プロローグ
20xx年某月 広島県広島市某所
「オラァ!」
「グワァァア!」
夜、殆どの人が就寝し静寂に包まれる時間帯。そんな夜中に俺はとある港の近くにある公園で'日課'に従事していた。
「さっすが兄貴!10人を一瞬でのしちまうなんて、マジパネェッすわ!」
「これくらいのことで騒いでんじゃねぇよタケシ。こいつらが弱すぎんだよ。」
「いやいや!それでもこれはやばいっすよ!黒龍総長の歴代最強の名は伊達じゃねぇや!なぁみんな?」
オオオォォォ!!
タケシの呼びかけに俺たちの後ろにいたバイク集団からバイクのけたたましい排気音と大きな歓声が上がった。
「うるせぇぞてめぇら!ここらの皆さんはもう寝てる時間なんだ、静かにしねぇか!」
すいやせんっしたぁ!
俺の言葉に周りの奴らは一斉に頭を下げた。そう、今俺の周りにいるバイク乗り兼ヤンキーたちは広島最強の暴走族「黒龍」でこいつらは全員俺の部下だ。
そして俺、二宮龍士はこの暴走族を束ねる総長をやっている。
まぁ、特に誇るようなことでもないんだが。
「いやー、なんか動いたら腹減りましたね兄貴。なんか食って帰りましょうよ。」
「こんな夜中にいきなり押しかけるわけにもいかねぇよ。ほらてめぇら、帰り支度だ早くしろ。」
「なんか…前々から思ってたんすけど兄貴って真面目っすよね?暴走族やってる割には色々気遣ってるっていうか。」
「当たり前だろ。俺たちはいるだけで周りに迷惑かけちまってんだ。これ以上他人様を煩わせるようなことはしたくねぇんだよ。」
「じゃあ兄貴はなんで暴走族の総長やってんすか?」
「お前らみたいな奴を相手にするときは注意するよりもぶん殴った方が早いだろ?」
「なるほど!さっすが兄貴!」
本当に分かってんのかこいつ?まぁ、この単純さに助けられているところは多々ある。
この暴走族は俺が作ったものじゃない。更に言えば俺は元々一般人だった。
この黒龍は先代総長の時はかなり悪名高いグループだった。夜間の騒音、盗み、暴行とやりたい放題暴れまわっていたんだ。
余りに好き勝手にしているコイツらに俺は痺れを切らし、バット一本を持って先代総長と'話し合い'をさせてもらい、協議の末に俺が総長になり統治するという結果に落ち着いた。
なんでそんな事をしたかって?俺は曲がった事が大嫌いなんだ。他人様を傷つけて悦に浸ってるような奴は特に許せねぇ。そいつらをおとなしくさせる方法が暴力しかないのなら俺は迷わずそいつらを殴る。まぁ…ロクな死に方しねぇだろうな…
「兄貴、もうみんな帰れるみたいっすよ。帰りましょう。」
「ん?あぁ、そうだな。お前らうるさくないように帰れよ?そんじゃあ解散!」
おつかれっしたぁ!
部下たちが全員帰ったのを確認してから俺は近くにあったベンチに座った。タケシは近くにあった自販機で缶コーヒーの二つ買って一本を俺に渡してきた。
「兄貴どうぞ!」
「おう、サンキュー。…座らねぇのか?」
「いやそんな!兄貴のお隣に座るだなんて恐れ多いですよ!」
「なんだよそれ、いいから座れって。命令だぞ?」
「う、うっす!失礼します!」
そう言ってタケシは申し訳なさそうに俺の隣に座り、俺たちは一緒に缶コーヒーを飲み始めた。何か話そうと思いタケシの方を見たら、タケシの表情に何か違和感を感じた。
(ん?なんかいつものタケシとは雰囲気が違うような…シリアスな感じって言えばいいのか?)
「そういえば兄貴、知ってます?」
「何を?」
「どうも最近、他の族たちが兄貴を倒すために連合を組んでるって話っすよ!人数もすげぇらしくて、武器とかもわんさか揃えてるって噂っす!」
あぁ、なんか他の奴らもヒソヒソ話してたやつか。
「誰が言い出したかも分かんねぇような噂だろ?ほっとけほっとけ。」
「兄貴は油断しすぎっすよ!」
「うわ!お前急に大声出すなよびっくりすんだろ!」
いきなりタケシに怒鳴られた。どうやらタケシはこの話題について相当真剣らしい。
「もしこの噂が本当なら兄貴の身が危ないんすよ?!…俺、兄貴には本当に感謝してるんです。この黒龍を良くしてくれて、俺みたいな鈍臭い奴にもちゃんと世話焼いてくれてるんすから!」
「お、おい。なんで泣きそうなんだよ…わかった!注意する!気をつけるから、な?泣くなってお前!」
焦る俺の事を一切気にせずタケシは大粒の涙を流しながら俺を手を握ってきた。
「兄貴!なんかあったらすぐに俺を呼んでくださいね!俺絶対に兄貴の味方っすから!」
「フフ…はいはい。ありがとよ。そう言ってくれるだけでも嬉しいよ。」
タケシの純粋さに一瞬は押されてしまったが、コイツなりに俺の身を案じてくれていたようだ。コイツのこういう優しさは嫌いじゃない。
「さて、そろそろ帰るか。なぁタケシ。やっぱり飯食って帰るか?」
「え?いいんすか?さっきはダメって言ってたのに!」
「気が変わったんだよ…そうと決まれば…」
油断しすぎ、タケシは俺にそう言った。本当にそうだったらしい。俺は考えていなかった。俺を倒そうとしてる奴らが俺以外のやつに手を出すという事を。ちょっと考えれば分かるような事なのに…
そのせいで気づく事が遅れてしまったのかもしれない。俺はタケシの後ろで角材を振り上げている奴の存在に!
「タケシィィィ!!」
「あ、兄貴?!うわぁぁぁぁぁ!」
ゴチャッ!
俺はタケシのところに駆け寄って横に突き飛ばした。そのまま反撃しようと思ったが間に合わなかった。
頭に強い衝撃が走り、何か熱いものが流れ出てきた。それは瞬く間に俺の顔を塗りつぶし視界を真っ赤に染めた。
「そんな…兄貴…兄貴ィィィ!!」
クソ、なんだ?タケシの声が反響して聞こえる。頭もグワングワンで立ってるのがやっとだ…
「へ、へへ!やった…やったぜ!あの二宮龍士を殺してやったぜ!」
俺を殴った男はそう言い残し、そのまま走って逃げていった。チクショウ、情けねぇ…殴られたまま反撃もなしに相手を逃がしちまうなんて…
だが今の俺には反撃なんて無理だろう。もう立ってもいられず、その場に崩れ落ちた。
「兄貴…そんな…今病院に!」
「タケシ…タケシ…そこに…いんのか?」
「兄貴?!います!いますよ!俺はここです!」
「すまねぇ…な。あんな…偉そうなこと…言って…このザマでよ…」
「何言ってんすか兄貴!もう喋んなくていいっすから!」
「次の…総長は…お前だ。このグループをどうするかは…お前が決めろ…だがな、復讐だけはするんじゃ…ねぇぞ。」
「お、俺が?!そんなの…そんなの嫌っすよ!俺らの総長は兄貴だけ…」
「情けねぇこと言ってんじゃねぇ!」
俺は力を振り絞りタケシの手を握り返し、腹から思いっきり声を出した。もう何も見えねぇ。頭も痛い。かなり寒い。でもこれだけは…これだけは言っておかなきゃならねぇんだ。
「いいか?誰かがやんなきゃならねぇんだ!頭のない身体は動かねぇ。ただそこで腐っていくだけだ!お前は黒龍を、このグループを腐らせてぇか?!また前みたいなクソの集まりに戻してぇのか!」
俺はちゃんと喋れているだろうか…この言葉がちゃんとタケシに伝わっただろうか…
「…わかりました。分かりましたよ兄貴!俺やってみせます!絶対兄貴の代わりを果たしてみせますから!」
「へへ、バーカ。代わりじゃねぇ…お前自身の…」
「兄貴…?兄貴ィィィ!!うわぁぁぁぁぁ!!」
こうして俺、二宮龍士の人生は幕を閉じた。この後俺はどこに行くんだろうか?天国か、地獄か…
まぁ…地獄だろうな。
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