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第一話 きしょう
「ん……」
少女が目を覚ました。
灰色のコンクリートの隙間から、オレンジ色に染まった朝の空が広がっている。
「……寒」
寝ぼけ眼を擦りながらそうつぶやいた。
寝袋から手を出して、ほっぺたを擦る。
「そろそろ、マフラー出さなきゃかな……」
ほっぺたに置いた手をそのまま、カバンを見やってそうこぼした。
同じ寝袋で寝ている——といってもかなり大きいので間は十数センチほどある——少年を起こさないように、音を立てぬまま抜け出す。
「マフラー、どこ入れたっけ?」
ごそごそ——とカバンの中身をあさる音が薄く鳴る。
やがてそれを見つけたのか音がやむ。
冷たい床をぺたぺたと靴下で歩く音へと変わった。
すぐにそれも止み、ぼすっと寝袋に倒れ落ちる音がする。
「はい、マフラー」
まだ寝ている少年に対して、少女は首を絞めないようにそっとそれをかけた。