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実際に遊んでみよう ギルド勧誘編

『Electronic Edda』 ポータルエリア スヴァジルファリ




 プレイヤーID carestia takamiya

 プレイヤー名 karen

 同機率    55.7%


 プレイヤーID sinobu saitou

 プレイヤー名 saisin

 同期率    53% 


 プレイヤーID Freesia

 プレイヤー名 elf-maid-princess

 同期率    50.1% 


 プレイヤーID ayachin

 プレイヤー名 ayachin

 同期率    57.6% 



「カレン?

 カレンじゃないの!?」


「!?」


 後ろから声がしたと思ったら、カレンに抱きつく女が一人。

 飛び掛られたカレンの胸が豪快に弾む。

 うむ。


「あたしよ!あたし!!

 綾乃よ!!」


「え?

 あやちん?」


「そーだよ!

 名前もあやちんだよ!

 よろしくね!!」


 なお、あやちんが現実世界では静かな文学少女だったりする。

 こういう二面性が露になるのもネットという世界の特色だろう。


「お知り合いでしょうか?」

「どうもそうみたいだな」

「って、何言ってるのよ。

 クラスメイトの、新藤綾乃さんよ。彼女」

「って、まさか斉藤君なの?」


 盛大な身元ばれ大会と化している理由はカレンにあった訳で。

 『trash box online』への入り方を彼女に聞いたらしく、その時にカレンのIDやプレイヤー名をしっかり抑えていたと。

 で、この流れで起こる事といえば……

 

「じゃあさ、うちのギルドに入らない?

 野良だけど」


 『trash box online』におけるギルドというのは、パーティ管理サーバーと言った方が良いかもしれない。

 何しろ複数ゲームの集合体でしかかない『trash box online』はその出身ゲームによってプレイヤー間の同期率に違いが出るからだ。

 ギルドに登録する事で、ギルドメンバーのデータを一元管理し、同期率によってプレイヤーが参加できないような事態を避ける事ができる。

 『trash box online』のアライアンスに従って莫大な手数料を払って許可されたギルドは、同期率の上昇等の優遇措置が与えられる。

 それとは別に仲間内で楽しむ野良ギルドも無数に存在していた。


「野良ギルドのメリットあるの?」 


 あやちんに抱きつかれているカレンが困った顔でフリージアに尋ねる。

 お。あやちんもこっちの存在に気づいたらしい。


「ありますよ。

 AというゲームのプレイヤーとBというゲームのプレイヤーがCというゲームで遊ぶ場合、装備もスキルもぜんぜん違うじゃないですか。

 この場合、二人が仲良く遊ぶ場合同期率は低い方で固定されてしまいます。

 ですが、先にギルド登録して装備やスキルを調整してギルド経由でCというゲームに行けば、調整による同期率上昇が見込めますからね。

 公式ギルドはこれにギルド優遇として同期率上昇ボーナスがつくと」


「つまり、公式だとその分ちーとができない訳さ」


 会話が途切れたのを見てあやちんが口を挟む。

 というか、手がしっかりとカレンの胸にいっているあたり、女すら魅了するか。このナチュラルミラクル。


「で、こっちのおっぱいメイドさんはカレンのおねーさんか妹さん?」


「違うわよ。

 これ、AIなんだって」


 あ、片手がそのまま駄メイドの方に。

 なお、ユーザー設定でセクハラ防止機能もあるのだが、駄メイドは切っている。

 ちゃんとその胸が武器であると認識している証拠であるが、そのあたりがこの駄メイドが駄メイドである所以だろう。


「はじめまして。

 『ユグラドシルクロニクル』の管理AIフリージアと申します。

 どうぞよしなに」


「よろしくー。

 カレンとまったく変わらないね。その胸。

 そっか。

 そんな可愛いメイドさんが管理AI……

 『ユグラドシルクロニクル』ぅ?」


 あ、これは感づかれたっぽい。

 まぁ、情報制限なんて出していないし、このゲームの長期プレイヤーだったら実質的な運営である円卓情報は真っ先にチェックしているだろうからなぁ。

 きりきりと彼女の首がこちらを向く。


「……という事は、斉藤君って『円卓』メンバー?」


「はい。

 ご主人様はアライアンスの承認を受けた『円卓』参加者ですが」


 こちらが何といおうか考える前に誇らしく言うんじゃねぇ!

 この駄メイド!

 言い逃れできなくなったじゃねーか。

 ほら、こっちを向いたじゃねーか。


「お願い!

 私たちのギルドを公認ギルドにしてぇ!!!」


 出てきたあやちんの懇願はある意味、納得できるものだった。

 それが分からないカレンのみが首をかしげる。


「こ、公認ギルド?」


「一つのゲーム内公認ギルドになれば、そのゲームの同期率でゲームが遊べるんですよ。

 ゲーム側もユーザーが定住するし、WINWINの関係ってやつですね」


 本来ならばギルド公認はゲームサーバー側にメリットがあるのでこうしてギルド側が頼み込む必要は無い。

 けど、今の彼女のギルドは他のギルドと同じく問題を抱えていた。


「私たち、『ダンジョンクエスト』に居たんだけど、あれが表に出ちゃったから……」


「あー。

 難民ギルドな訳だ」


 アンダーグラウンドから表に出たゲーム達は、その条件としてアンダーグラウンドサイドとの関係の清算が求められる。

 特に、ゲーム管理上高レベルプレイヤーのデータはゲーム開始時には害悪にしかならないので、コンバートはできるが同期率に過剰な制約がかかるようになっていた。

 そして、『ダンジョンクエスト』公認ギルドは、『trash box online』での運営終了時に全てその公認を解かれていたのである。


「あやちん。何かチートに手を出していたの?」

「出してないよー。

 かわいい衣装と装備で戦うと同期率が下がっちゃうのよねー。

 って、この胸すごくない?」

「演算に苦労しましたから」


 誇るなそこの駄メイド。

 あとあやちんいいかげんにそのセクハラ行為はやめた方がいいと思う。

 いろんなゲームの集合体である『trash box online』において、装備と装飾品は同期率を引き下げる最大要因となっている。

 どのゲームでも遊べる汎用性とオーダーメイド装備や装飾品は同期率を豪快に引き下げる。

 そして、この二つの引き下げ率が小さくなる品を『trash box online』のレア装備と認識していた。

 実際、この手のレア装備は下手したら億のVRGが必要になる。

 そして、同期率を低下させない方法の一つがどこかのゲームの公認ギルドになる事で、表に出るぐらいの有名ゲームだった『ダンジョンクエスト』をホームにしていたギルド達は新たな家を探す為に東奔西走し、足元を見たゲームサーバーは色々ふっかけているのだった。

 まあ、受け入れ側としても最初から居ついてくれるギルドと同じ待遇を与える訳にはいかないというのがある訳で。

 なお、現在問題になっている難民ギルドの数は15000を越えており、円卓議題の一つになろうともしていた。


「ちなみに、ギルドはホームだけ?」

「そうだよ。

 借り物無料レンタルサーバーだから、あまり大きなもの作れなくて」


 大手ギルドになるとゲーム内MODの製作を請け負ったりして、一つの町を作ってしまうなんて事も。

 『ダンジョンクエスト』に持って行かれた、ルリタニアなんてのはそうやってできた町だったりする。

 『trash box online』というのは場の提供にこだわるというか、場の提供にしかこだわっていない。

 その為、その後でできたゲームの方向性などは極力ユーザーに任せる風潮が強かったりするのは、このような場をギルドが持てる事が大きい。


「どうする?」

「問題ないかと。

 どうせ、ギルド募集はしないといけなかったので」

「ありがとう!

 これでみんな路頭に迷わなくて住むわ!!」


 なお、あやちんの所属するギルドは『ぽわぽわ同盟』と言って、15人ぐらいの小規模ギルドだ。

 みんな、元々がリアルの知り合いから繋がっており、身元もしっかりしているから問題はないだろう。


「ちなみに街とか作る気ある?」


 俺の質問にあやちんは即答する。


「もちろん!

 好き勝手できる箱庭的世界って憧れじゃない!」


 ゲームにおける多様性を簡単に作る方法は、多くの人間にゲーム作りに参加してもらう事に限る。

 それがMOD文化と共に創られてきた最も楽な最適解であり、リアルマネーが発生する『trash box online』を潰せない理由の一つでもある。

 この手のMOD作成で生活をしている人がかなりの数、それも発展途上国の秀才が貧困から脱出する為の手段になっているという現実があるからだ。

 それとは別にあやちんみたいな先進国かつ『未来を突っ走っている』事に定評がある我が国の純粋なゲームユーザーがこの手のに参加すると不思議と文化面に活躍する事が多い。

 それを萌えと言う言葉でもはや片付けられないぐらい、世界はネットで繋がりすぎていたというのもあるが。


「んじゃ、ギルド公認ついでにスペースあげるから街作って」


「いいの!」


「最初に声をかけた特典という事で。

 その代わり、これからカレンにゲームを楽しんでもらおうと思うからその手伝いよろしく」


「おっけー!

 みんな集めてサポートしちゃうから!!」


 こうして、『ユグラドシルクロニクル』に『ぼわぼわタウン』という、可愛いぬいぐるみで溢れたなんとも言えない街ができる事になるのだが、それは別の話。

 これもMMOの味という事で。

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