2話「日常」
???「人殺し!」
???「浮浪者の分際で我が息子をよくも手にかけたなウジ虫野郎!」
???「あなたは私が死んでも一生恨み続けます」
「っは・・・!!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
俺は汗だくで朝を迎えた。
「・・・・・・」
「体 洗うか・・・・」
わざわざ貯めていた雨水の貯水で記憶と嫌な汗を洗い流した。
「ふぅ・・・昨日の本の続きでも読み返すか」
先日入手した「ケロッグ軍曹の大冒険」がかなり面白く、帰ってから夜中までずっと読み耽ていた。真っ暗でも夜目が効くので本の一冊読む程度は問題ないのだった。
俺は瓦礫の山に寝そべり、足を組み、本を広げいつもの読書体制になった。少し読み耽っていると1km先の崩壊したビル街から5人ほどの気配がこちらへ向かってきていた。
ビル街のほうでは大きめの組織が組まれており、何人かで一人を囲み獲物を狩るといった習性があった。
感じたことのない気配だった。おそらく新入りだろう。気にせず読書を再開する。
そして5人が目の前までやってきた。
男1「おい、そこの金髪!」
サングラスをかけた大柄な男が声を荒げて簡易な名称で呼ぶ。
男1「組織長がてめーをお呼びだ」
俺は目もくれず無視し読書を続行する。
男2「てめー!何シカトしてんだ!そっちがその気なら力ずくで連れていくぜ」
男4「組織長からも最悪命があればいいって言ってたからな・・・手足が無くなってもしらねぇぜ?」
俺は本に目を向けながら発した。
「本の一冊でも持って来たら考えてやるよ。あと食べ物もな」
男3「調子乗ってんじゃねぇぞこのクソガキが!殺す!」
男1「まぁ待て。」
腕を横にし、抑制する。
おそらく男1がこいつらを仕切っているようだが、この男に少し違和感があった。
男1「組織長の行為に感謝しろ」
男1が懐から本を1冊取り出し、こちらへ投げて瓦礫の山へとダイブした。
男1「これで来る気になったか?俺らもいじめは嫌いだからおとなしくするんだな」
俺は読んでいた本を閉じ、男が投げた本を拾い上げた。
「純文学の本か・・・?なかなか良いセンスしてるじゃねーかあんたらのリーダーは」
男1「ごちゃごちゃ言ってねーで早く着いてこい」
勿論俺はこんな男共の頭に会いに行くつもりはない。争いになることは承知だった。
「本はもらう。帰れ」
男5人達が目を合わせ、手筈通りの実力行使をするといわんばかりだった。
本をそっと隠すように置き瓦礫の山から飛び降りる。
男1「じゃあ決まりだな」
俺も決めていた。この男共が来る前から相手に実力をわからせ二度と絡みにこないようにするのはどうすればいいかを。
男5人の所持している武器、技能、能力全て把握済みだ、万が一負けることはない。でも痛いのは嫌だな・・・。と呑気なことを考えていた時。
男5が咄嗟に腰に隠していたリボルバー銃を取り出し引き金を2回引く。
2発の弾丸は俺の両肩をうまく打ち抜いた。それも骨ごと。
あー痛ぇ・・・。 心の中でそう思いながら何事もなかったかのように、相手を睨み付けながらゆっくりと詰め寄る。
男5「こ、こいつ・・・無痛症か!?」
男5が焦り後ろに下がりながら銃をこちらに向けまた2発発砲し、俺の両足を打ち抜く。
筋肉ガチガチのくせに意外と良い腕してるな、と思いつつも同じように詰め寄る。
既におれの両肩と両足の傷は治っていた。完治するまで約1秒といったところか。ろくな食事をとってないからいつもよりは時間がかかっていた。
さらに2発どて腹に弾丸が通り、空砲の音がカチカチと鳴る。同じように詰め寄り、尻もちを着いた男5の目の前で止まる。
男5「ば、ばけもんだ・・・!!」
両側から追撃がくる。ダガーは心臓の急所に刺され日本刀が体内を突き抜ける。俺は黒ひげ危機一髪かよ・・・と笑えないツッコミを心の中で入れつつ2人の手を握りへし折る。
男4と3が同時に悲鳴を上げながら後ずさる。2人には全治3か月の骨折をくれてやった。
体にささった血だらけのダガーと日本刀を抜き取り適当に構え、男2に向かい合う。
しかし、男2はすでに戦意喪失しており、手に付けたトゲ付きメリケンサックを震わせていた。
残った男1は眉間にしわをよせ腕を組みながらまだ立っていた。
「アンタはどうするんだ?」
俺はわかりきった質問を投げた。 こいつはここに来た時から殺気が一切なかったのだ。おそらく俺の実力を見る為だけに来たのだろう。
男1「俺達の負けだ。ここは引きあげさせてもらう」
やはり見物にきただけのようだった。引き留めるメリットもないので帰すことにした。
「本でも持って来りゃ話くらいはしてやるよ」
俺はそう言い放ち、瓦礫の山の上に登り、読書を再開した。
男5「てめぇ!俺らの組織にたてついたこと後悔するんじゃねーぞ!」
と声を上げた瞬間男5は男1に腹を殴られ大男が地を水平に飛んでいた。
男1「雑魚は組織にいらねぇ・・・物資の無駄だ」
そう言い放ち次々と引き連れてきた男達を殴り殺していた。
悲鳴を横耳に俺は淡々と本を読みながら、寝床の近くを汚されることを気にしていた。
男1が一通り粛清した後、「また邪魔するぜ」と血だらけの手を上げ帰って行った。
弱肉強食の世界。
これがこの頽廃した世界での日常だった。