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鍛治師ヴェルンド

シンカイを新たに仲間にした俺たちはタラムの街を出てシンカイに勧められて北に進んでいる。俺とエレナはバイクで、シンカイはタラムで買った馬に乗り、道なりに進んでいるという状況だ。


「なぁ、シンカイ。聞きたいことがあるんだ。」


「あ、私も。多分リュージと同じだと思うんですけど。」


「おぉ質問とな?何を遠慮しているのだね二人共。我々は仲間なのだ。気兼ねなく拙僧に何でも聞いてくれたまえ!」


シンカイは馬上で両手を大きく広げてみせた。俺がエレナの方を見るとエレナは無言で頷き、俺が質問するように促してくる。

どうやら本当に一緒みてぇだな。よし……


「ウーラマルクのことについて詳しく聞かせてくれねぇか?」


「えぇ?!この状況でそれ聞くの?!」


「エレナもこれが気になってたんじゃねぇのか?」


「全然違うよ!まぁ……気にはなってるよ?でも今聞かなくてもいいと思うけど……」


あれ?なんか納得いってない感じだな。


「ほう、あの狂戦士のことか。よかろう、奴は中々どうして悲惨な男でな。かつて魔王が生み出した『魔龍』を倒すために結成された『竜狩りの騎士団』という者達がいてな。」


「エレナ、知ってるか?」


「分からない……そもそも魔龍って言葉も初めて聞いたし。」


「エレナ殿が知らぬのも無理はない。この騎士団の武勲が人々によって語り継がれることはなかったのだからな。だが彼等は魔龍の脅威から人々を護る、それはそれは誇り高き騎士団だったのだぞ?」


「人々を守る?あいつがか?」


俺の脳内には何の躊躇もなくバーディを殺したウーラマルクの姿が浮かび上がる。到底人を守るような奴がやることじゃねぇぞ。それに語り継がれなかったってのも引っかかるな。


「まぁそう言ってやるな。奴とその騎士団は魔龍達とそれこそ命がけで戦い、屠ってきた。だが屠られたのは騎士団もまた然り。魔龍の数が圧倒的でな。騎士達は次々と命を落とし、人々はそんな彼等を讃えることなく無能と蔑んだのだ。」


「そんな……なんでそんなひどいことを……」


「本人達が頑張ろうと、そのことを人々が理解し、評価してくれるとは限らんさ。そんな状況で龍に仲間を殺されていったウーラマルクは次第に狂っていったのだ。執念深いと思わんか?人々にどれ程蔑まれようと、あんな亡霊のようになっても尚、奴は竜狩りをやめんのだからな。」


なるほど、そんなことがねぇ。まぁだからって人を殺す正当な理由にはなりゃしねぇけどな。


「じゃあもう一つだけ聞かせてくれ。なんで奴はお前を見た瞬間に逃げ出したんだ?嫌われてんのか?」


「嫌われていると言えばそうだろうな。拙僧の持つ能力は奴の能力にとって相性が悪すぎるのだ。勝負になれば拙僧が幾分か有利というわけさ。」


ほーう、ならシンカイは対ウーラマルクの相当な抑止力になりそうだな。なんでそんなに詳しいのか、シンカイの能力はなんなのか、聞きたいことはまだまだあるが長引きそうだしやめとくか。


「さて、リュージ殿の質問には答えたぞ。次はエレナ殿だな。」


「え?あぁ、はい!」


ウーラマルクについての話に聞き入っていたエレナは不意打ち気味にシンカイに指名され少し驚いていたがすぐに持ち直してシンカイに質問を投げかけた。


「シンカイさん、北には何があるんですか?私、タラムより先の地理には詳しくなくて。」


「あぁ、確かにそれ聞いてなかったな。タラムみたいな街を目指してんのか?出来れば魔王軍について情報収集とかしたいんだけどよ。」


「うむ、そう言われると思っていたよリュージ殿、エレナ殿。別に拙僧も無計画に北に行くよう提案したのでは無いのだ。ここから一つ山を越えたところにあるイーウという村にあるヴェルンドという鍛治師の工房を訪ねようと思っている。」


工房?なんで魔王軍の情報収集のために工房を訪ねるんだ?どう考えても関係性なんてなさそうだけどな……

どうやらそう思ったのはエレナも同じだったらしい。


「シンカイさん、そのヴェルンドって人が何か魔王軍への手がかりを持っているんですか?」


「持っている、というより持っている可能性が極めて高い。と言った方が正しいだろうな。」


「なんだよ、勿体ぶった言い方してよ。ますます気になるじゃねぇか。」


「ハッハッハ!これは失敬。では本題に入ろうか。実はな、件のヴェルンドには魔王軍へ武器を作って渡しているのではないかという噂があるのだよ。」


「武器を?!その噂って本当なんですか?」


「さぁな、真偽は定かではない。ヴェルンドは腕は超一流であるものの、えらく客を選り好みするらしくてな、滅多に武器は作らんそうだ。」


「そんな奴が最近頻繁に武器を作ってる、とかそういう話か?」


「ご名答だリュージ殿。しかもヴェルンドが武器を作り始めるようになってからイーウの村の付近で魔物が頻繁に現れるようになったそうだぞ。どうだ?興味深いと思わんか?」


確かにそれだけ聞くとかなり怪しいな。あんまり噂とかは信じねぇ方なんだが、今から目的地を変えても時間と体力を無駄にしちまいそうだ。なりふりかまっちゃいられねぇよな。


「目の前の山を越えて、どれぐらいでその村に着くんだ?」


「まぁ、山越えの時間を含めて半日といったところかな。まぁ気長に行こうではないか。」


魔物の武器を打つ鍛治師か、まぁ……良い予感はしねぇよな。

=====

同日 夕方 イーウ村


俺たちはどうにか日が完全に沈む前にイーウ村に到着できた。村の正門には篝火が焚かれ、村の名前が書かれた看板が立てられているだけで門番はいなかった。


「ここがイーウ村か。これといって変わったところはねぇな。」


「確かに、門番もいないね。全然平和そうだよ?」


「まあまあそう急くこともあるまい。一先ずあの食堂に入って情報を仕入れつつ夕飯といこうじゃないか。」


「お前あんだけ昼飯食っといてまだ食う気かよ……」


「パン買い足さないとね……」


俺とエレナの言葉を気にも留めずシンカイは正門の近くにあった食堂の近くに馬を繋げ、俺もそこにバイクを止めた。

食堂に入ると入り口の正面に厨房があり、思ったより広い店内には丸型のテーブルがいくつも並べられていた。

テーブルはほぼ満席で老若男女関係なくテーブルを囲んで賑やかに食事を楽しんでいる。……ように見える


「いらっしゃい!奥の方のテーブルがまだ空いてるからそこに座ってくれ!」


「さて、何を食おうかねぇ…おや?どうしたのかなエレナ殿。」


「シンカイさん、噂は嘘だったみたいですね。」


「ほほう、それはまたどうして?」


「だって村の周りに来る途中に魔物に会いませんでしたし、村の食堂で住人の皆さんがこんなに楽しそうに食事をしてるんですよ?」


「確かにそうだな。ここは何の変哲も無い村の食堂だ。だがそちらの黒龍殿にはそうは見えておらんようだぞ?」


「え?」


何か違和感がある。ここに来る途中もそうだった。ここにいる村人達は、食事をしてるように見えるが何故か全員が俺たちを見ているように感じるんだ。


「リュージ?どうしたの?」


「エレナ、なんかよ……目線感じねぇか?」


「まぁ、私はともかくリュージとシンカイさんは目立つ格好してると思うよ?」


「いや、そういう意味じゃなくてよ。なぁシンカイ……」


「おーい!注文したいのだが。」


「聞いちゃいねぇ……」


シンカイの呼びかけに近くを歩いていたエプロン姿の女性が注文を取りに来た。俺とエレナはシチューとパン、シンカイはステーキとシチュー、野菜の香辛料炒め、魚の煮物、サラダを頼んだ。食い過ぎだろお前!


「さてさて、どうするね二人共。今日のところは休んで明日から行動開始といくか?」


「あ、私もそれに賛成です。もうヘトヘトで…」


「それでいいかもな、朝になった方が住人も多いだろうし、もしかしたらヴェルンドにも会えるかもしれねぇしな…あ?」


食堂の中が静まり返った。さっきまで食事をしていた奴らも、厨房で料理を作ってる奴らも、俺たちのテーブルに料理を運んできている奴も全員その場で動きを止めている。


「な、なに?!なんなの?!みんないきなり石みたいに……」


「リュージ殿。どうやら貴公、触れてはならぬものに触れてしまったらしいな。おっと?」


「なんだ…みんな出ていっちまうぞ?どうなってんだこの村!」


全く原因は話からねぇ。一斉に住人達は椅子から立ち上がり、フラフラと歩きながら食堂の外へ出ていった。まるで人形のように手に持ったグラスやフォークを握りしめたまま各々の家に帰っていった。


「エレナ殿、どうやら噂は本当だったようだぞ?」


「そう……みたいですね……」


訳が分からねえがヴェルンドはともかく、魔物がこの村に何かをしているのは確かだ。不謹慎なことを言うが、俺は幸先がいいと思ってしまった。この村を救って魔物をとっちめれば多かれ少なかれ魔王軍の情報が手に入るだろうからな!

気に入っていただけましたらブックマーク等よろしくお願いします。

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