業中だったのよ」
あの格好で営業……ですか。性別関係なく門前払いされそう。
でも、色々頑張ってこられたんですねぇ。
「だから、ウチに来なさい。今なら副所長よ」
何故そうなるんです!そんな自動的についてくるポスト、いりませんから。
「ガイドとして、まだまだ勉強中なのに、引き抜きには応じられません」
「今すぐじゃなくても良いわよ?何年後でも、わたしはウェルカムよ」
そんなに気に入られてるのは嬉しいですが……。
「現時点では考えられません。会社の雰囲気が好きなので」
そう言って、休憩所を出ようと椅子から立ち上がった時、急に織江さんの顔が近づいてきた……と思ったのもつかの間、何故か唇に柔らかい感触が。
「わたしは、一度狙った獲物は逃がさないわよ?」
そう言い残して、織江さんが休憩所から出ていった。一瞬、何が起こったのかわからなかった。今の一連のシーンを思い出しながら反芻。
「!!」
キスされた!とようやく気付いたのは、数瞬後。
(獲物って……私!?)
いやいやいや!
何故!?
レズとか百合とか同性とか、興味ありませんよ!?
何故こんな展開に!?
いつの間にか、私は織江さんの獲物に認定されていたようだ。
(運命とか何とか言ってた気がするけど……えー)
この日から、織江さんとどう向き合えばいいのか、私の中で心の葛藤が始まったのだった。
To be continued...?
良かったら、2020/03/01の2OLに遊びに来て下さい
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