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第九話 きゅうけい
「……疲れた」
ビルが乱立する中、ぽっかりとあいた空白地帯。
少年と少女は黒いアスファルトの上で仰向けに寝転がっていた。
「あんなに…全力で走ら…なくても……」
もう秋も終わるというのに、額に雫を浮かべた少女が言う。
それは肩で息をしながらの、とぎれとぎれの言葉だったが。
「だって、逃げるし」
同じくぜぇぜぇ言いながら倒れている少年が簡単に返す。
こちらは、汗はかいていない。
「だって、追いかけ…てくるし」
ぴたっと少女の水滴が地面へと落ちた。
「堂々巡り……じゃねえか」
だいぶ息が落ち着いてきた少年が言った。
そう少年が言ったところでぱたりと会話がやむ。
二人して、仰向けのまま空を見上げる。
まぶしくて、碧い。
ちらっ、と雲がビルの隙間から顔を出した。
が、恥ずかしがるようにすぐにビルの陰へと隠れる。
「……もし人がいたら、みんな、こんな風に暮らしてるのかな?」
少年が漏らした声は、寝息を立て始めた少女にも、存在するかすら分からないそれ以外の何物にも、届かなかった。