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黒龍への忠告

俺たちはギルドで受注したストーンゴーレム退治に向かうため、ギルドで地図を受け取り来た時とは別の門からタラムの外に出て西にある野原へバイクを走らせた。


「エレナちゃんそろそろか?ゴーレムのいる野原は。」


「はい、この森の道を抜ければすぐですよ。」


「思ったより近かったな、このままサクッとゴーレムを……なんだあれ?」


「どうしましたリュージさん?」


今進んでる道は一本道でそれなりに道幅もあり先が見通しやすくなっているんだが、俺たちの少し先の道の真ん中に何か黒い物体が倒れているのが見えた。

気になった俺とエレナちゃんは顔を見合わせ、ゆっくりと近づいていった。


「……リュージさん!人ですよ!人が倒れてます!」


「あぁ相当デケェな、おいあんた!大丈夫か?何があった!そんなげっそりしちまってよ!」


「あ…あぁ…よもや……人に出会えるとは…拙僧も…まだまだ…」


拙僧?この人坊さんか?よく見てみりゃ服も僧衣みてぇだな。髪型は白い長髪を後ろで束ねてて坊さんって感じはしねぇが。


「あの、どこか傷みますか?もし怪我をされているなら手当てしないと!」


「あぁ…心優しき御仁よ…怪我はない…怪我はないのだが…」


するとどこからか猛獣の唸り声のような音が聞こえてきた。最初は本当に何かが俺たちを狙っているのかと思ったが、音を辿っていくとどうやら坊さんの腹の虫が騒いでる音だったらしい。


「腹減ってんだな?エレナちゃん、バックの中にパンあったろ?他にも持ってる食い物出してやれ!」


「は、はいどうぞ!あ!待ってください。いきなりパンはダメですよね!今お水も出しますから!」

=====

「ン…ムグ…ゴク!はぁ…はぁ…!!かたじけない!貴公らが通りかからなければ拙僧は獣の餌になっていたであろうな。申し遅れた。拙僧の名はシンカイ。修行の身だ」


「エレナです。お元気になられてよかった。」


「二宮龍士だ。困った時はお互い様さ。で?なんでこんなところで倒れちまうくらい腹が減ってたんだ?」


「お恥ずかしい限りだ。実は先ほど少し激しい運動をしてな、そのせいであろう。」


「あまり無茶はなされない方がいいですよ。ご自分の身体を大切になさってくださいね?」


激しい運動?空腹に耐えきれず倒れこむ程のか?まぁ疑ってどうにかなるようなことでもねぇが……なんだ?なんか視線を感じるような…


「な、なんだよシンカイ。そんなにジッと見てきてよ。俺の顔になんかついてるか?」


「リュージ殿……貴公、その身体の中にただならぬ者を棲みつかせているな?」


「おいおい、何が見えてんだあんた?普通の坊さんじゃねえとは思ってたがよ。」


「なに、少々目が聡いだけのこと。見えずとも良いものまで見えてしまうのだ。荒々しくも美しく、孤高にして気高い黒き(いかずち)。…信じられん、もしや貴公、黒龍を?」


マジかよ、正体まで当てやがったぞ?こっちの世界の坊さんはみんなこうなのか?それともシンカイが特別ってだけか?


「すごい…本当に見えてるんですね…」


「誇るようなものではない。見えたとて、それが誰かを救うわけではないだからな…さて、馳走になった。今は持ち合わせがないがこの恩はいつか必ず…」


「なんだ、もう行っちまうのか?しんどいだろ?近かったら目的地まで送っていくぜ?」


「フフ、本当にお優しいな貴公は。もう大丈夫だ。それにこれから行く道はその馬にはちと狭いだろうしな。」


「そうか、じゃあ達者でな。」


「今度お会いした時はお料理を作らせてください。頑張って美味しいもの作りますから!」


シンカイはゆっくりだが、しっかりとした足取りで俺たちとは逆の方向に歩き出した。

本当に大丈夫そうだ。俺とエレナちゃんは安心してバイクに乗り、エンジンをかけようとしたら後ろからシンカイに呼び止められた。


「おぉそうだ貴公。お礼になるかは分からんが一つ忠告がある。」


「忠告?なんだ一体?」


「『ウーラマルク』という男に気をつけろ。貴公が宿すその幻獣、必ず奴を引き寄せるだろう。ではな。」


「お、おう。ありがとよ……ウーラマルク?エレナちゃん知ってるか?」


「いえ、聞いたこともありません。でも気をつけろって言ってましたよね?危ない人なんでしょうか。」


気になってどんな奴か聞こうとしたらもうシンカイの姿はなかった。黒龍が引き寄せる、ねぇ……なーんか嫌な予感がするぜ。


「よし、色々あったがゴーレム退治再開だ。発進するぜ。エレナちゃん。」


「はい!」

=====

俺たちは森を抜け、依頼書にあった野原に着いた。俺はバイクに備え付けたバットを取り出し、周りを見渡した。ここでストーンゴーレムを倒してその残骸をギルドに渡せば晴れて依頼達成ってわけだ。そうなんだが……


「見当たらねぇな……エレナちゃん、ストーンゴーレムって隠れたりすんのか?」


「えーっとギルドの図鑑には古代の魔術師が作った魔導兵器で、目に付いた生物には襲いかかるけどそれ以外の時はジッと立ってるって書いてます。隠れるなんて習性なさそうですよ?」


「じゃあなんだ?まさかガセってことはないだろ?」


だが俺たちの疑問はすぐに解決された。野原を少し歩き回ったらすぐにストーンゴーレムが見つかったからだ。ただし……粉々に砕かれた状態で。

エレナちゃんは驚き、ストーンゴーレムの残骸に近づいた。


「ウソ…もしかして誰かに先を越されたの?でも委託照明の銅板がなかったら報酬は受け取れないはず…一体誰が……」


「……シンカイだな。」


「え?!シンカイさん?!でもシンカイさんは倒れるくらいお腹が減ってたんですよ?」


「その前にあいつ、激しい運動をしたって言ってたろ?それがこれだ。それに見ろ、この残骸から俺たちが来た道に足跡が続いてる。」


「本当だ…じゃあこの残骸はまだ価値があるってことですよね?」


「あぁ、シンカイが持ってる様子はなかったしな。他人の物をネコババするみてぇで気が進まねぇが……」


「旅を円滑にするために必要なことなんですから我慢してくださいリュージさん!」


そう言ってエレナちゃんは袋が満タンにあるようにストーンゴーレムの残骸を詰め始めた。

シンカイ……あいつ武器を持ってなかった。素手でこれをやってのけたのか?マジで何者なんだよあの坊さん……

シンカイといいウーラマルクといい気になることだらけだ。だがそればかり考えてても何も始まらねぇ、まずは目の前のことを終わらせなきゃな。

=====

夜 タラム冒険者ギルド


「うわぁ!すごいご馳走!いいんですかリュージさん、こんなに頂いちゃって!」


「あぁ食ってくれエレナちゃん。この報酬が手に入ったのも君のお陰なんだ。遠慮なんかしなくていいぜ。」


「やったぁ!じゃあいっただっきまーす!」


タラムの街に帰ってきた俺たちは持ち帰った残骸をギルドに渡し、依頼内容を達成したことが認められ報酬である金貨10枚を受け取った。

そしてそのままギルドの中にある食堂で飯を食うことにした。最初は遠慮してたエレナちゃんだったがテーブルに並べられた色とりどりの肉や魚の料理を見て目を輝かせながら嬉しそうに頬張っている。向かい合うように座ってるからその食いっぷりがよく見える。


「そうだエレナちゃん、食べながら聞いてくれ。これからの旅の方針についてだ。」


「ン!…ゴク!方針…ですか?」


「あぁ、俺たちの最終目標は魔王討伐だろ?だがどうやら相手は相当多そうだ。だから仲間を集めようと思う。具体的にどんな奴かってのは決めてねぇが人数が多い方が何かと便利だろうしな。」


神様も俺に人を導けと言った。一人で多勢を相手するのもいいが、そんなのじゃあ到底軍勢を倒すなんて果たせるとは思えねぇ。


「すごい!伝説通りです!」


「伝説って……『四傑の幻獣士』のことか?」


「はい!他の幻獣士達はその強大な力を持って一人で戦うのですが、黒龍の幻獣士だけ、自分の力だけじゃなくて人々を導きながら魔王に立ち向かうんです!」


まぁ、伝説通りっていうかそういう人間を選んでるんだろうけどな、あの爺さんは…


「おい!」


「あぁ?なんだよ……ってお前確か……」


俺たちが食事をしていた長テーブルの横に昼間ぶっ飛ばしたチンピラが立っていた。確かバーディって名前だったよな?


「あんたに言っておきたいことがある…」


「おう、なんだよ。リベンジマッチか?俺はいつでも…」


「すまなかった!」


「は?」


また喧嘩しにきたかと思ったらバーディはその場で俺たちに向かって頭を下げてきた。


「言ったよな?冒険者は強いことが基本だって。あんなに強えあんたにあんな口を聞いちまって、それに連れのお嬢さんも怖がらせちまった。本当にすまねぇ!!」


「……プッ!」


「え?どうしたんだあんた?」


「ハハハハハ!!なんだよお前、喧嘩した相手に律儀に謝りに来たのか?!バカだねぇ…」


「いや、だって迷惑かけたのは事実だしよ…」


「あのなぁ、喧嘩した相手には絶対頭を下げるんじゃねぇ。そりゃぁ喧嘩を汚しちまう。喧嘩ってのは善悪を決めるんじゃない、お互いの覚悟の試しあいなんだからな。な、エレナちゃん?」


「えっと、喧嘩のことはよく分からないですけど、確かに謝らなくていいですよ!結果的に依頼を達成して報酬も受け取れたんですから!」


「おぉ!兄貴……姉御……!」


バーディとその取り巻きがその目に涙を浮かばせている。身なりはあれだが根は芯の通ったいい奴らじゃねぇか。

それに兄貴か……随分懐かしい呼ばれ方だぜ。エレナちゃんはいきなり姉御呼びされて驚いているみたいだが…よし!気に入った!


「なぁバーディお前、俺の仲間にならねぇか?」


「えぇ?!な、なんですかい突然!」


「俺たちは今旅をしててな、魔王を倒す旅だ。」


「ま、魔王を?!本気なんですかい?まさか……姉御も?!」


「はい、これから旅をしていくことを考えると二人だけは厳しいということに話をちょうど今してたんですよ。」


バーディは唖然とした様子で俺たちを見比べている。流石にいきなりすぎたか?


「兄貴、姉御。魔王を倒すってのは相当に荒唐無稽な話だ。あんたら何か倒せるって確証はあるのかい?」


「俺が黒龍の幻獣士って言ったら信じるか?」


「こ、黒龍の……?」


このあと起こる事を考えるとこの時の俺の行動は軽率だった。俺はまだ理解できていなかったらしい。自分が手に入れた力がどれ程の影響力を持っているかという事を。

=====

『龍…だと…』

=====

「本当……なんですかい?!あぁ!!」


俺は左の手の甲に黒い鱗を浮かび上がらせた。出来るか不安だったが案外簡単だったな。鱗を見たバーディは開いた口が塞がらないといった様子だ。


「すげえ…本当なんだな…!じゃあ俺、黒龍の幻獣士の仲間になれんのかよ!うぉぉお!!夢みてぇだ!むしろこっちからお願いするぜ!俺みたいなので良ければ是非仲間にさせてくれ!」


「よし!決まりだな。そういや自己紹介してなかったか。俺は二宮龍士だ。」


「エレナです。これからよろしくお願いしますね。バーディさん!」


「あぁこちらこそ!絶対役に立ってみせるぜ、リュージの兄貴!エレナの姉御!」


バーディはまるで子供のようにはしゃいでいる。余程嬉しかったんだな。そんなバーディの足の隙間から黒い甲冑に包まれた別の足が見えた。後ろに誰か立っているみたいだ。


「なぁ、バーディ。その後ろの奴お前の連れか?」


「え?いや、知りやせんね…おい誰だテメェは?なんか用か?」


「龍…龍……がいるのか?」


「はぁ?何言ってやがるテメェ!」


「バーディさん、そんなに強く言わなくても……」


「ダメですよエレナの姉御!時々こういう奴が来るんですわ。ビシッと言って分からせてやんねぇと。」


「どけ……そこをどけ…」


「お前がどっか行きな。今俺は兄貴と姉御達と大事な話をしてるん…」

ヒュン!


何かが空を切る音がした。かなりの鋭さと速さを連想させた。音がしてから少し遅れてゴトリと何かが俺たちのテーブルの上に落ちてきた。

落ちてきたものと俺は目が合った。さっきまで話をして俺たちに笑顔を向けていたバーディの頭がテーブルの上に転がっていた。


「え……?バーディ…さん?」


バーディの身体は頭を無くし、まるで糸の切れた操り人形のようにその場で崩れ落ちた。


「あ…あぁ…いやぁぁぁあ!!」


「エレナちゃん危ねえ!!」

ズドォオーーン!!


俺は椅子を足場に飛んで向かい側にいたエレナちゃんをかばうようにして背中から床に着地した。その後俺の背後でテーブルが粉砕された。

あいつだ!バーディの後ろに立っていた黒い鎧の身長2メートルは越えようかという男が自分と同じほどの長さの大剣をテーブルに向かって振り下ろしていた。


「そんな…リュージさん…バーディさんが……」


「見るなエレナちゃん!クソ!おいてめぇ!いきなり何しやがる!」


「黙れ……龍めが…」


男は俺たちの方へゆっくりとその身体を向けてきた。男は左手がなく、隻腕でその巨大な獲物を扱っている。灰色の髪は手入れされておらず、その青い瞳は本当に俺たちのことが見えてるのかというほど濁りきっている。


「我が名はウールマルク!誇り高き竜狩りの騎士!黒龍よ、その首…貰い受ける!」


気にいっていただけましたらブックマーク等よろしくお願いいたします。

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