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罪を背負った異端児の学園生活  作者: ジャスタウェイ
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1話「訪問者」

立ち込める異臭、悪臭。

家は壊れ、ゴミで溢れかえっていた。

何一つ日常的ではない頽廃たいはいした世界。

俺が望んだ世界。

富、名声、権力、何一つ無い場所。

あるのは弱肉強食という概念のみ。


しかし、ひとつ壁を超えるとそこは日常世界。

人々は笑顔で溢れ、何一つ不自由のない生活を送っている。

俺が暮らしていた元の世界。


----------------戻ることの許されない世界。



「はぁ・・・・腹へったな」


 天気の良い午前に瓦礫の山に横たわり上空の鳥を見つめ腹を鳴らす。

雨の影響で3日ほど食事という食事が得られなかったのだ。食用の草木はほとんどなく、雨水を飲む生活が続いていた。


 空腹感を満たすため飯を求めふらふらと立ち上がり、動物の気配を元に一直線に歩き始める。

物体の位置や動物のいる気配や熱量がわかる俺としてはなんの苦労もなかった。

現場にネズミがいた。


 気配を消して後ろからゆっくりとネズミを鷲掴わしづみし、内臓が潰れないように絶命させる。久々の肉に少し気分が上向きになった気がした。


 しかし、生きる価値を見失った男がこうしてせいにすがり、這っているネズミを追っているのは滑稽でしかないと思った。


 俺がここにいる理由。それは、唯一無二の友人を自分の手であやめてしまったことへの罪滅ぼしができるのではないかと思ったからだ。


 俺のような思考の人間はこの頽廃した世界には少ない。

犯罪者や家、職を失ったものが数多い。惰性で生きるには良い世界なのかもしれない。

だが、俺は心の中で消せない思いがある。


誰か俺の犯した罪を裁いてくれ・・・  そう願う日々が続いていた。


 自殺を何度も試みたがすべて失敗に終わった。いつからか俺は死ねない体になっていたのだ。

焼身、接頭、圧死、毒殺、餓死、あらゆる手段を用いても死ねなかった。

生き地獄を味わうしかなかった。


自分を悲観しながらネズミを握りしめ、瓦礫の家へと足を進めた。



 そのとき、男女二人の気配が近づいてくるのがわかった。俺が元々暮らしていた世界のほうからこちらの頽廃した世界へ来ようとする入口は一か所しかない。戦場の名残である防壁に囲われ、一部フェンスが張っており厳重なロックがかけられた扉がある。そこが唯一の入り口だ。


 ’立入厳禁’、’KEEP OUT!'の立て札が沢山置かれている。これは都市が頽廃した世界の住人に対し、都民ではないことを示していた。マスコミが入れば殺され、ヘリを飛ばせば撃ち落される。

 都市は頽廃した世界を処理しきれず、隠蔽いんぺいし、なるべく被害者を出さない方針としたのだった。


 しかし、まだこちらの頽廃した世界を知らない者が観光気分で見に来るのは珍しくはない。普段そういった無知のやからをシメて食料を奪う度追い返していたが今回のエサは一味違った。


 気配を探ったところ、男のほうがかなりの手練れだったのだ。


 俺はこの頽廃した世界の入り口付近を寝床なわばりとしている。よそ者を追い返す為ではない。観光者から食料が一番に奪えるためだ。そう自分に言い聞かせるようにため息を吐いた。


「はぁ・・・めんどくせぇ・・・」

 何度目のため息だろうか。俺はきびすを返し周りの住人ハイエナより早く着くように訪問者の方へ足を運んだ。


 入口のフェンスを抜けて2人が姿を現した。一人はいかにも令嬢といった感じの容姿をした女性で、もう一人は令嬢の護衛をする剣をぶらさげたヒゲの長い老師だった。瓦礫の山から様子を伺っていたが、ヒゲ老師はこちらに恐らく気づいているだろう。俺はゆっくりと2人に近づいていった。


 争いは面倒だから去ってくれと思いつつ、毎回ベタなセリフを開口一番に言う。


「今荷物を置いて帰れば、命だけは勘弁してやる」


 眼の瞳孔を開けすごみながらこう発した。


 勿論今まで一度たりとも言う通りにするヤツなどいなかった。学校に通ってこなかった俺の唯一のアイデンティティーである書物から抜粋したセリフだった。また新しい喧嘩言葉を入手しなければと思考を巡らせていたそのとき、令嬢が首をかしげ満面の笑みでこう言ったのであった。


「優しい方なのですね」


 一瞬思考が止まった。

この女 今何て言った?。作り笑いではない。

心から、本心で言ったことは目を見てわかった。


「あ?冗談言ってんじゃねぇぞ?いう通りにしなければ殺す」


ナイフをポケットから取り出し、2人に近づいていく。


「フェリア様・・・・お下がりください・・・」


 令嬢の前にヒゲ老師が顔をしかめて立ちふさがる。


「はぁ・・・」


 俺はまたため息をついた。面倒くせぇと思いつつ地面を強く蹴り、音の速さでヒゲ老師の背後を取り、ナイフを首元へ横振りする。


キィンと金属音が高鳴る。


ヒゲ老師の逆刃刀さかばとうの剣先がそこにあった。

 予想以上に良い動きをする爺さんだった。今の音で住人ハイエナ共が寄ってくると面倒だと思い、久しぶりに本気を出すことにした。


「その動き・・・お主・・・一体何者じゃ?」


 ヒゲ老師が喋りながら目に力が入っていくのがわかった。俺は言葉を振り払うように無視し、全力で2撃、3撃と回り込みながらナイフを振り、隙をついて右肩腱板みぎかたけんばんに斬り込みを入れて利き腕であろう右手の自由を奪った。


「グゥッ・・・!!」


 ヒゲ老師は肩を押さえ、後ずさりながら剣を持った手をぶらつかせる。

俺はすぐさまヒゲ老師のクビ筋にナイフを当て付けこう言い放った。


「荷物を置いてすぐ引き返せ。さもなくばコイツは殺す」


 殺す気などはさらさらない。目当てはこの世界の弱者である住人に与える食事があれば御の字だ。

久々の上客だ。食べ物と書物なんかがあれば良いと心を躍らせながら凄んだ目で令嬢を威圧する。

頽廃した世界には娯楽等一切ない。本の一冊でもあればそれで2、3日は暇を潰せるのだ。


すると令嬢はまたニッコリと微笑みながらこう言い放った。


「わかりました。食べ物と本があるのでここに置いて今日は引き上げます」


 軽く会釈をし、弁当箱?と本2冊を地面に置き、お付きの老師の元へ駆け寄った。

俺は尋常じゃない程テンションが上がっていた。本が2冊もある!。飛びつきたい衝動を押さえつつ、本のほうへ颯爽さっそうと歩いていった。


令嬢「ごめんね 爺や・・・無理させちゃって・・・」


ヒゲ老師「滅相もございません!全ては私の力不足にございます・・・」


令嬢「ここの人達はやっぱり良い人だった。それが確認できただけで来た甲斐がありました。今日のとこは帰りましょう」


 そう言い令嬢とヒゲ老師は出口のフェンスの方へと歩いて行った。一度令嬢が足を止め俺の様子を見て微笑んでいるのが背後から感じとれたが、それどころではなかった。俺はその場に座り込んで目を輝かせながら本を読み始めていたのだった。


 本には「ケロッグ軍曹の大冒険(上巻)」と書かれていた。もう1冊は中巻だった。

1時間程読みふけていたところふと我に返る。いつの間にか2人組はもうそこにはいなかった。


「腐る前に持って帰らねーと・・・」


 本をきかかえ、弁当を手にぶら下げ、弱者が住処すみかとする場所付近に向かった。

30分ほどかけて歩き、適当に弁当だけを置いて、自分の瓦礫の家に少し速足で帰った。いつもより足が軽かったのだ。


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