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welcome trash box online

 ようこそ Trash Box Online へ。

 まずはあなたのVRアバターを作成します。

 VRアバターを作成しますか?


>yes


 VRアバター作成を開始します。


 プレイヤーIDとプレイヤー名を決定してください。


プレイヤーID carestia takamiya

プレイヤー名 karen


 VRアバターを作成しています。

 このアバターでよろしいですか?


>yes


 では、カレン様。

 このTrash Box OnlineはVRMMOの集合体です。

 剣と魔法の世界で英雄になるも、宇宙空間で戦士になるも思いのまま。

 もちろん、当たり前の日常も用意しております。

 あなたの望む世界であなたの望む物語を紡がれる事を祈っております。



 メッセージが一件入っております。


>メッセージ


 はじめまして。

 『ユグラドシル・クロニクル』管理AIフリージアと申します。

 ご主人様こと斎藤忍様の命により、カレン様をお迎えにとの事でメッセージを送らせていただきました。

 『ユグラドシル・クロニクル』はTrash Box Online未公開ゲームなので、メッセージにゲストIDを添付しておきます。

 それを持って、ポータルエリアのパラティヌスを散策していてください。

 私がお迎えにあがります。


 では。

 カレンさまがこの世界で望む物語が見つけられますように。



 Trash Box Onlin 『円卓』参加者

『ユグラドシル・クロニクル』管理AIフリージア







『Trash Box Online』 ポータルエリア パラティヌス



 プレイヤーID carestia takamiya

 プレイヤー名 karen

 同機率    70%


 プレイヤーID sinobu saitou

 プレイヤー名 saisin

 同期率    63% 


 プレイヤーID Freesia

 プレイヤー名 elf-maid-princess

 同期率    55.1% 





 『Trash Box Online』で一番大きいポータルエリアといえば、パラティヌスの名前をあげる人が多い。

 それもそのはず、古都ローマを模したこの石造りの大城塞都市には、Trash Box Onlineの管理運営を行う円卓議事堂があり、円卓参加者ですらいくつあるかわからないというTrash Box Online内の全VRMMOゲームへのポータルゲートが開かれているという。

 空を見上げると、石造りの都市に似合わない宇宙まで伸びる軌道エレベーターや、空に停泊している飛空艇をドラゴンが避けて飛ぶ、歩く人々はエルフに火星人に骸骨に人間にメタリックロボットなどごった煮感甚だしい。

 とはいえ、世界帝国を名乗っていたローマも似たようなごった煮感だったとか。

 さもありなん。


「で、だ。

 我らの愛しのお姫様はいずこに?」


 ここに来る場合、私的でない限りは円卓参加者は公的身分として扱われる。

 という訳で、気分はローマ元老院議員のごとし。

 トーガはつけていないが、騎士正装という出で立ちで街を歩く。

 いちおう後ろの駄メイドは従者のはずだが、あれと歩くとこっちが護衛に見えるのはいつものことである。


「お約束の勧誘攻勢を受けていますね。

 まぁ、この場所がどんな所なのか知るには一番手っ取り早いのですが」


 ゲームはプレイヤーが遊んでこそ価値がある。

 とはいえ、プレイヤーの数は無限ではない。

 という訳で、新規プレイヤーがこのポータルエリアにやってくる事を良い事に、勧誘AIやプレイヤーが新規プレイヤーに怒涛の勧誘攻勢をしかけているのである。

 リオン先輩曰く。


「あれは、大学のサークル勧誘に近いものがあるな」


との事。

 あとで調べたこの駄メイドが、それをパクってプレイヤー勧誘に関する協定と勧誘エリアの設定などを円卓で通すあたり、この駄メイドは仕事は速い。


「では、そろそろお姫様を出迎えに参りますか」

「yes。my lord」


 こんな世界だからこそ、ロールプレイは大事だ。

 背を伸ばし、剣と盾から金属音を響かせ、メタリックな鎧に光を反射させながら、俺たちは戦場と化している新規プレイヤー勧誘エリアに踏み込む。

 まずAIがざっと道を開け、次に勧誘AIの動きに気づいた勧誘プレイヤーがそれに追随する。

 かくして人の海が割れて、お姫様への道が開かれる。


「なんで『円卓』参加者がこんな場所に出てきているんだよ」

「すげぇ。

 さすが『円卓』参加者。

 処理プログラムに無駄に凝ってやがる」

「おい。あのメイド、元老院とやりやったって……」


 周りのざわめきを気にする事もなく、俺とフリージアはカレンの前で膝を折って、その手に口づけする。


「お迎えにあがりました。

 お姫様」





「信じられない!

 信じられない!

 信じられない!

 忍君がこの世界でこんな人だったなんて!!!」


 我に返ったお姫様の第一声である。

 まぁ、初期装備のシャツとズボン姿ではお姫様感なんてまったくないのだが。

 あと、伊達眼鏡はつけいてない。

 さしあたって、メイドに偽装したつもりのお姫様とその護衛と何も知らない村娘の珍道中はパラティヌスの大通りを人目を気にせずに歩く。

 なお、カレンのアバターは現実の体をサーチしてそのまま反映したらしい。

 つまり、たゆんたゆん。

 ついでに駄メイドもたゆんたゆん。

 見ている連中の視線の約八割は四つの果実に注がれているのだろう。

 おまけに、カレンはズボン姿なので、むちむちの下半身が……

 もちろん、俺も見たかったので、勧誘エリアで着替えのアイテムを渡さなかったのは内緒だ。

 VRで自由に体を扱えるがゆえに、かえってボディバランスを崩すケースも多く、カレンのように自然にむちむちぼいんぼいんでバランスが取れている体を『ナチュラルミラクル』と言うとか。

 なお、メイド服に身を包んでいるこの駄メイドがその『ナチュラルミラクル』を実現するために、数ヶ月の演算と処理をひたすら繰り返し、俺にこそっとカレンの身体データを教えてくれと泣きついたのを追記しておくとカレンのボディの凄さがわかる。

 つまり、カレンの身体データはフリージアの体の基礎だったりする。

 並ぶと姉妹に見えるのもある意味当たり前。

 なお、どうやってカレンの身体データを手に入れたかというと、色々とこの駄メイドの灰色行為が露呈するので口をつぐませてもらう。

 夏にカレンを家に誘って遊んだ時に、身体サーチ機能付きの警備カメラがたまたま撮っていたとか。


「では、学校でのご主人様はどのような感じだったので?」


 体が似ているから姉妹みたいですねとカレンとフリージアの女子トークが弾むが、知らぬは本人ばかりなり。

 ものめずらしく周りをみながらカレンは楽しそうに俺のことを暴露する。


「典型的なネットジャンキーって所かしら。

 やる気なく、点だけ取って、人に関わらずこっちを人生と考えている感じ」


「あらあら。

 それは私も反省しないといけませんね。

 ご主人様の道を踏み外させたのは私のせいでもあるんですから」


 頬を赤めて実にわざとらしくのろけるフリージアにカレンが不信感を抱く。

 持ち上げて落とすのは話術の基本。

 カレンもどうやら最初の目的を思い出したらしい。


「……あんた。忍君の一体何?」


 地味に空気が冷たく感じてきたので、慌てて俺が口を挟む。

 さすがに大通りでキャットファイトはサービスしすぎだろう。


「その話をする為に来てもらったんだろうが。

 フリージア。

 円卓に飛ぶぞ」


「かしこまりました」


 そして、俺たちの姿は大通りから消える。

 おちついた、かつ気品のある部屋は円卓参加者に割り振られているTrash Box Online最高級のセキュリティを誇る個室コンパートメントである。

 とはいえ、このセキュリティでも本当の目的は口にしたくない。 


「とりあえず、お着替えを。

 いくつかご用意させていただきました」


 カレンの前にウィンドウを飛ばして、十数種類の衣装を提示する。

 カレンも女子ゆえ、お着替えタイムには時間がかかるが、さすがにそれらにかまける前に説明を求めてくる。


「それはいいけど、説明してくれるのよね?」


 執務室の椅子に座って俺はこのコンパートメントあてに送られてきた大量のメールを処理する。

 ゲーム内とは言え、今の俺とフリージアは開国前の国の指導者なのだ。

 色々な誘いがあり、色々な利害があり、色々な打算もある。


「そのためには少しこのゲームの事を理解してくれ。

 能力値とスキルについては?」


 俺の問いに赤の騎士姿を選んだカレンが剣を構えながら答える。

 自分がやるゲームですら下準備と努力を忘れない女。それがカレン。


「たしか、全ての行動とその結果は能力値とスキルによって判定されているのよね。

 能力値はSTR、INT、DEX、VIT、AGI、LUKの計6つだっけ。

 スキルは各ゲームごとに無数にあるから私でも把握できないわよ」


「それがわかっているならば問題はない。

 で、ここからが本題だ。

 この『Trash Box Online』はVRMMOの集合体だ。

 剣と魔法もあれば銃や宇宙船もある。

 という事は、ゲームによっては使えない能力やスキルおよびアイテムが発生する。

 それを強引に使いたいという事もできてしまうんだ」


「そんなずるできるの!?」


 ずる。チートとも言う。

 それが実はこのゲーム最大の売りで、プレイヤーの腕の見せ所となる。


「簡単な話さ。

 そのゲームで処理できないならば、処理できるゲームで処理させればいい。

 MOD・アドオンなんて呼ばれている改造・拡張ツールがこのゲーム最大の売りだ」


 たとえば、剣と魔法の世界に光線銃を使いたいと考える。

 もちろん、剣と魔法の世界に光線銃なんてアイテム自体が存在しないから、その世界で光線銃は使えない。

 けど、宇宙を舞台にしたゲームならば、光線銃は使えるし、その処理プログラムも存在する。

 そこで、頭のいいやつはこう考えた訳だ。


「『剣と魔法の世界で光線銃を使いたいならば、宇宙のゲームで光線銃使用の処理をして、その結果だけ剣と魔法の世界に送ればよくね?』とな」


「正確には、剣と魔法世界の敵を一度宇宙のゲームに移し替えで光線銃で倒し、その結果を今度は剣と魔法の世界に反映させるんです。

 量子コンピューターによる超高速複合演算が可能にした、技術なんですよ」


 俺の説明にフリージアが補足をし、そのあまりの技術の無駄遣いぶりにカレンが頭を抱える。

 そりゃそうだ。

 普通の人間ならば、そこまでして光線銃を使わない。


「なお、この技術が大々的に広まったのが、日本人技術者有志による『耳運動』と呼ばれる一連の技術革新だそうで。

 『俺は、剣と魔法だろうが、宇宙だろうが、近未来だろうが、いつでもどこでも猫耳、うさ耳、エルフ耳がみたいんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』という魂の叫びが記憶に残っております」


「……」


 あ、カレンがドン引きしている。

 さもありなん。

 なお、この『耳運動』によって、世界の人たちから、


「日本人のHentaiぶりは乳でも尻でもない。

 耳だ!」


と盛大な勘違いをされ、その偉大なる変態紳士の末裔による技術の結晶がこの駄メイドのぴこぴこ動くエルフ耳に組み込まれている。

 話がそれた。


「で、気づいたと思うが、ひとつのゲームを遊んでいるのに、二つのゲームを駆使しているよな。

 こんな風に、ゲームの処理を別のゲームにさせる事でひとつのゲーム以外のプログラムを走らせている比率を同期率という。

 この『Trash Box Online』では最も重要とされる数値だ。

 チート行為なんかも同期率を低下させるからこの数字は常に意識して欲しい」


「ゲームの基幹プログラムが大体三割、VRハザード以後設定された監視機構の外部救済ツールが三割あるので、残り四割を使ってプレイヤーは己を表現するのです。

 一つのゲームだけ遊んで、そのゲーム内スキルや能力やアイテムを使う場合、プレイヤーだと70%になります。

 逆に、100%の人を見かけた場合、外部救済ツールを必要としない存在、つまりゲーム内NPCだと思ってください」


 俺とフリージアの説明に、カレンがステータスウィンドウを見て同期率の所を眺める。

 なにか気になったらしく、ウィンドウから目を離してフリージアの方を眺める。


「あれ?

 フリージアはAIなのに同期率が低いけど?」


「それは、私が『ユグラドシル・クロニクル』からデータを持ってきてこちらで再現しているからです。

 外部救済ツールを必要としないAIの場合、同期率の七割近くを他の事に使う事ができます。

 ですが、AIはどうしても他のゲーム処理において自己データをホームサーバーから持ってくるので、使用できる同期率はプレイヤーとそんなに変わらないんですよ」


 フリージア。ナイスアシスト。

 ここからは、ここですら口を開きたくない話の領分になる。


「じゃあ、移動しようか。

 『ユグラドシル・クロニクル』へ」

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