実際に遊んで見よう 装備購入編
『Electronic Edda』 ポータルエリア スヴァジルファリ
プレイヤーID carestia takamiya
プレイヤー名 karen
同機率 55.7%
プレイヤーID sinobu saitou
プレイヤー名 saisin
同期率 53%
プレイヤーID Freesia
プレイヤー名 elf-maid-princess
同期率 50.1%
日本人がイメージした中世ファンタジー世界そのままの風景を俺とカレンとフリージアの三人で歩く。
俺とカレンは初期装備のシャツとズボン、フリージアはいつものメイド服だから目立つ事この上ない。
「またここは賑わって居るわね」
きょろきょろ周りを見ながらカレンが楽しそうにつぶやく。
お城を中心に整然と街が作られ、背後に整然とそびえる世界樹の上にも街が。
なお、世界樹の上にある港は飛空挺だけでなく宇宙船も発着する。
「世界樹連盟の中心エリアだからな。
ちなみに、俺達も加盟しているので専用プライベートスペースがあの世界樹の上にある本部内に設置してあったり」
俺の言葉にフリージアが付け足す。
「日本ではファンタジー系の需要が高いですからね。
『Trash Box Online』をゲーム目的で遊びに来た人の六割がここを拠点にしていますよ。
世界樹連盟はそれだけの価値があるコンテンツなんです」
RPGにおけるダンジョンものというのは、ある意味でゲームが作りやすいものだったりする。
ダンジョンを作り、ボスと雑魚モンスターを配置し、そのダンジョンに行く理由(ボスを倒す・財宝を得る)をプレイヤーに提示すれば完成である。
その為、ダンジョンを攻略されると陳腐化するという宿命も持っていたのだが、最近はダンジョン自動形成ツールとかもあって永続性ダンジョンの方が主流になっていたりする。
この世界樹連盟に所属するゲームコンテンツの八割がそんな自動形成ツールによるダンジョンだったりする。
「けど、そんなのよく元老院が目をつけないわね」
カレンの疑問にフリージアが微笑みながら突っ込む。
その元老院とやりあってきただけに、微笑が凄く恐い。
「つけていますよ。
あの手この手で引抜きをかけていますし、この間公開された『ダンジョンクエスト』もここの出身だったりします」
数あるダンジョンの中で『ダンジョンクエスト』が表に出られたのは、ちゃんと運営が機能しているというのが大きい。
この世界樹連盟内部でも自動形成ツールに頼って管理運営ができていないサーバーは半数を超えるのだ。
それを伝える為に俺は二人の会話に割ってはいる。
「この街は世界樹連盟の多くのダンジョンと同じ管理代行サーバーなんだよ」
「何それ?」
「元の持ち主がいない、もしくは委任されたサーバーを代行で使っているという事。
当然、代行者に管理責任がやってくるんだけど、代行者を世界樹連盟の代表にする事で簡単に引き抜きできないようにした訳」
「ちなみに、このあたりのやりとりはアンダーグラウンドな方々も絡んで居たりしますけどね」
補足あれがとう。フリージア。
管理があいまいであるという事は、その分規制がゆるい訳で。
それ目当ての電子ドラックや電子風俗が裏通りに軒を連ね、そこからあがる莫大な収益自体がマネーロンダリングに使われている。
このあたりをVR監視機構は潰したくて潰したくて仕方がないのだが、相手が監視機構外にあるロー・ヘイブンの為に手が出せないという訳。
「アンダーグラウンドな方々も表看板が欲しかった。
こちら側はVR規制でつぶれかかったゲームの場所が欲しかった。
かくして、この世界ができあがったという訳です」
一般人の娯楽に隠れて汚れた金が洗浄されてゆくので、その娯楽部分においてはアンダーグラウンドサイドも手を出さないばかりか積極的に支援した。
今だ、俺達がVRハザード以後の世界でVRMMOが遊べるのはこんな理由だったりするのだ。
複雑そうな顔をしたままカレンが万感を込めて一言。
「なんだかやるせないわね」
「そんなもんさ。
世の中は。
とりあえず、今日はこの世界を知ってもらう為に実際に遊ぼうという目的で来ているんだ。
難しい事を忘れて遊ぼうぜ」
カレンの肩をぽんと叩くと、カレンも笑顔で笑みを返す。
このあたりの切り替えの速いところもカレンのいい所だ。
「そうね。
とりあえず、ぱーっと遊びましょうか!」
「思ったんだけど、好き勝手に能力やスキルが弄れるのならば、真面目にゲームする理由あるの?」
それからしばらくして、RPGの楽しみである装備の買い物であれこれ悩むカレンがこんな事を。
それにフリージアが初期のメイド戦士(そんなクラスを作った馬鹿はこいつだ)装備を選びながら答える。
「ありますよ。
ゲームをする事で、ゲーム内における能力値やスキルが記録される事でそのデータが正式化されます。
つまり、同期率をあげる事ができるんですよ」
突き詰めるとこのゲームは必ず同期率に行き着く。
それぐらいこのゲームにおいて必要な数値なのだ。
「同期率ってのは電気のブレイカーみたいなもので、ある一定以上を一瞬でも超えてしまうとプツンとVR接続を切ってしまうんだ。
ほとんどのゲームはこの同期率ブレイカーを設定している。
ゲームがゲームとして成り立つ為の最低のルールってやつだな」
初期装備のショートソードを手にとって、感触を確かめる。
身体によってリーチが変わるから、ショートソードも種類が色々。
更に素材によって値段も変わるので選ぶのも結構大変でかつ楽しい。
「どうしてそんなものをつけている訳?」
カレンも前に立つつもりらしく俺と同じようにショートソードを選びながら尋ねる。
もちろん、メイド戦士は後衛職だ。
「言っただろ。
同期率はゲーム内で別ゲームのツールを走らせているようなものだって。
遊んでいるゲーム以上に別のゲームのツールを使っていたら、そいつの遊んでいるゲームはどっちだとなる訳」
「もう少し技術的に言うと、複数サーバーでデータを超高速でやりとりするから事故った時に色々と問題が発生するので」
「なるほど」
頭の中でのデータの高速やり取りだから、何かあったら大問題である。
で、この世界ではVRハザードなんて大問題が実際に発生しているから、その点においてはロー・ヘイブンにおいても厳しかったりする。
「で、能力値やスキルが自由に弄れる代わりに、ほとんどのゲームでは能力値制限やスキル制限という縛りをつけている。
ここからが本題だ。
この縛りはあくまで縛りであってリミッターじゃないんだ」
カレンがここでぽんと手を叩いた。
気づいたらしい。
「そうか!
縛り以上の能力やスキルを行使したい時に同期率が低下する訳ね!!!」
「はい。
ご名答」
手にしっくりくるショートソードを発見したのでこれを購入する。
なお、今回はゲームを楽しむのが目的の為三人で20000VRGという縛りつきである。
このショートソードの価格は2000VRGなり。
俺とカレンが買うから残りは16000VRG。
「ショートソードだから盾はいるな」
「あ、私もお願いします。
今回は魔法で支援しますので」
フリージアの装備は皮のスリングで500VRG。
スリングとは投石の道具で一番安い遠距離武器で、何よりもその安さは弾である石がただという所にある。
その為、石を川で拾ってくる必要があるのだが、このスリングは投げやすいように丸くなった石が十個セットでついてくる。
もちろん、リサイクル可能だ。
なお、初心者の金稼ぎにこの石を磨いて丸くした石の販売があったりする。
「じゃあ、一番安い皮のスモールシールドと。
500VRGって事は三つで1500VRGか」
ショートソード等の片手剣装備は盾を持つ事ができる。
普通のゲームでは自動的に防御点として加算される盾だが、VRMMOの場合は実際に攻撃を受ける事ができる為にその需要は跳ね上がっていた。
更に、攻撃を盾で受けた時に『斬られた』のか『突かれた』のかでダメージが変わり、鎧系がどうしても高くなるので初心者必須の防具となっていたのである。
この皮の盾だと矢とかの遠距離武器は防げるけど、剣などの近接だと心ともない感じだったりする。
残り14000VRG。
「鎧はこの皮の鎧でいいんでしょ?
一個3000VRGで9000VRGっと。
予算はまだ大丈夫ね」
「お前、武器と装備だけで終わらせているだろう。
この後、薬草とかの道具も買うんだからな」
「あ!
サイシン。ごめん。
じゃあ、残り5000VRGだけど大丈夫かな?」
こんな世界で本名を出すのはあれなので、カレンは俺の事をサイシンと呼ぶ。
なお、当人はそのままカレンな方がいいらしい。
これはプレイスタイルの問題なのでどやかく言うつもりは無い。
また、次に冒険者が求める鎧である銅の鎧の値段が一個10000VRGだったりする。
レンジャーやアーチャー等の軽装備職はこの次のやつが魔法装備になるので、一気に桁が二つぐらいあがってしまう。
閑話休題。
「頭装備を用意しておいた方がいいですよ。
後は、膝と肘を守るものも」
「この予算だと皮のかぶとは買えないわよ。
皮の帽子になるけど、防護点0しゃない。
これ、いるの?」
「いるんだな。これが。
フィールドでの雨よけと日差しを避ける為に」
雨が降って視野が下がるだけでなく、目に雨が入る事自体がデメリットになる。
更にフィールドをうろついていると太陽光で日射病になる。
誰がそこまで作れと言ったと突っ込みたくなる事請け合いで、初心者殺しの一つだったりする。
こうやって無駄に凝る事ができるのがVRMMOではあるのだが。
「そんな所まで作られているの!」
「ええ。
だからこんなのも売っているんですよ。
これもダンジョンに潜る初心者必須ですね」
フリージアが手に取ったのが鉱山夫の帽子と呼ばれる帽子で、ぶっちゃけるとライトつきのヘルメット。
ファンタジーのお約束によって、真ん中のライトが魔法の光石になっているが、一番安いのだと小さな蝋燭が。
灯りはランプなどを手に持つと敵への応対ができないから、ダンジョンに潜る時に必ず問題になるので結構馬鹿にできないのだ。
なお、この魔法の光石を盾に埋め込まれているものもあるが当然のごとく高い。
「思ったんけどさ、ゲームの数値について自由に申請できるサーバー管理者はその時点で……」
あ、カレンが気づきやがった。
皮の帽子300VRGと肘当て脛当てのセット200VRGを手に取ったフリージアが恭しく頭を下げた。
こうやって見ると、お忍びのお姫様が社会勉強をしているように見えるから不思議だ。
これを三つだから更に1500VRGがお財布から消える事になる。
「そのとおりです。カレン様。
そんな所から見ても、サーバー管理者は特権階級であると証明できてしまうんですよね」
お買い物の総計16500VRG
残り3500VRGで果たして足りるのかなんて感覚は、ゲームやってるなぁとふと我にかえる自分に気づく。
『trash box online』内では、ゲーム管理や運営、更に色々あってゲームを遊ぶという事をまったくしていなかった事に気づかされたのだった。
(駄目だ。
おじさんが作ろうとしたゲームなのだから楽しいのは当然。
それを味合わずして、おじさんの死の真相なんてたどり着けないか)
「どうしたの?」
「どうしました?」
我に返ると、とてもよく似た二人の視線が俺に注がれる。
少しボーっとしていた時間が長すぎたらしい。
「ああ。
次は市場で道具を買うんだっけ?
足りるのか?」
「そこは、知恵と勇気でなんとか」
「ちょっと!?」
そんな三人に視線を向けていた輩がいたなんて不覚にも俺達は気づかなかった。