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第十三話 できごと
不思議な影が、高く上った太陽に照らされるなか揺らめく。
背負ったカバンと抱き抱えた少女でバランスをとるようにゆっくりと前へ進んで行っている。
「らくちん」
にんまり笑顔を浮かべた少女が言った。
その腕の中には立方体が収まっている。
「…………」
恨めしそうな目を向ける少年だったが、文句は声に出さず、もくもくと歩く。
歩く。
いくつもの雲が空を横切った。
いくつもの壊れたビルが地平線を流れた。
いくつもの汗が地面に零れた。
いくつもの文明の跡を通りすぎた。
人生の大半を、二人で過ごしてきた。
「……私たち以外に、誰かいないのかな」
空はすでに紅く染まっていた。
少年の腕の中には目を閉じた少女。
その少女が突然目を開けて、そう言った。
「……誰にも、会ってないな」
少年も返す。
ビルの隙間から光が定期的にのぞいている。
ちょうど影に入った所で少女が問う。
「何があったんだろうね。この世界」




