冒険者ギルド
村を出た俺とエレナちゃんは東にあるタラムという街へ向かってバイクを走らせていた。このあたりの道思いのほか入り組んでいるな。エレナちゃんの案内がなかったら確実に迷ってたぞ。
「なぁエレナちゃん。タラムまでどれくらいかかるもんなんだ?」
「馬に乗れば6時間くらいの距離ですけど、リュージさんのバイク…でしたっけ?この速さならもうそろそろ…あ!見えてきましたよ!」
森の中の舗装された道を進んでいると木の合間から高い土色の壁が見えてきた。高いだけじゃなく、横にも広い。もしかして街を囲ってんのか?すげぇ、こんなデカい壁初めて見たな。
「この道沿いに行けばタラムに入るための正門があります。」
「了解、いいねぇ。ちょっとワクワクしてきたよ。」
しばらく進んでいくとよりその壁のデカさが際立ってきた。そしてエレナちゃんが言っていた正門があり、背丈からして両方男だろう。槍を持った銀色の甲冑姿の二人が門の左右に立っていて俺たちに気づくと手に持った槍を交差させて俺たちの道を塞いだ。
「おい、そこのお前止まれ!」
「へいへい、お勤めご苦労さん。」
「お疲れ様です!」
「妙な身なりをしているな…それに乗っているのは…馬か?」
「別に怪しいもんじゃねぇよ。この街には買い物しにきただけさ。」
「うーん、本当か?どうも信用出来んな…」
右側の門番がやたらと俺たちを警戒している。しまったな。バイクは移動手段として申し分ないんだが、この世界の人たちに無駄に警戒心を持たせちまうみたいだ。
すると左側の門番も俺たちの方へ近づいてきてエレナちゃんに声をかけた。
「君は…エレナかい?」
「え?はい…そうですけど。」
「おぉ!エレナか!しばらく見ないうちに立派になったじゃないか!」
「その声…もしかしてゴルドさんですか?」
「え?なに?エレナちゃん知り合いなの?」
ゴルドと言われた門番が兜を脱ぐと40歳前後だろうか。金色の髪を短く切りそろえた壮年の男の顔が出てきた。
「本当にゴルドさんだ!お久しぶりです!」
「あぁ、久しぶりだな。綺麗になったねぇ、一目見た時は誰か分からなかったぞ!」
「あの、ゴルド隊長。お知り合いなんですか?」
「おい、それもう俺が聞いたぞ。」
「ゴルドさんは私のお父さんと知り合いでタラムに来た時、三人でよくご飯を食べたりしてたんですよ!」
「そういうことだ。で、そちらの騎手の方は?」
「二宮龍士だ。エレナちゃんには旅のお供をしてもらってるんだ。この子がいなかったらここにたどり着けなかったよ。」
「ほう、旅か…フフ、よしわかった。通行を許可しよう!」
「ええ?!いいんすか隊長!」
「エレナとその友人だ。信用に足る人物なんだろう。リュージ君だったか?エレナをちゃんと守ってやるんだぞ?何かあったら承知せんからな?」
「言われなくても分かってるよ。」
「ありがとうゴルドさん!」
へぇ、甲冑なんて着てるからなんか堅苦しいイメージがあったが、気前のいいおっさんだな。なんかこういうノリ懐かしいぜ。
「まぁ、隊長がそう言うなら…じゃあ通行料を。」
「は?」
「いやだから。街に入るための通行料だよ。銀貨一枚。あ、二人分だから銀貨二枚だな。」
「それ…払わなきゃいけねぇの?」
「当たり前だろ!どの街もみんなそうだ。まさかお前…金を持ってないのか?」
うっかりしてた!こんなことあんのかよ!まぁ考えてみりゃ高速道路入る時とか金払うもんな。それと同じ感じか?ていうか俺この世界の金一銭も持ってねぇぞ!
どうする…下げるか?!敵対した暴走族百人に囲まれても下げることがなかったこの頭を!遂に下げる時がきたのか?!
「あ、私お金を持ってきてるんです。リュージさんの分の通行料も私が払いますよ。」
「エレナちゃん!すまねぇ…本当にすまねぇ…」
俺はエレナちゃんについてきてもらったことを心底ありがたく思いながら、自分のあまりの情けなさに門番二人の冷たい目線を感じながらもしばらく頭を上げることが出来なかった。
「こんな奴にエレナを任せて大丈夫だろうか…」
「駄目…じゃないっすかね?」
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エレナちゃんのお陰で何とかタラムの街に入った俺たちはバイクを降り、街の散策を始めた。村長が職人の街と言っていただけあってショーケースに剣や盾を飾っている店が沢山ある。
(そういや、ここに来てからドタバタで気にする暇がなかったが俺この世界の人と普通に会話出来てんな。店の名前も見たことない文字なのに意味が分かるぞ。爺さんがなんかやってくれたんだろうな。)
「…ージさん?リュージさん?」
「お、おう。すまん、ちょっと考え事してた。どうした?」
「あのお店に入りましょう。食材とか日用品を扱ってて値段も安いんですよ!」
エレナちゃんが指差したのは看板に『ハインズ商店』と書かれた二階建ての建物で人気があるらしく多くの人が出入りしている。
「へぇ、スーパーみたいだな。よし、じゃあそこに…いや待て!」
「え?どうしたんですか?他に気になるお店でもありました?」
「違うぜエレナちゃん。あの店で買い物すること自体は何の問題もねぇ。むしろ大歓迎だ。だがな、問題は買い物をする時の代金だ。」
「あ、そんなことですか。安心してください。ちゃんと自分の予算は把握してますから!」
「駄目だ!これ以上エレナちゃんに奢ってもらうわけにはいかねぇ!」
「気にしないでください!リュージさんには助けられたんです。そのお礼だと思ってください。」
ぐ…やめてくれ…そんな純粋な目で今の情けない俺を見つめないでくれ!それを理由に何回も世話になるのは人間としてどうかと思う!
何か…何かないか!この状況を打破できる解決策は…ん?なんだこの張り紙…
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タラム冒険者ギルド
魔物退治から雑用まで様々な依頼が揃っております。
冒険者随時募集中
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「なぁエレナちゃん。この冒険者ギルドってなんだ?」
「あぁ、冒険者の方達の集会所ですよ。そこで依頼を受けて報酬を受け取ったり、情報交換をしたりするんです。ギルドの中には食事が出来る場所もあるんですよ。」
「報酬?そこで依頼をこなしたら報酬が貰えんのか?」
「えぇ、依頼によって代金はピンキリですけど…」
「そこだ!その冒険者ギルドに行こう!そこで一番報酬の高い依頼を受けようぜ!」
「えぇ?!買い物はどうするんですか?!」
「これからも旅のことを考えると資金稼ぎは絶対に必要になるだろ?それになエレナちゃん。男には譲れねえプライドってもんがあるのさ。」
「えぇ、買い物したかったのにぃ…」
エレナちゃんは渋々といった様子で俺に同行してくれた。俺は心の中で金が稼げたらエレナちゃんに何かうまいものを食べさせてあげようと密かに誓った。
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「ここです、リュージさん。ここがタラムの冒険者ギルドですよ。」
ハインズ商店からしばらく道なりに歩くと時計塔の付いたレンガ作りの大きな建物があった。その周りには冒険者らしき武器や防具を携えた奴らが大勢いる。
「へー、でっかい建物だなぁ。それにあいつらが冒険者か?結構人気あるんだな。」
「えぇ、タラムは鍛冶屋が多くて良質な武器や防具がすぐ揃うんで色んなところから冒険者が集まってくるんですよ。」
「ほーう、いいねぇ。それなら高額の依頼とかも揃ってそうだな。よし!早速入ろうぜ!」
俺はバイクをギルドの入り口の近くに止め、木製の扉を開けた。外にも大勢冒険者はいたが中は更に大勢の冒険者でごった返していた。
「おぉ、すげぇな。まさかここまでとは。で、依頼ってどう受ければいいんだエレナちゃん。」
「えーと、あそこに掲示板がありますよね?あそこに貼ってある依頼内容の書いた張り紙を受付に持って行けば依頼を受けれますよ。」
「よっしゃ。とびっきり報酬が高いやつ選んでやるぜ。」
ギルドの中に入ってから、そしてエレナちゃんと掲示板の前に移動する時も何故かずっとギルドの中にいる冒険者の奴らが俺たちをチラチラ見ながら何かヒソヒソ話してやがる。
何だよ冒険者ってのはこんな陰気な奴らばっかりか?
腹は立つが今は構ってる場合じゃねぇ。依頼を選ばねえと。
「飼い犬の捜索、倉庫の掃除に荷物運搬の護衛。簡単そうなものはこれくらいですかね?どれも代金は銅貨10枚か20枚くらいか…」
「うーん、この世界の通貨の基準は分からねえけどとりあえず少ないってことだけは伝わってくるな。」
「あ、リュージさんこれ!この依頼が一番報酬が高いですよ!」
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討伐依頼
依頼内容
ここから西にある野原に五体のストーンゴーレムがうろついている。行商の際に、ここは重要な通路になるため早急に討伐を依頼したい。
報酬 金貨10枚
依頼主 タラム商業組合
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「金貨10枚って高いのか?」
「はい!当分の食費や宿代は困らないくらいです!ストーンゴーレムは強いですけどリュージさんなら大丈夫ですよ!」
「そうか、ならこれに」
「待ちな!」
張り紙を取ろうとしたら後ろから野太い声で呼び止められた。振り返ると傷だらけの鎧を着たガラの悪そうな五人組が俺たちの元に近づいてきている。
「なんだよ。なんか用か?」
「その依頼は俺たちが受けようと思ってたんだ。そこをどきな。」
五人組の真ん中にいた目元に傷のある筋骨隆々な大男がそう言って俺を睨みつけてくる。おいおい、俺みたいな人間にガンつけるってことがどういうことが分かってんだろうな?
「大体舐めてんだろお前。防具や武器もなしに女連れでギルドに来やがってよ。お前みたいなヒョロいのがゴーレム五体なんて無理なんだよ。さぁ依頼書を寄越しな!」
「リュ、リュージさん…」
「大丈夫だよ安心しな…やなこった!そんなに受けたかったなら名前でも書いときな。ノロノロしてたテメェらが悪いんだよ。」
んだとてめぇ!
喧嘩売ってんのかコラァ!
大男の取り巻きの奴らが唾を飛ばしながら俺に罵声を浴びせてくる。いいねぇ、イキのいい奴らが揃ってるじゃねぇか。
「まぁ待ててめぇら。ここはこの世間知らずの坊ちゃんに冒険者の厳しさってもんを分からせてやらねぇとな。」
大男は太い指をバキバキと鳴らし拳を構え始めた。俺たちの周りにはいつのまにか大勢のギャラリーが付いていた。余程楽しみなのか、ちょくちょくヤジが聞こえてくる。
おい、早く始めろよ!
バーディ!そんなガキぶっ飛ばしちまえよ!
「フフフ、みんなお前が気に食わんらしいな。俺たち冒険者の中じゃ強さが何よりも優先される。喧嘩だ小僧。この豪腕のバーディ様に勝てたらその依頼は譲ってやる。おい誰か合図を…」
「一つ教えておいてやるよ。」
「何?」
「俺たちヤンキーの喧嘩はな、ガンつけられた時にはもう始まってんだよ!オラァ!!」
「グォォアア!!」
俺はバーディとかいう大男の腹にドロップキックを叩きこんだ。勢いよく後ろに吹き飛び、周りにいたギャラリーをなんか下敷きにしてようやくその巨体は止まった。
「デカイ図体してる割によく飛ぶじゃねぇか。よく覚えとけ。よーいドンで始まる喧嘩なんざありゃしねぇんだよ。」
「てめぇ!よくも兄貴を!卑怯だぞ!」
「ピーピーほざいてんじゃねぇよ。自分の兄貴分がやられてんだ。御託並べる暇があったら殴りかかってきやがれ!」
「ぐ…」
取り巻きの連中は俺を睨んではいるものの戦おうとはしない。すると、倒れているバーディの周りに集まった外野の声が聞こえてくる。
「あのバーディがたった一撃喰らっただけで白目向いて倒れてるぜ…」
「それに見ろよ…ここ蹴りを喰らった場所かな?アイアンメイルがベッコリ凹んでるぞ!魔物に攻撃されたってこうはならねぇ…」
その言葉を聞いて取り巻きの奴らの顔面はドンドン青ざめていく。
「で、どうすんだ?まだやるか?」
「す、すいませんでしたぁぁあ!!!」
そう言い残し、倒れたバーディをそのままにして取り巻き達はギルドを出て行った。チームワークもあったもんじゃねぇな。俺が呆れているといきなり歓声が上がった。
やるじゃねぇかあんた!
すげぇ馬力だな!気に入ったぜ!
なぁ、俺のパーティに入らねぇか?
「調子のいい奴らだぜ。待たせたなエレナちゃん。」
「いえいえ、はいリュージさん。これがギルドからの依頼委託の札です。」
そう言ってエレナちゃんは俺にタラムと刻印された銅板を渡してきた。ん?依頼委託の札?
「もしかして、もう張り紙を受付に持って行ったのか?」
「はい、あの人たちがリュージさんに気を取られている間に。あんな乱暴な人たちに依頼を奪われるなんて嫌じゃないですか!」
「ブ、ハハハハハ!!いいね、エレナちゃんその調子だぜ。逞しいじゃねぇか!」
「リュージさん、私も女の子なんですから逞しいはやめてくださいよ!」
「そうか?褒めてるんだけどな。まぁいいや。じゃあエレナちゃん早速行こうかゴーレム退治。」
「はい!」
人助けに転生した異世界で金稼ぎか…まぁ次に繋がるって考えりゃこれも悪くないかもな。
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