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第五話 おくない
——たぱたぱ
金属の立方体の角はぐにっと押されて形をゆがめた。
押された所とは真逆からちょろちょろと水が出る。
少年は左手に持った乾いた布で受け止めた。
薄いベージュ色だったそれの色がだんだんと濃くなってゆく。
半分ほど濡らしたところで水を止める。
「勢い弱くなってるな……使い過ぎたか」
昨日はとぽとぽ出てたのに、と洩らす。
はぁ、とついた溜息が薄くはあるが白く大気に溶けた。
「仕方ないな。節約してかないとダメか」
出したのは使うけど——と独り言ち、着ていた服を脱ぐ。
「うっわ、さっむ」
ふっと吹いた風に体を震わせるが、それに対抗するように水をしみこませた布をひっつかむ。
ぴとり。
「——ッ!」
冷たい感覚が少年を襲う。
が、その苦痛に耐え上から順に拭いてゆく。
びゅお。
全身拭き終わり布を置こうとしたとき、冷たい風が少年をさらに襲った。
顔を歪ませながらさっと濡らしていない残り半分で水気を取る。
「これで終わり……長かった」
置いていた服を着た少年は安堵の息を漏らした。
今度は白くない、透明な息が空気を揺らす。