第十二話 しゃざい
「…………」
白い髪が湿って、ぺたりとおでこにくっついてしまっている少女が気持ち早足で道を歩む。
「……ごめんな、あそこまで水量が回復してると思ってなかったんだ」
後ろから少し距離を開けて少年が追いかけている。
先ほどから少女に話しかけているものの、返答は無い。
話しかけるたびに足を速めている気すらする。
突然、たっ――とランニングに近いスピードで走っていた少女が足を止め、振り返った。
「人が気持ちよく寝てるときに普通水ぶっかけないよね?」
じと――と、半目で急停止に慌てる少年を見やる。
「だって、あの時逃げたし」
目どころか顔を明後日の方向に向けながら言った。
露骨に視線をそらされた少女は頬に手を伸ばし、少年の顔をぐりっと自分の目と合わせるように回した。
「反省の色が見えない」
少年はなお往生際悪く目をそらすが、少女はその先へと動く。
「……もうしわけありませんでした」
「うんうん、それで?」
満足したようにうなずき、続きを促す。
少年はしばらく考え、一つの答えを出す。
「おんぶしようか?」
少年はカバンを前に移した。
「子供っぽいからやめて。お姫様だっこなら許すけど」
手でそれを静止して、少女は言う。
「……はい、じゃあそれで」
「よろしい」