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3話 それが友人というものなのでしょう?

「さて、と」


 朝食の片づけを終え、洗い終えた食器を水切りカゴに立てかける。

 平日ならば、これから学院に登校する時間ではあるが本日は土曜日、部活に所属している訳でもないので休みである。

 朝食後に、少し落ち着いて情報を整理したいと言い客間に戻った彼女の事も気になる。


「姉さん、彼女の事をどうするつもりですか?」

「どうしたもの、かしらね」


 姉自身、預かるとは言ってはいたものの、何か考えがあった訳では無いようだ。


「まだ聞いていない情報も沢山あるだろうし、かといって落ち着く間もなく根掘り葉掘り聞くのもね……」


 確かに自身でもわからない事ばかりだというのにあれこれ聞かれても困ると思う。

 異世界転移、なんて物語なんかではよくある話だけれど、真偽の程はさておき実際に転移した人なんて初めて見たし……

 少し考えてから口を開く。


「今度は私が話をしてもいいですか?」


 解らないなら聞けばいい、あれこれ悩んでいても仕方無いもの。


「そうね、私だとどうも事務的な詮索になってしまうから、榛香の方が適任かも。わかった、それじゃ、私は昨日の魔法陣の痕跡の方を調べてみるから。彼女の方はお願いね」


 そう言い残し、そのまま自室へと去っていった、調べるのに必要な道具でも取りに行ったのだろう。


「私も行こっか」


 エプロンを外し壁のフックに引っ掛け、そのまま客室へと足を向ける。

 客間のある離れへ向かう渡り廊下を通っている時だった、ふと視界の隅に陽光を受けて輝く紫銀の髪を靡かせた少女が何をするでもなく縁側に腰掛け、庭を眺めているのを見つけた。

 物思いに耽っているのか、胸に手を当てわずかに瞼を伏せた憂いを帯びた横顔はただひたすらに綺麗で、とても同じ人間だとは思えない。

 そういえば異世界人って同じ人間の括りなのだろうか?と他愛も無い事を考えしまう。


「…………エルフィリアさん、大丈夫ですか?」


 遠慮がちに声を掛ける。


「榛香様……えぇ、大丈夫です。少し、考え事をしていただけですから」

「そうですか………」


 自分に置き換えてみればよくわかる。

 知らない世界に飛ばされて、誰一人知り合いの居ない状況になれば途方にも暮れるだろう。


「私に、何か御用でしょうか?」

「えっと……話がしたいといのもあるけれど、先に家の案内でもしようかなと思いまして、どうですか?」

「お気遣いありがとうございます。それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「はい、喜んで。では行きましょう」


 そう言って榛香はエルフィリアの手をそっと掴んで起こしそのまま歩き出す。


「あ………」

「ん?どうかしました?」


 よくわからないけど少しはにかんで嬉しそうにしている。

 暗い顔をしているよりはいいのだけど、ふわりと花が開くように綻んだその笑顔に新たな扉を開きそうになる。

 同性なのになんという破壊力……


「私、両親とお姉様以外にこうして手を引かれるのは初めてで……なんか、懐かしくて安心します。ありがとうございます、榛香様は優しい人ですね」

「そうですか?姉さんも時々厳しいですけど優しい人ですよ」

「ふふっ、そうですね。あの人も優しいです、どことなく私のお姉様にも似ている気がします」


 懐かしそうに眼を細めて語ってくれる。

 淑やかに微笑むその姿に、姉の事を本当に大切に想っているのだとわかる。

 色々と話を聞こうと思っていたけれど、別にいいかなと思ってしまう。

 他愛のない話に花を咲かせながら敷地内の案内を終える。


「そういえば、その服って姉さんの服ですよね?」


 改めて見れば見覚えのあるそれは姉の服だとわかる。

 体型的にも私より少し身長が高い姉に近いので姉の服を貸すのはわかる、シンプルな白のブラウスに薄いブラウンのロングスカート、彼女の容姿も相まって良い所のお嬢様に見える。


「ええ、私のローブだとこちらだと目立つと言われて雅様が貸して下さったのですけど、おかしいでしょうか?」

「いえ、よく似合っていますけど……そうですね、午後に一緒にお買い物に行きませんか?」

「お買い物、ですか」


 そう言った瞬間、何が彼女の琴線に触れたのかわからないが、今までの落ち着きを余所に瞳が輝きだした。

 心からの楽しそうな声に思わず目を丸くする。


「私、護衛の無いお買い物も、同年代の方と外出するのも初めてなんです」


 今までどういう生き方をしてきたのだろうか?

 わくわくした様子を隠せない彼女に思わず笑ってしまいそうになる。


「あの、榛香様……会ったばかりでこんなことを言うのは恐縮なのですが………」


 おずおずと不安そうな様子で告げてくる。


「榛香様……私、榛香様とお友達になりたいと思うのです。受け入れて、いただけませんでしょうか?」


 何だろう、この可愛らしい生物は。

 淑やかに落ち着いた様子を見せる彼女、子供のように無邪気にふるまう彼女、話をする度に違う表情を見せる彼女に私自身も惹かれていたのだろう、考えるまでも無く返事をしていた。


「私でよければよろこんで。こっちから言おうかと思っていたのに先を越されたみたいです」

「ふふっ、お友達……初めてです。そうです、榛香、と呼んでもいいですか?」

「えぇ、それじゃ私も……フィリア、でいいのかな?」

「はい、敬語も無くていいですよ。時々口調が崩れてますし、それにだって、それが友人というものなのでしょう?」


 花が綻ぶように本当にうれしそうに笑う彼女の様子にこちらもうれしくなってくる。


「私は、生まれてこの方ずっとこの口調ですから、名前を呼び捨てにするだけでも頑張っているのですが……なので敬語については追々、頑張りますね」

「うん、わかった。それじゃあ、その、改めて宜しく、フィリア」

「はい、宜しくお願いします、榛香」


 ―――――春の朗らかな陽光と風の中、世界を越えた友誼は、結ばれた。

評価をぽちぽちしたりなんやかんやすると、もれなく作者のテンションが上がります。

暫く毎日更新できるように頑張ります。毎日0時更新予定!


初評価いただきました。試しに書いてみたけど本当にテンションが上がるものですね。

目指せ、初なんやかんや!


予定、あと2話か3話後に戦闘シーンのつもり

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