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CALM  作者: 時風 准
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プロローグ1

シキ「よし、僕の勝ちだ」


裕樹「ちくしょおおおおおおおおお! なんだってんだ! というかお前、何でそんなに飯食うの早いんだよ!? えぇ!? AHAN!?」


昼食タイムを含んだ昼休み。リラックスした雰囲気と柔らかめの喧騒が入り混じった食堂。そこに響き渡る友人の絶望的かつ悲痛な叫び声。


周りで食事をしていた生徒達はというと、またあいつらか、と半ば呆れた表情で僕たちのことを見ている。


――罰ゲームを賭けた早食い競争。挑んだのは裕樹、勝ったのは僕だ。


シキ「というか、激辛醤油味噌豚骨ラーメンで僕に勝負を挑む裕樹の方がおかしいよ。僕が辛いの大好きだって知っているでしょ?」


裕樹「今日は辛いのが辛い日ではなかったか……」


シキ「なにちょっと上手いこと言おうとしてんの。そ

れより約束の罰ゲームをやってもらおうかな 」


裕樹「悪い、家のガス栓を止めてこなかった。今から

帰って止めないと」


シキ「それ、部屋に入った瞬間死ぬから。というか僕

ら寮生活じゃん」


裕樹「悪い、頭が割れるようように悪い」


シキ「それただの現実」


裕樹「ちくしょう……。なら……逃げたる!」


シキ「おお、なんて勇ましい」


食堂を去ろうとするその背中を逃がすまいと僕は思いっきり手を伸ばした。裕樹の学園一とも言えるその大きな身体をなんとか羽交い絞めにする形で止めることができた。


裕樹「はーなーせー!」


シキ「やだ。離せって言われて離す奴なんかいない」


裕樹「なーなーせー!」


シキ「誰だよ」


裕樹「相川だよ!」


柔道部のようにガッシリとした体を大きく左右に揺らして激しく抵抗する裕樹に僕の体力もいよいよ限界を迎えようとしていた。


体格だけを見ればラグビー部や柔道部から勧誘がきてもおかしくないようなガッシリとした体。そんな体をもつ裕樹の肩を力任せに引っ張っているのだから体力的にもかなりキツイものがある。


僕の腕が限界を迎えようとしたまさにその時だ。


「おいおい……みんな見てるぞ。恥ずかしいな」


一人の男が目の前に現れた。

 

シキ「慶二! 良かった……助かったよ。お願い、裕

樹を押さえて! こいつ罰ゲームから逃げよう

としているんだ」


現れたのは崎岡慶二。僕らより年上で兄貴的存在だ。その見事なまでに整った端正な顔立ちから、女子生徒や女子教員から高い支持率を誇っている。さらに落ちついた雰囲気とリーターシップを兼ね備えており、人としての周囲からの信頼度も抜群というおまけ付きだ。


背の高さでは裕樹に劣るが、筋力では裕樹に勝るとも劣らない。少なくとも僕よりは慶二の方が裕樹を押さえられるはずだ。


慶二「ったくよう……。賭けありの勝負というのは、

罰ゲームやそれに準ずる何かがあるから燃える

んだろ? なら、そのリスクを背負い戦ったの

なら敗者はそれを受け入れないとつまらないだ

ろ。少なくとも俺は罰ゲームから逃げるような

奴とは遊びたくないな」


慶二は優しく諭すように語りかけた。恐らく人質をとった立てこもり犯を説得させるとした慶二の右に出る者はいないだろうと思う。それほど慶二の言葉には人の気持ちを落ちつかせる何かがある……ような気がする。


裕樹「……あー! もうわかったわかった! 受けろ

よ、罰ゲーム!」


慶二「いや、受けるのお前な」


裕樹「たった一文字間違っただけだろ。受けるよ罰ゲ

ーム」


慶二の言葉を耳にした裕樹は、抵抗を止め、半ば開き直り気味に降伏宣言を行った。


シキ「最初からそうしておけばよかったのに。まったく」


近くに慶二がいて助かった。まぁ慶二は大抵僕が困った時、なぜか近くにいてくれるんだけど。しかしそれも、大抵何をするにも一緒に行動しているから当たり前といえば当たり前か。


慶二「うむ、よろしい」


降伏宣言を聞いた慶二は安心したように頷いた。


裕樹「それより罰ゲームってなんだっけ」


シキ「忘れたの? まったく、忘れていたのに散々駄

々をこねていたのか……」


慶二「そうだ、今回の罰ゲームって一体なんだ? 俺

も気になるな」


シキ「あぁ、そうか、慶二は知らないで当然だよね。

 今回の罰ゲームは――」


僕は今回の罰ゲームについて改めて慶二と裕樹に説明を行った。ちなみに、これは毎回のことであるが、僕らの罰ゲームは好きな人を発表する、や、近所の犬の尻尾を踏む等というような生ぬるいものでは決してない。


それこそ、その罰ゲーム一つで一人の人間の過去の栄光や信頼、実績を一瞬にして奈落の底まで叩き落とすような非常に残酷なものだ。


過去には裕樹が女子寮の女風呂に突入したという事がある。が、もちろん突入しただけではない。脱衣所にある女子の、しかも僕らの間でのブサイクランキング1位殿堂入りの女子の下着を付けた状態で突入したのだ。


そしてそれが彼にとってさも当たり前のように、ゆっくりと肩まで湯船につかり、頭を洗い、体を洗い、さらにもう一度湯につかるという田代まさしもびっくりの快挙を成し遂げたのだ。


もちろん、女風呂には悲鳴と怒声が木霊した。それを僕らは風呂場近くの外から聞いていたのだ。


しかし、先生を呼ぼうにも僕らがカギを外側から閉めているので誰も先生に通報することができなかったということだ。


まぁ翌日からの裕樹の評判は、


ちょっとめんどくさい人→是非とも関わりたくない恋人未満かつ百均の小顔ローラー以下の利用価値のない存在、となったのだった。それ以降、彼は今でもたまに廊下ですれ違った女子から後ろ指を指される存在となっている。


シキ「――というのが今回の罰ゲームの内容。 裕樹

は思い出したよね?」

裕樹「な、なに!? 俺はそんな事をするのか!」


シキ「いや、そんな初めて聞きましたみたいなリアク

ションしないでよ……」


裕樹「初耳だぞ。それともなんだ? 俺がボケている

とでも言うのか?」


シキ「若年性アルツハイマーの疑いはあるよね」


裕樹「マジかよ……。てっきりただの天然ちゃんかと

思っていたんだが……」


シキ「あぁ、自覚はあったんだね」


自覚があるなら彼はいつか更生してくれるかもしれない。彼の成長に期待しよう(グッジョブ!)


慶二「なるほどな、でも今回はそこまでキツくないん

じゃないか?」


裕樹「じゃあ慶二さん、やりますか? ん? お? 

んー?」


裕樹は、やる方の身にもなってみろ、とでも言いたそうな目つきで中学生ヤンキーのように慶二を睨んだ。


慶二「いや、やめておくよ。だって俺負けてないし」


正論である。


シキ「じゃあ行こうか。 場所はそうだな……3階の

階段でいいかな」


裕樹「マジでやるのか……」


先程まで慶二に見せていた狂犬のような態度はどこにいったのだろうか。そこにいるのは、罰ゲームに脅え唇をプルプルと震わせるか弱い子羊だった。


シキ「大マジだよ。さぁ行こう。慶二も来る?」


慶二「いんや、行きたいところだがちょっと用事があ

って行けない。だから、代わりにこれを渡そう


慶二は乱雑にポケットを漁ると、そこから一つのテープレコーダーを取りだすとそれを僕の手へと渡した。


テープレコーダーなんて何に使うんだろうか 僕の頭の上にはただ?マークがいつくも浮かぶだけだった。


慶二「それで現場の声を録音しておいてくれ。今回の

罰ゲームからしてかなりの声が拾えるんじゃな

いか」


そこまで言われて、ようやく慶二の狙いを理解する事ができた。納得した僕はそのテープレコーダーを快く受け取り今度は僕のポケットへと忍ばせた。


シキ「わかった。 よし、行こうか被告人・裕樹」


裕樹「テープレコーダーの意味がさっぱりわからん」


僕よりもたくさんの?マークを頭に浮かばせた裕樹は納得できずに、疑問だけを心に抱え食堂を後にすることにした。









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