3話「本の虫」
ケロッグ軍曹とケロリン王女は恋に落ちていた。
立場上王女と軍曹が結婚など世間では認められていなかったが、2匹は愛し合っていた。
親は反対し2匹を引き裂こうとあらゆる手段を行使する。周りの住民からは軍曹に対しては執拗ないじめが繰り返し行われていた。
軍曹「もう僕らの住める土地ではない・・・2匹でこの街を出よう・・・!」
軍曹は駆け落ちを決断した。王女は二つ返事で了承した。
見知らぬ土地。見知らぬ建物、文化。
今までのように地位は全く通用しない。宿を探しては次の街へ。お金が無くなりかけたら2匹で日雇いの仕事をこなす。
過酷な日々だったが2匹は幸せな日々を送っていた。
そんな幸せな日々はそうそう続かなかった。王都より軍曹の生死問わず(デットオアアライブ)がかけられていたのだった。
罪状は王女の拉致誘拐。2匹は「もっと遠くの国へいこう」そう話していたその時・・・事件は起きた。
ケロッグの大冒険|(中間) ~完~
「うおおおおおお!!気になる!!」
俺は本を片手に叫んでいた。
「なんであの女上巻と中巻しか持ってないんだよ!!ありえん!」
他人から物を奪っておいて図々しく批判した。
「もう1回読むか・・・」
上巻を手に取る。もう何週目だろうか・・・それほど面白かったのだ。おそらく向こう側の世界ではベストセラーは間違いない、と俺は誇らしげに予想した。
「ん?」
気配を探る。
こちら側の世界に誰か向かってきているのがわかった。 この前の令嬢だった。前回と違ってお付きの爺がいなかったが、令嬢に相当レベルの高い加護がかけられていた。
面倒くせぇ・・・と思いつつ持っていた本を隠し、入口まで向かった。
現場に着くと、令嬢がキョロキョロと辺りを見渡していた。何の用か知らないがこの世界に正常者を入れるわけにはいかない。
「おい、二度と近づくなと言ったはずだが?」
俺はナイフをわざとらしくチラつかせ、ゆっくりと歩み寄り相手を脅しにかかる。
令嬢「あ!貴方は・・・!お逢いしたかったです。」
この世界には全くといっていいほど似合わないニッコリとした笑みを浮かべ頭を軽く下げた。
眩しすぎる笑顔にそっと目を反らす。俺はこの謎めいた笑顔が苦手だった。
「ここは無法地帯だ。その程度の加護で通用する世界じゃないぜ?」
嘘をつく。この頽廃した世界で令嬢にかけられている防護を破壊できるのは多くて俺を含め3人くらいだろう。
令嬢「今日は貴方にどうしてもお聞きしたいことがあってここに参りました。答えを聞けたらすぐ帰ります」
この流れで問いかけられる質問というのは大概ロクなもんじゃない。
「聞くだけ聞いてやろう」
何を問いかけられても軽く流して帰らせるつもりでした。しかし、簡単な質問で俺は苦しめられた。
令嬢「こちらの世界で満足してますか?」
「・・・・・・・・・・」
色々な思考が遮り、言葉が詰まる。俺にとっての満足とは何か?金、食事、娯楽、そんな簡単なものでは済まない。
無二の友人への”罪滅ぼし”がしたい。ただそれだけだった。小さい頃からずっと一緒に遊んできた友人を殺しておいて裕福な生活などできるはずがなかった。
またあの頃に戻りたい・・・楽しかった日々に・・・・。
「満足してる。 答えたからこれで帰るんだろ?」
令嬢「はい。ありがとうございます」
令嬢はなぜか満足げな顔をしていた。たったこれだけの質問で?
心理分析は得意なほうだがコイツの考えることだけはさっぱりわからなかった。
「じゃあな。犬に噛まれて死なないように気を付けるんだな」
この女にできるだけ関わらないほうが良いと踏み、早々と背を向け家の方へ向かおうとした。
令嬢「あの!この間の本の続きがあるんですけど いりますか?」
足がピタッと止まる。まさかケロッグ軍曹の大冒険|(下巻)か!?。
無言で振り返ると令嬢の手には俺が最も望んでいた本がそこにはあった。
ニッコリとした笑顔をしながら両手で本を差し出していた。
バツの悪い顔をしながら令嬢に近寄り片手でパシンと奪い去った。
背を向け右手に本を掲げながらケロッグ軍曹の決め台詞を言ってやった。
「この本に免じて今日のことは許してやる」
颯爽と歩く俺の後ろで女がフフッと笑っていた気がしたがどうでもいい。今のこのワクワク感はどの感情にも勝るのだから。
令嬢が帰ったことを確認し、家路についた。