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竜狩りの騎士 ウーラマルク

「ウーラマルク?!お前が?!」


森で出会ったシンカイという男の言葉に出てきた名前を俺たちの目の前にいる黒い甲冑にその身を包んだ隻腕の騎士が名乗った。

シンカイの忠告を聞いて何か嫌な予感はしてたがまさかここまでヤベェ奴だったとはな…


「龍…黒龍だ…待ち望んだぞ…この邂逅を!」


ウーラマルクは何かブツブツと呟き、得物の大剣を引きずりながら俺たちの元に近づいて来る。ギルドの中にいる冒険者達はは異変に気づき、悲鳴を上げながらギルドの外へ避難していく。


「フフ、落ち着け我が同胞達よ。黒龍の首はすぐに手に入るぞ…」


「リュージさん……バーディさんが…バーディさんが!」


「落ち着けエレナちゃん!いきなりすぎて整理がつかねぇのは分かるが今は割り切るしかねぇんだ!」


「でも……でも……」


余程バーディの死がショックだったんだろう。エレナちゃんは涙を流し、震えながら俺にしがみついてくる。

ウーラマルクはその間も止まることなく接近し、自分の間合いになったのか横薙ぎにその大剣を振ってくる。

俺は両手でエレナちゃんを担ぎ、紙一重でその斬撃を避けて、再び距離をとった。その斬撃は触れた石床をまるで豆腐のように抉り取っていった。


「クソ!あんなのに当たったらひとたまりもねぇ!……おいエレナ!いつまでもピーピー泣いてんじゃねぇ!」


「リュージ……さん?」


「バーディが死んだことを悲しむのはいい、だがそれは今じゃねぇ!あいつのために涙を流すのは今俺たちの目の前にいる馬鹿野郎をぶっ飛ばしてからだ、そうだろ!」


俺は涙を流すエレナちゃんに喝を入れた。少し強すぎたかと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。


「リュージさん…はい、そうです。そうですよ!あんな人ぶ…ぶっ飛ばしちゃってください!」


「へへ、その調子だ。あいつは俺が食い止める、だからエレナちゃんは…」


「何をさえずっている!龍めが!」


俺とエレナちゃんは左右に分かれるようにして斬撃を避け、エレナちゃんは俺たちに背を向けギルドの出口へ走っていった。よし、ちゃんと伝わったみてぇだな。


「よう!随分と大振りじゃねぇか。そんなんじゃあいつまでたっても当たんねぇぞ!」


「フハハハハ!よく吠えるなぁ黒龍!良い!良いぞ!貴様のような龍は久しぶりだ!なぁ皆の衆!」


ウーラマルクはいきなり大剣を手放すと腰につけていた直剣を抜いて一気に詰め寄ってきて俺の眼球や心臓を狙って突きや斬撃を繰り出してくる。クソ!いきなり速くなりやがった!なんとか避けれてるが長くは保たねぇぞ!


「なんだ?避けるばかりか!牙は?爪は?雷はどうしたぁ!」


「うるせぇな!そんなに殴って欲しけりゃくれてやるよ!」


俺は剣を振り切った隙を見てウーラマルクの顔面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。かなり手応えはあった。

だがウーラマルクは倒れることなく顔面で拳を受け止めたまま歪なニヤケ顔を向けてきた。


「骨を軋ませ、脳を揺らすいい打撃だ。だがこの程度で我は倒せんぞ黒龍!」


「リュージさん!!」


ウーラマルクの声を遮るようにエレナちゃんの声が響いた。息を切らして立っているその手には俺のバットが握られている!


「でかしたエレナちゃん!こっちに投げろ!」


「はい!」


俺はウーラマルクの胴に蹴りを入れ、怯んだ隙を見てエレナちゃんの投げたバットをキャッチした。いいねぇ、やっぱりこいつがあってこそだぜ!


「よう、待たせたな騎士さんよぉ!これで五分だ!」


「龍が武器をとるか!賢しい真似を!そんな棒切れで何が出来る!」


「棒切れは棒切れでも広島のテッペン獲った棒切れだ。歯ぁ食いしばれよ?こいつは加減を知らないんでね!」


俺は一気に距離を詰め、ウーラマルクの腹にスイングをぶち込んだ。衝撃で体勢が前のめりになり、位置が下がった顔面に膝をめり込ませる。そして最後は…


「歯ぁ食いしばりな!その頭かち割ってやる!」

ズガン!


「ヌゥゥゥウ!!!」

ガッシャァァァアン!!


2メートルの巨体とその身体に纏っている鎧の重量の凄まじさを感じさせる音を立ててウーラマルクは床に仰向けに倒れこんだ。金属バットを頭頂部に思い切り叩きつけたんだ。倒れてもらわなきゃ困る。だが……


「なんつう硬さだよ……こいつ本当に人間か?岩でも殴ったみてぇな……」


「死ねい黒龍!」


「は?……ウオォォ!!!」


ウーラマルクはいきなり上半身を起こして大剣を俺の胴体に向けて横薙ぎに振るってきた。なんとかバットで防げたが、あまりのパワーに俺はそのまま吹き飛ばされ、近くにあったバーカウンターに激突した。

野郎……わざと倒れやがったな?あの大剣を拾うために。

俺は追撃が来ると思い、身体を守るようにバットを構えたがウーラマルクはその場に立ち止まり俺を睨みつけている。


「おいおいどうした?来ねえのか?お互い愛武器を持ってんだ。力比べしてみねぇか?」


「解せんな…」


「あ?なんだよいきなり。」


「何故黒雷を使わん?黒龍はその雷で万物を焼き払ってきたと聞く。黒雷を使えばそんな棒切れに頼る必要もあるまいに。」


狂戦士は突然その歯をむき出しにして激昂した。その目は混じり気のない怒りで染まっている。


「なんだそんなことかよ。初っ端から別の力に頼って喧嘩するのが嫌なだけだよ。あんたこそなんでだ?なんで俺に黒雷を使わせようとする?」


「愚問!竜狩りとはただの狩りに非ず!龍の人智を超えた力を凌駕して初めて!その意味を成すのだ!」


なるほど、要は徹底的に相手の叩きのめしたいってことかよ。なら尚更使ってやる気にはならねぇなあ!

俺はバーカウンターを足場にして一気に近づき、ウーラマルクに殴りかかった!


「オラァ!」


「ぬぅ!貴様ぁ!まだその棒切れで我と対峙するつもりか!」


「わざわざテメェの言う通りにしてやる義理もねぇだろ!そんなに使って欲しけりゃ無理矢理にでも使わせるこったな!」


バットと大剣の鍔迫り合いというかなりミスマッチな光景が目の前に広がっている。俺は相手の剣を押し返すために歯を食いしばっていた。

だが大剣の向こうに見えるウーラマルクの表情はこっちの背筋を凍りつかせるほどに冷めきっている。


「言ったな?」


「あぁ?」


「無理矢理にでも引き出せと……ならばそうさせてもらおうか!」


「……!おいおいなんだよその剣、随分おっかねぇじゃねぇか。」


持ち主の言葉に呼応するようにウーラマルクの大剣が赤く光り始めた。その刀身には血管のような筋が無数につたい、まるで生きているかのように脈動している。


「さぁどうだ黒龍!貴様にこれが凌げるか?!ハァァァ!」


「うぉぉぉぉ!?な、なんて力……!」


ウーラマルクの力がどんどんと増していく。最早俺は大剣と交えているバットを支えるのがやっとな程に圧倒され始めている。


「この光は朽ちることなき我が竜狩りの騎士団の魂、我と共に駆け、我の前で散っていった者達の魂の光だ!例え命を落としたとて我等の竜狩りは終わることはない!」


「……一つ聞かせろ。なんであんたはそこまで龍を狩ることに執着するんだ!」


「知れたことを!我ら騎士にとって龍を屠ることは最大の誉れであるが故に!思い知れ、黒龍!!」


「なるほどね……まさかそこまでとはな。すまねぇなウーラマルク、俺はあんたを舐めてたらしい。あんたの覚悟の前じゃ今の俺は役不足だよな……黒龍!力を貸せ!!」


俺の身体に黒い雷が走る。自分でも恐ろしくなってくるほどの力が俺の全身を満たしていく。その力のままに俺は大剣を押し返しウーラマルクを蹴り飛ばした。

まるで後ろに引っ張られたかのように吹き飛んだその巨体はギルドの石柱にめり込むことで、その動きを止めた。


「グォォ……フハハハ!そうだ!その黒雷を見たかった!殺してやるぞ!その黒雷と共に貴様の命を刈り取らせてもらおう!」


「そうはいかねぇ。何せこちとら、この世界を救わなきゃいけないんでね!」


大剣は殺意に同調するように眩く光り、バットは戦いを終わらせるために黒雷を纏う。長引かせるつもりはねぇ。この一撃で仕留める!


「黒龍ゥゥゥ!!」


「竜狩りィィイ!!」


お互いの武器が交錯した……ように感じたがそうではない。俺のバットとウーラマルクの大剣は交わることなく少し手前で止まっている。代わりに俺の手には何かによってバットが掴まれてるような感触が伝わってきた。


「そこまでだ貴公ら。そんなものをここでぶつけ合ってみろ。この街が吹き飛ぶぞ?」


「し、シンカイ?!なんでお前が!」


俺たちの間に割って入ったのは森で会った僧、シンカイだった。シンカイは片手で俺たちの武器を掴み、止めている。

嘘だろ……あの勢いの、しかも黒龍の力を使って振ったバットを片手で?!


「貴様……また我の邪魔を!」


「そう怒るな狂戦士殿。今回は引け。聞かぬというならば拙僧も実力行使といかせてもらうが?」


「チッ!忌々しい破戒僧めが!」


ウーラマルクは腹立たしげにその顔を歪めた後、身体を翻し近くにあった窓を割って逃げていった。ウーラマルクに気づいた人達の悲鳴が聞こえてくるが危害を加えられてはなさそうだ。

戦いの終わったギルドは一気に静寂に包まれた。辺りには砕けたテーブルの破片やら割れた瓶やらが散乱している。


「シンカイ、お前タラムには寄らねぇって言ってなかったか?」


「いやなに、野暮用が済んで少々路銀が手に入ったのでな、腹ごしらえをしようとこのギルドに寄ったらエレナ殿に声をかけられてな。」


「エレナちゃんが?」


シンカイの目線が俺の後ろに向けられ、俺もその方向を見るとエレナちゃんが俺の元に駆け寄ってきていた。


「リュージさん大丈夫ですか?!お怪我はありませんか?」


「あぁ、なんとかな。すまねぇエレナちゃん。あいつをぶっ飛ばすって約束守らなかった。」


「いいんです……無事でいてくれるだけで…それに途中から怖くなってシンカイさんに戦いを止めてもらうようにお願いしたのは私ですし。」


俺とエレナちゃんの視線はシンカイに集まる。当のシンカイは辺りを見渡し、あるところに歩み寄った。バーディの死体の元に。


「貴公らが拙僧に聞きたいことがあるのは重々承知している。だが今はこの者を弔ってやらねばな。」


出かかっていた言葉を俺たちは飲み込んだ。その通りだ。俺とエレナちゃんはただ黙ってその様子を見守っていた。俺たちの仲間になろうとしてくれた男へどんな言葉をかけるべきかも分からないまま。

=====

翌日 朝


昨夜のギルドでも騒動の後、俺たち三人は近くの宿に泊まり夜を明かした。あれだけのことがあったのに翌朝の街は何事もなかったかのように活気付いている。逞しいというかなんというか……


「いいんですかリュージさん?こんなにいい調理器具買ってもらっちゃって。」


「いいんだよ。エレナちゃんにはこれから美味い料理をたくさん作ってもらうんだからな。」


俺たちは昨日寄る予定だったハインズ商店で買い出しを済ませた。店の中を歩いてる時のエレナちゃんの目の輝きっぷりときたら。


「……あの、リュージさん…」


「ん?どうしたそんなモジモジして?トイレなら便所なら商店の中にあったぞ?」


「ち、違いますよ!もう…あの、ですね。え、エレナって…エレナって呼んでくれませんか?」


「え?なんだよいきなり。」


「昨日の夜そう呼んでくれたじゃないですか!これから一緒に旅をするんです。もう余所余所しい呼び方はなしにしてエレナって呼んでください!」


昨日の夜?俺エレナちゃんのこと呼び捨てにしたか?全く思い出せねぇ……


「別にいいぜ。じゃあエレナもな。」


「へ?私も?」


「もう俺に対して敬語はいらねぇ、それにさん付けもなしだ。いいだろ?」


「えぇ?!リュージさんを呼び捨てに?!しかもタメ口って…」


「出来ねぇならいいんだぜ、エレナ"ちゃん"?」


「うぅ〜……い、いじわるしないでよ…リュ、リュージ!」


そんな顔赤くして言うこともねぇだろ。野郎の名前言うのにそんな照れるもんかね。


「ハッハッハ、仲睦まじいな貴公ら。」


「し、シンカイさん!からかわないでください!」


「よう、シンカイ。もう用事は済んだのか?」


「あぁ、職人の街の食堂の飯は中々に美味だったよ。」


シンカイは今朝重要な用事があると言って俺たちより先に宿から出ていったんだが、こいつ普通に飯食ってただけかよ…


「さて、買い出しも済んだしそろそろ出発するかね。他に必要なもんはねぇかエレナちゃん?」


「……」


「おいおい貴公…だいぶ記憶力が悪いようだな。」


「え?あ、あぁ。もう用はねぇかエレナ?」


「うん!もう大丈夫!」


あれ?なんかキャラ変わってねぇか?動揺する俺を尻目にシンカイがバイクに近寄ってきて興味深そうにシートを撫で始めた。


「ふむ、出発か。やや早い気もするがこの街に根をはる訳にもいかんからな。では行こうか。」


「え?シンカイさんもしかして……」


「うむ、拙僧も貴公らの旅に同行しようと思ってな。」


「はぁ?!いきなりどうしたんだよお前!」


「おや?拙僧がいると何か支障が?」


「いやそうじゃねぇけどよ……」


シンカイはさも当然かのように振舞っているが俺とエレナは全く予想していなかった発言に少々面食らってしまった。

そんな俺たちを見てシンカイは心底可笑しそうにしている。


「いやなに、その身に黒龍を宿すだけでなく忠告した矢先にあの狂戦士と出会ったりと、貴公らの周りには摩訶不思議な因果が渦巻いていると思ってな。これより先に貴公らにどのようなことが起こるか興味が出てきたのだ。」


「それってつまり怖いもの見たさってことか?」


「フフ、そう思ってくれても構わん。だがちゃんと役には立つぞ?拙僧は今まで各地を旅してきたからな、ここいらの地理に詳しい。それに少しばかりだが武の心得もある。どうだリュージ殿?」


確かにゴーレムの件や昨日の戦いを止めたことを考慮すればシンカイの強さが並大抵のもんじゃないことは分かる。それにこれから先ウーラマルクと出会った時のことを考えるとシンカイは相当な戦力になりそうだ。


「シンカイさんが仲間になってくれるんですか!ねぇリュージ!お願いしようよ!」


「……昨日にバーディを亡くして、いきなりこういう流れになるのはなんか思うところがあるけどよ。躊躇っちゃいらねぇよな。」


「よーし交渉成立だ!ならば行こうかリュージ殿、エレナ殿!この馬はどうやって動かすのだ?」


「何で当然のようにシートに座ってんだよ!わぁ、バカ!分かんねぇのにハンドル握るなって!」


こうして俺たちに新たな仲間が加わった。まさか職人の街に来て謎の僧を仲間にするなんて神様でも予想出来ねぇだろうな。

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