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魔獣が主人を選ぶ時  作者: 猫淵光
出会い
10/11

母親の死

母親はゆっくり目を開けて、弱り切った声で虎に話しかけた。


「あの子をお願い… この子たちはあの子の支えになるはずよ…。」


「何をしているんだよ!我が子大事に身を滅ぼすつもりか!」



そこには小さな赤い小鳥がいた。



「もういいの。助からないのは分かっているわ。いずれはこうなると思っていたし…。ユーリアは?」



 白虎が握る手は震えている。



「ユーリアお願い父さんのところへ連れて行って。表面だけでいいから傷を治してね。彼に会うのにこの姿じゃ嫌なの。」


「分かったわ…。」



 泣きながら、母親の傷を治していく、治療していれば分かる。何故生きているのか不思議なくらいだ。

 屋敷に移動して、母親の望みである父親と最後の別れをさせる。



少女は治療院の父親の書斎へと入った。



「お父様?いる?」


「ユーリア!一体いつまで遊んでいるつもりだ。お前の魔力を感じて起きてみれば、寝室の窓は壊れているし!」



赤髪の執事によっては隠蔽工作が行われ、少女は夜中に目が覚めたので、白猫と遊びに行くと出て行った事になっていたようだ。



「あのね、その事でお話があるからついて来て欲しいの。お願い!少しの時間だけでいいから!」



父親は娘の姿を見て何かを感じたようだ。

手や服が血だらけで、目も赤く泣きはらしている。


父親は頷くと手に持っていた書類を置き、少女の後についてくる。




少女が向かった先は父親達の寝室だった。



「ユーリア?」



父親は不思議そうに、少女の顔を覗く。



「ここの扉を開けて?」



父親が扉を開ければ、そこには白猫が寄り添う母親の姿があった。


ビャッコによって着替えさせられた母親は、お気に入りの赤いワンピースを来て、椅子にもたれかかっていた。



「エルノ。」



母親は合わない目の焦点で父親の魔力を感じ、笑顔を

見せた。



「どういうことだ?ユーリア?」


「いいから早く行ってあげて!」



母親は表面上はきれいになっているが、体の中はズタボロだった。治癒魔法に耐えるだけの血も魔力も何も残っていない。

残された時間は短いのだ。


父親はそっと母親に触れて魔力を流すと、悔しそうに唇を噛み、片方の拳を血が出るくらい強く握りしめた。



「分かったユーリア。」


「白猫ちゃんおいで…」



少女はビャッコに手を差し出すと、ビャッコがこちらに来た。


少女が静かに扉を閉めようと背伸びをすると、そっと後ろから手を添えられた。



「クラウディア様は?」



後ろを振り返れば、赤い髪の執事だった。少女は問われた事に答えられず、泣きながら首を横に振った。


執事も父親と同じように、悔しさを滲ませている。

しかし、少女に手を伸ばし抱き上げてくれた。


少女はその体温に身を委ねて、声なく泣いた。



ある程度泣くと、部屋から父ががやってくる。



「エメレンス、ディオンを大至急呼べ!」


「はっ」



呼ばれた兄と父親が部屋に入り、少女が扉の外で待っていると声がかかる。



「ユーリア、母さんが呼んでいる。最後はお前に看取られたいと…。ここからは女同士で話すことがあるそうだ。」



 父親は泣きながら部屋を出てくるとそう告げて、どこかに行ってしまった。


兄が後から出てきて泣きはらした目で微笑み、少女の背中を撫でると、扉を開けてくれた。



『エメレンスとビャッコもおいで…。』



母の念話が聞こえ、3人は部屋へと入った。





『ユーリアあなたには言わなくてはいけない事があるわ…』


『うん。』


『あなたに神話を話した事があったわね?覚えている?』


『うん。』



母親は痛みに耐えながら、笑顔を作る。



『私はその南の地を守護するスザクなの。あなたは半獣の身なのよ。』


『うん。』


『あなたはこんな時まで、物分かりがいいのね。こちらに来て、頭を撫でさせてちょうだい…』



少女は移動すると、母親の手を取り頭に手を置く。

力の入らない手を少し動かして、母親は微笑んだ。



『いつもいる白猫は、西の地を守護するビャッコ。お母さんが持つ召喚魔石を手に入れるため、いつも狙っているのよ…』


『クラウディア、その話はいい。』


『クス、事実でしょ。あなたの最愛の人の魔石でしょ?』


『そんな事どうでもいい。あの勝ち気な女がどこに行ったのだ…』


『ふふ。勝ち気ね…。ビャッコあなたに魔石を返すわ…。私はもう彼女を守れなくなった。』


『だから、今はその話はいい。』


『分かったわ…。ではビャッコお願いがあるの…。この子が成人するまででいいわ。

そばにいて守ってあげて?あなたの実力は分かっている。

だから頼みたいの…。』


『…。』


『まあ、考えてみて…。それからエメレンス、この子をこの家の柵から出来るだけ守ってあげてちょうだい。

私が居なくなってからも、この子の場所を作ってあげるために、この家に仕えて。

ごめんなさいね…。』


『分かりました。元より私はこの家に留まるつもりでしたよ。あなたのお子の成長を見届けます。』


『ありがとうエメレンス。』



母の焦点の合わない目から、無数の涙が落ちる。



『ビャッコにお願いよ。南の私の島に連れて行って…。私はエルノに死ぬ姿を見られたくないの。ユーリアに看取ってもらえればそれでいい。』


『分かったさ…行くぞ!』


『うん。』



エメレンスは頷くと、寝室の窓を大きく開け放つ。


ビャッコは母を抱え、少女はしがみつき、白い虎が空をかける。






 母親が指定した南の島のシュペルノヴェイルに近い高台へ下ろすと、母親は少女の手を取った。



「ユーリアにはこれを…。」



5つの召喚魔石が渡される。



「これは、私の大事な仲間たちの魔石よ。」


「仲間?」


「そう。色が付いていないのは、魔力持ちの人間が死んだ時にできるの。私と共に戦ってくれた人間たちの魔石。」



母親はポロポロと涙を流す。



「ビャッコ。私の魔石はお願いね。この子の手に余るわ…。」



神獣とも呼ばれるスザクの魔石は、強大な力を持つのだ。

その力を感じ取って、集まってくる輩がいれば、少女の力ではすぐに消されてしまう。

白虎は頷く。



「ユーリアあの人の事よろしくね…。父さんによく似た髪色と私に似た目…。きっと美人になるわよ…。あなたも良い人に巡り合えますように…。」



 最後に微笑んだ母親から光が溢れ、それを少女受け止めると、少女を握る手には力が入らなくなった。



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