レストの物語 恵美の算数教室
のどかな日常です
今日は、週に一度開かれる、料理屋榊での算数教室の日だ
料理屋榊の、夜営業の定休日の、昼に行われることになっている
要は恵美の暇な日の昼に、子供を集めて、算数を教えているのだ。結構、近所の奥様方に評判が良い教室だったりする
こうやって、外堀から埋めて、地域に溶け込んでいくので、兄兼店主の綱芳は、恵美に強く言えなかったりするのだ。綱芳の苦手分野である
「先生。こんにちは」
「香月。先生は止めな。こそばゆいよ」
「恵美ねーちゃん。ちわー」
「鈴華。今日も元気ね。こんちはっ」
わらわらと子供たちが集まってくる。狭い店内には12人の子供達で、席が埋まった
「みんな揃ってるね?今日も勉強を始めるよっ」
「「「はーい」」」
元気な声が返された
「今日は、新しく勉強会に加わった仲間を紹介するわ」
「こんにちは、ライン鵲崎です」
「ライン君だよ。みんなよろしくな」
「じゃあ今日はライン君が初めてだから、復習から始めよう」
「復習って?」
「この国の通貨についてだよ」
「ラード硬貨の数え方ね」
「そうだよ。簡単だよね、みんな」
「えっと」と顔を逸らした子が二人。香月と鈴華だった
「仕方ない子達だね。普段から使ってるんだから、覚えないと困っちゃうよ」
「だってなー」「ねぇ」
「こういう時だけ仲が良いって困った子達だね。じゃ基本の単位を香月が、最低単位を鈴華が答えて」
「ラード」「2ラード」
「正解だよ。やりゃ出来るじゃないか」
「姉ちゃん…これ位は当たり前だよ」
「いうじゃないか鈴華。じゃあ、ラード硬貨の種類を全部挙げてみな」
「えーっ!!使ったことがある硬貨しか覚えてないよ!?全部は無理だよ」
「黙って、知ってる硬貨を取り敢えず言いなさいな」
「はーい。小さい方からね。鉄貨、大鉄貨は私たちが良く使うよね。銅貨、大銅貨位までは良く見るわ。銀貨、大銀貨は一回しか見たことないよ。次に大きいのは金?かな。金貨、大金貨で合ってる?」
「はい。正解だよ。大きい順に並べると、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、大鉄貨、鉄貨の八種類だな」
「さすが鈴華、道具屋の娘」
「そういう軽口を叩くなよ。香月、お前さんも肉屋の娘だろうが。次は、香月が各々の硬貨の額を言ってみな」
「はーい」
「大金貨」
「一万ラード。小遣い5000日分。結婚式のご飯が賄えるかしら」
「金貨」
「二千ラード。小遣い1000日分。うちの一ヶ月分の食費ね」
「大銀貨」
「千ラード。小遣い500日分。オークの肉一頭分。高級品よ」
「銀貨」
「二百ラード。小遣い100日分。みんな大好きコボルトの肉一頭分ね」
「大銅貨」
「百ラード。小遣い50日分。普通に美味しいゴブリン肉一頭分よ」
「銅貨」
「ニ十ラード。小遣い10日分。黒猫亭のジュースが飲めるわ」
「大鉄貨」
「十ラード。小遣い5日分。マーサの店でお菓子を二つ選べるわね。とろける甘さよ」
「鉄貨」
「ニラード。小遣い1日分。屋台で串焼きが食べれるわね。憎たらしいほど美味しいわ。おかげでジュースまでたどり着かないのよ」
「正解だよ。でも、小遣いに関する暴露は要らないからね」
「因みに大銀貨以上は流通量が極端に少ないので、お目にかからないですね」
「そうさ、だから千ラードの商談や報酬は、銀貨五枚と表現されることが多いね」
「高額硬貨は、普段使われなくて、とっておきの時の保険ですからね」
「みんな使わないよねー」
口々にザワつき始める。いつもの事だ
「はいはい。じゃあ復習は終わりね。いつもの算数に移るよー」
普段の授業が始まる。微笑ましい光景だった
騎士団の全滅によって一変してしまうけれど、それはまた別の話。まだ先の未来だ
そして、その時に今日当てられた二人の運命も、大きく、違う形で翻弄される。それもまた別の話だ
まだ誰も知らない物語