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死にたがり君と殺人鬼ちゃん  作者: 亜暮 維璽
1/1

出逢い。

シトシトと雨が降る。


横浜の街は珍しく静かな夜を迎えていた。


時折バイクの音が響く。


その横浜の住宅街の一角にあるとある家。


一つの黒く背の高い人影が扉を開けて入る。


黒のロングコートに黒のウェスタンハット。黒のジーンズに黒のロングブーツ。何より一番印象深いのはその顔や上半身を覆っている包帯だろう。


薄闇の中、その人影は廊下をゆっくりと歩く。


ギィ…ギィ…ギィ…と一歩一歩歩むたびに足音がなる。


ふと一つの部屋の前に止まるとその扉をゆっくりと、尚且つ音のならないように開けた。


その奥で眠る二つの人を見て包帯の下でニンマリと笑った。


眠る夫婦の元まで歩み寄り、寝息と寝顔を確認する。


しっかり寝ていることを確認すると、夫の方をコートの中から取り出したワイヤーで雁字搦めにした。流石に起きたが、既にその時には動けなくなっていた。


「んー!んんーー‼︎」

「…う…ん?どうしたの?貴方」


そう言って妻が起きる。そして目の前の雁字搦めになっている夫を見て固まる。


瞬間、側頭部に衝撃を受ける。揺れる視界。傾く地面。


声を上げることもできず、その場に倒れる。その耳と鼻からは血が流れ、ビクビクと痙攣している。


「んんーー⁉︎んんーー‼︎」

「…あ、あな…た……ぁっあっ…えぅっゲェッグェッ……」


倒れる妻の横に立つその人影が振り上げたのはボルトカッター。


それを倒れる妻の背中や首筋に何度も何度も突き立てる。


潰れたカエルのような声を赤い泡を上げながら漏らし続ける妻。それを声にならない声で泣き喚きながら見る夫。


人影は包帯の下で口元を更に三日月のようにさせながら一心にボルトカッターを妻の身体に突き立てたり、骨ごと切ったり、切断したり、はみ出した臓物を引きずり出して弄んだりした。


何も出来ずただ泣きながら眺めるしかない夫。人影は突然しゃがんだと思うと、妻の腕を取り、噛り付いた(・・・・・)


ミチミチと肉が骨から剥がされる音が鳴る。そして一口分剥がすとその腕肉を咀嚼し始めた。


「んー…ブハッ!お前!何…をぉっ⁉︎」


口のワイヤーが外れ、大声を出そうとした瞬間、ボルトカッターが顔面にめり込むように刺さる。


即死だった。


人影は興味無さげに顔面からボルトカッターを引き抜くとコートの中にしまい、また咀嚼を始めた。


暫くすると扉がゆっくりと開き、一人の少年が入ってきた。


「…え?父さん?母さん?」


目の前に横たわり、無惨な姿に変わり果てた両親を見て少年は唖然とする。


突然扉がバタンと閉まる。後ろを見ると黒のコートの人影が。


「アレェ?コドモイタノ?」

「え?僕も死んじゃうの?」


人影は再びコートの中からボルトカッターを取り出すと振りかぶり突き刺そうとする。


「コドモノ肉ハ、ヤワラカクテウマインダヨネェ」

「僕も殺されちゃうの?…なら」

「イタダキマ………「殺して下さい」………ス?」


その人影は少年の顔面スレスレのところでボルトカッターを止める。


ガランとボルトカッターを落とすと少年の顔を手で挟み顔を近づける。


「…可愛イ」

「はい?」


途端にその少年を抱き上げクルクルと回る。まるで欲しかった人形の手に入った少女の様に。


「いや、殺してくれないんですか?」

「殺サナイ。オマエ可愛イ。ダカラ殺サナイ」

「理屈と理由が全く見えないんですけど?」

「安心シテ…私モ此処ニ住ムカラ」

「…はい?」


これはそんな死にたがりな少年と食人癖のある殺人鬼の日常である。

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