神との出会い、そして異世界へ
「う、うーん…ん?どこだ…ここ?」
長く寝ていたのか、身体中に気だるさを残しながら俺は目覚め、体を起こした。そこは上下左右どこを見ても見ても真っ白な何もない空間だった。
「あれ?なんで俺こんなところにいるんだ?確か…頭を殴られて…」
俺は殴られた箇所を手で撫でてみた。傷口がない。塞がってるとかそんなのとは全く違うみたいだ。
「おぉ!目が覚めたようじゃの!」
「うぉ!?な、なんだてめぇ!いつのまに後ろに立ってやがった!」
「すまんすまん驚かせてしまったか。で、龍士くん調子はどうじゃ?」
いつのまにか俺の後ろにアロハシャツと短パンを着たハゲ頭の爺さんが立っていた。本当に気づかなかったぞ…しかも俺の名前も知ってやがる。この爺さん…
「何者じゃ?と思っておるな?」
「頭の中読んでんじゃねぇよ!てかマジで何者なんだよ爺さん!」
「フッフッフ…よくぞ聞いたぞ小童!ワシは神じゃ!森羅万象の調整者にして天界の頂点に立つ者なのじゃよ!」
…
「おい爺さん…今何時か知らねえけど酒は飲みすぎんなよ?」
「酔っとらんわい!なんという奴じゃ!ワシを目の前にして驚かんとは!」
そりゃこんなだらしねぇ格好してちゃなぁ。広島にもこういう爺さんいっぱいいたし…でも、俺が普通に生きてて傷口もなくこんな訳の分からねえところにいることを考えると…
「この爺さん…まさか本当に?!と思っておるな?」
「だから読むなって!はぁ…もういいよあんたが神様ってことで。で?その神様が俺なんかに何の用だよ。」
「うむそうじゃった、実は君に頼みごとがあってのう。君は自分が死んでしまったという自覚はあるな?」
改めて言われると、結構くるな…タケシ、あいつうまくやってるかな?
「普通のものなら死ねばそのまま魂は元の世界に輪廻して別の命として生まれ変わるんじゃ。じゃがワシは君のような特別な強者には別の道を歩むチャンスを与えておるのじゃ。」
「別の道?」
「あぁ、いきなり言われても理解しづらいと思うがの、君には今まで暮らしていた世界とは違う異世界に転生しその世界を救ってもらいたいんじゃ。」
「爺さん…それ真面目に言ってんか?」
理解しづらいどころか全く分からねぇ…異世界?救う?暴走族の俺がか?
「マジもマジ、大マジじゃよ龍士君。君に転生してもらおうと思っておる異世界にはな、君たちの世界には存在しなかった魔物や魔法が存在するんじゃ。」
「魔法って、漫画とかアニメとかで出てくるようなやつのことか?」
「あぁ、そうじゃ。そして今その世界は魔王とその軍勢の侵略により、多くの人達が何の抵抗も出来ず傷つけられておるんじゃ。人々はただ怯えながら日々を過ごしておる。彼らに決して弱いわけではない、ただ指導者がおらんのじゃよ。」
その話を聞いて俺の中で少し何かが動き始めた気がした。昔っからそうだ。誰かが傷ついてる、自分の欲のままに他人を傷つけてる奴がいる。そんな話を聞くとどうにも我慢ならなくなっちまうんだ。
「ワシもどうにかしてやりたいが神であるワシが直接手を下すことは禁じられておる。そこでワシは君に目をつけたのじゃよ。類い稀な強さをもち、大規模な組織の長をしていた君にな。」
「もしかして戦うだけじゃなくてその世界の人達を導けって言いたいのか?」
「察しがよくて助かるわい。もちろん無理強いをする気は無い。拒否したとしてもワシは君の意見を尊重し、元の世界へ生まれ変わらせてあげよう。」
ぶっちゃけ故郷に未練がないと言えば嘘になる。でもこのまま他人に生まれ変わって元の世界でのうのうと生きるか、俺として異世界に転生し、そこの人たちを助けるか。選択肢は二つ…いや、一つだな。
「いいぜ爺さん。行ってやるよ。魔王だかなんだか知らねぇが、調子に乗ってる野郎はいっぺんぶっ飛ばしてやらねぇとな!」
「おお!そうか!そうかそうか!ありがとうよ龍士君、そう言ってくれると思っておったよ!よし、そうなれば早速これを見てくれ」
そう言って爺さんは俺に一冊のファイルを手渡してきた。開いてみるとどうやら何かのリストらしく物の写真と一緒に説明文が書かれていた。
「それはな、異世界で戦うのに役立つパワーアップアイテムのリストじゃ。その中から気に入ったものを一つ選んでくれ。」
「パワーアップ?ケチなこと言わねぇで全部くれよ。」
「すまんが、決まりでのう。それにそこに載っておるアイテムも無限にあるわけではない。一人に何個も持たせられんのじゃ。」
「ふーん、天界ってのも苦労してんだな。」
ここに載ってるのは重要なアイテムなんだろうな。慎重に選ばねぇと。どれどれ…
1.不死鳥の羽
2.不死者の牙
3.剛腕のグローブ
「どうじゃ?何か気になるものはあったか?」
「うーん、あんまりピンとこねぇなぁ…」
ファイルに書かれてる説明をチェックしていっても氷を出せたりだの風を操れるだの色々書かれてたがイマイチなんだよなぁ。でも適当に選んでハズレを引きたくは…ん?
「なんだこれ?」
「お?なんじゃ?」
リストの最後のページを見るとそこだけ大きなバツ印が書かれている。黒い真珠のような物の写真が貼られていて名前は…黒龍の雷珠?
「なぁ爺さん。この『黒龍の雷珠』ってなんだ?」
「あー、それか。それはな、黒龍という黒い雷を操る龍がおってな、其奴の体内にあった宝玉じゃよ。それを飲めば黒龍と同じ能力が手に入るんじゃ。」
「ふーん、いいじゃねぇか。黒龍って言われたら嫌が応にも縁を感じちまうよ。決めた!爺さん、これくれよ。」
「いや、それはな危険な代物なんじゃよ。黒龍の力はワシが想像していてたものよりも強力でな。それを飲んだ者は相性が悪ければ黒龍の力に呑まれ暴走してしまう危険性があるんじゃ。流石にそんなものを渡すわけにはのう…」
成る程、だからバツ印が書かれてたってわけか…確かにヤバそうではあるな、でも…
「いいよ、気にしねぇから。俺はこれにするぜ爺さん。」
「え?いや、でもなぁ」
「俺の直感がこいつにしろって言ってんだよ。俺を信じろって、一応広島じゃ黒龍の総長だったんだからよ!」
「よくわからんが、君がそこまで言うなら仕方があるまい。いいじゃろう、なら君には黒龍の雷珠を授けよう!右手を出しなさい。」
爺さんに言われるがまま右手を前に出すといきなりそこにビー玉くらいの大きさの黒い球体が出現した。これが黒龍の雷珠ねぇ…そんなにヤバそうには見えねぇが。
「それを飲むときは覚悟はしておいてくれよ?それともう一つ。」
「なんだ?まだなんかあるのかよ?」
「君が生前に持っていたものを二つ、向こうの世界へ転送してやろう。なんでもいいぞ?」
「マジか!そんなこと出来んのかよ!へへ、それなら迷うことなんてないぜ!」
「ほう、興味深いのう。一体なんじゃ?」
異世界なんて訳の分からねぇ場所に行くんだ。どうせなら俺の相棒たちにも付いてきてもらいてぇ。
「バイクと金属バットだ。これがあれば俺は無敵だからな!」
「ワッハッハッハ!なるほどのう、君らしいと言うべきじゃな。あいやわかった!君のバイクとバットには特別な魔法をかけて強化しておいてやろう!では早速異世界へ飛んでもらうぞい!」
爺さんが右腕を振り上げると、俺の足元がいきなり発光し始めた。
「なぁ爺さん!異世界で敵を殴ったら傷害罪とかにはならねぇよな?」
「安心せい!君は何も気にせずその豪腕で敵を薙ぎ払え!」
「世話んなったな爺さん!行ってくるぜ!」
俺が爺さんに手を振ると視界はどんどん光に包まれていき、その余りの眩しさに俺は反射的に目を瞑ってしまった。
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「頼んだぞ龍士君。君なら…いや、君ならば黒龍の力さえも…」
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一瞬浮遊感を感じ、驚いたがすぐに足元にしっかりとした感触が戻ってきた。これは…土か?俺が目を開けるとそこは森の中だった。
「ここが異世界…なんだよな?どう見ても普通の森だけど。お!あるじゃねぇか俺の愛車と愛武器が!」
辺りを見回していると俺のすぐ側に地元で乗り回していたバイクと俺が喧嘩の時によく使ってた金属バットが置いてあった。俺は嬉しくなり、バイクに近寄るとシートの上に小さな紙が置いてあった。
「なんだこれ?なんか書いてあるぞ?」
(龍士君、これを読んでおるということは君が無事に転生を果たしたということじゃ。約束通りバイクとバットは届けたぞ。それとなバイクには無限の燃料と絶対に壊れないボディになる魔法、金属バットにも絶対に壊れなくなる魔法をかけておいたぞ。あと黒龍の雷珠はズボンのポケットの中じゃ。さぁ龍士よこれで異世界で大暴れしてやれい! 神様より)
「適当な奴かと思ってたけどちゃんとしてんなあの爺さん。」
俺は金属バットを手に取り、その感触を懐かしく感じながら空に振り上げた。
「やってやるぜ爺さん!調子乗ってるやつは俺が片っ端からぶっ飛ばしてやるよ!!」
「キャァァァァ!!」
森の中にいきなり甲高い悲鳴が響き渡った。声の様子からしてだいぶヤバそうな感じだな。
「誰か!誰か助けて!」
「…西からだな!」
俺はバイクにまたがり思い切りエンジンをふかした。
ドルルゥン!!
「いい音だ!さぁ異世界一発目の人助けだ!ぶっ飛ばして行くぜ!」
俺は声が聞こえてきた方向に向かって愛車と共に森の中を突っ切った!木は多いっちゃ多いがこの程度なら障害物にすらなりゃしねぇよ!
=====
私は村の近くにある森に逃げ込んだ。このままじゃ村が危ない、どうにかして助けを呼ばないと…でも…
「お願いします!やめてください、やめてください!」
『ブククク、人間の若い女だよ兄ちゃん。』
『あぁ俺たちはついてるぞ弟よ。キングからは好きにしろって言われてるからなぁ。どこから喰ってやろうか?』
捕まってしまった…この猪人達に。
………ルルル…
『なぁ兄ちゃん早く殺しちまおうぜ?俺腹が減っちまったよ。』
……ルルルルル…
『それもそうだな、そんじゃあばよ嬢ちゃん!』
そう言って片方のオークが棍棒を振り上げてた。ごめんなさい…お父さん…みんな!
…ドルルルルル!!!
「舐めた真似してんじゃねぇぞコラァァ!!」
『な!なんだこいつ…ギャァァア!!』
『に、兄ちゃぁぁぁん!!』
「え?」
私の前からオークが吹き飛んだ。あれは…鉄の…馬?それに若い黒髪の男の人が乗ってるわ。手に持っているのは剣?棍棒?
「よぉ、大丈夫かあんた?」
「あ、あの…あなたは一体?」
「俺か?俺は…」
『痛えぇ!クソ!何しやがるんだてめえこの野郎!』
『だ、大丈夫かよ兄ちゃん!』
「おっと、自己紹介は後回しだ。まずはあの豚面の奴らをぶん殴ってからだな。」
そう言うとその人は馬から降りて私を守るようにしてオーク達に武器を構えた。初めて会った、名前も知らないこの人の背中が私にはどこまでも大きく、頼もしかった。
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『殺してやる!殺してやるぞガキがぁ!』
『よくも兄ちゃんを!お前楽に死ねると思うなよ!』
「はっはっは、そのセリフ聞き飽きたぜ。毎回毎回喧嘩のたびに同じこと言われるんだよ。てめぇらこそ覚悟しろ?寄ってたかって女を痛めつけやがって!!」
今目の前にいる奴ら、人間の身体に豚の顔がついてやがる。だがそんなのはどうでもいい!今はこのバカ共を吹っ飛ばすことしか考えらんねぇ!
「さぁ行くぜ豚ども!その腐った性根叩き直してやる!」
『何を言ってやがるてめぇ!死ねやぁ!』
豚面の兄の方が俺に向かって棍棒を振り下ろしてきた。大振りだな、俺は身体を横に逸らして躱し、豚面の腹目掛けて思いっきりバットを振り抜いた!
「いいか?武器ってのはなぁ、こう振るんだよ!」
ドゴンッ!
『ブゴォ!!ク、クソォ…』
『に、兄ちゃん!ちくしょう…あれ?どこいった?』
「ここだよウスノロ!!」
俺は腹を叩かれうずくまった豚面の身体を踏み台にして残るもう一匹の方にジャンプしていた。
『う、うわぁぁぁぁ!!』
「反省しやがれこのバカ野郎が!」
ガンッ!
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豚面達を倒し、俺は襲われてた女の子の方に向き返った。
「おい大丈夫か?どっか怪我とか…うお!」
女の子は既に俺の近くまで寄ってきていた。そして俺の手を両手で握り締めてきた。
「お願いします!助けてください!私の村が、お父さん達が!」
「おい、落ち着けって!何があったかちゃんと話してみろ!」
女の子はハッとして、深呼吸をし俺の目をまっすぐ見つめながら話し始めた。
「私の村がこのオーク達の群に襲われているんです!突然現れて私達何も出来なくて…それでお父さん達が助けを呼ぶように私だけなんとか逃してくれたんです!」
「オーク?こいつらと同じような奴らがあんたの村を襲ってんだな?」
「はい…お願いします…このままじゃ…」
「わかった!行くぞ!早く乗んな!ほらヘルメット。頭に被れよ。」
「え?は、はい。あの…た、助けて下さるんですか?」
「当たり前だ、断る理由がねぇしな。急がねぇとなんだろ?ほら、早く乗れ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
女の子はヘルメットを被り、恐る恐る俺のバイクの後ろに跨った。準備は出来たな、よし行くぜ!
ドルルゥン!
「きゃあ!な、何?なんの音?」
「村の方角は?」
「こ、ここから南にまっすぐです!」
「よっしゃ!じゃあ飛ばすからよ、しっかり捕まってな!」
「え?捕まるって…きゃぁぁぁぁ!!!!」
ブォォオーーーン!!!
俺は異世界に来て初めて出会った女の子を後ろに乗せて全速力でこの子の村に向かってバイクを走らせた。
この子の名前やあの怪物達のこととか聞きたいことは色々あるがそんなのは後回しだ。助けてやらなきゃいけねえ奴らがいるんだからな!