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人材募集 AI受け入れます その二

『Trash Box Online』 ポータルエリア パラティヌス



 プレイヤーID carestia takamiya

 プレイヤー名 karen

 同機率    65.7%


 プレイヤーID sinobu saitou

 プレイヤー名 saisin

 同期率    63% 


 プレイヤーID Freesia

 プレイヤー名 elf-maid-princess

 同期率    55.1% 



「さてと、次は味方NPCだな」


「味方NPC?」


 休憩後に再開したAI選定作業に、事情を知らないカレンが疑問の声をあげる。

 それに、メイド姿のフリージアが休憩用のお茶を片付けながら答えた。


「宿屋とか、武器屋などのプレイヤーにとって味方になるNPCの事です。

 こちらは、用途が限定されているから建物とセットになっているんですよ。

 だから、建物を買って、その建物を配置すればできあがり」


 フリージアの説明を聞いたカレンがぽつり。


「ふーん。何だか○○シティ……」


 おっと、それ以上は言ってはいけないと俺とフリージアが慌てて口を押さえる。

 俺も最初同じ事を思ったのは内緒だ。


「まずは、宿屋ですね。

 HP・MP回復機能の他に、宿屋を定宿にする事で、同期率を上げる事ができます」


 この定宿指定というのは、要するにこのゲームにおいて自分のキャラクターデータを登録する作業になる。

 入り口である城門や港などでも登録できるが、この登録は一時的なものとして処理されるため、同期率上昇の恩恵はない。

 それの上位バージョンにプレイヤー自身の家というのがある。


「この手の宿は一階が酒場兼食堂になっていて、その料理もVRMMOらしく凝ったものが出せる。

 もちろん、そんな凝った料理が出せるMODは当然だがお値段が高いと」


 俺はウィンドウを操作して、見本用に出てくる各宿屋の料理をテーブルに広げる。

 安い宿からは豆の水煮、普通の宿からはパン、ちょっと高給や宿屋だとパンにスープ、高級な宿屋になるとサラダやコーヒーまでついてくる。


「で、どれにする?」


 俺の言葉にカレンが料理を前にしながら腕を組む。


「一つしか駄目なの?」


「いえ。

 一つでなくてもいいですよ。

 今回公開する街は冒険者の開拓都市トレイルと世界樹の麓に作るエルフの里ですので」


 このエルフの里はプレイヤー都市であり、管理エリアであるエルフの郷とか別種である。あしからず。

 プレイヤーが人間設定ならばトレイルから、エルフ等の妖精設定ならばエルフの里からスタートとなる。


「その二つで違いを出せという事?」


 カレンが世界樹の麓の地形データを眺めながら首をかしげる。

 魔法ありのファンタジー世界なので、妖精種族は転移魔法ゲートによって繋がれているという設定が作られていたり。

 これは、そのまま世界樹連盟の設定にもリンクしており世界樹連盟の妖精種族の街や村からエルフの里に転移リンクを繋ぐ事になる。

 同時に、人間種族の街からトレイルに転移リンクが張られ、その為トレイルは港とマップ外に続く街道の終点という開拓都市風な作りになっている。


「そういう事になります。

 これは『ユグラドシル・クロニクル』の根幹に関わるのですが、人間とエルフの関係はあまり良くはないのです」


 『ユグラドシル・クロニクル』の根幹をなす物語は、人・妖精・魔族の対立関係から始まっている。

 人と魔族の対立の激化によって、中立を宣言していた妖精族もその争いに巻き込まれてゆく。

 人から見ると、妖精の管理する自然は資源の宝庫だし、魔族からすると妖精たちが自然から得ているマナによる魔力強化を欲した。

 かくして、人と魔族は時同じくして、妖精族へ手を伸ばす。

 その最初の目標が、エルフが守護する世界樹だった。


「よくある物語よね。

 ん?

 という事は、魔族側の町なんてのは作らないの?」


「それは次のアップデートの目玉になる予定だったそうですよ。

 いきなり魔族プレイというのは上級者専用になってしまいますから」


 基本敵役でチートキャラの多い魔族は、うまく扱わないとバランスブレイカーになりやすい。

 その為、最初は人と妖精で慣れてもらうというのが開発ノートに記されていた。

 まぁ、そのアップデートは二度と行われないと考えるといろいろ来るものがあるのだが。

 なお、魔族プレイヤーが遊べる『魔界』エリアもこの『Trash Box Online』には存在する。あしからず。


「ゲームは魔族の侵攻に対して、エルフが防戦に追われる中で人間がエルフに味方する所から始まります。

 とはいえ、人間も見返りなしで助けるわけではないので……」


「うわ。

 最初からえげつないわね。これ」


 もちろん、エルフと人間の全面戦争をやってもいいし、後から来る予定の魔族大侵攻に対して手を繋いでもいい。

 ただ、その判断はプレイヤー達に任せようというのが初期設定だったりする。

 その為、最初のメインクエストは、エルフと人間の対立系が多く、エルフから見て成功が人間から見て不成功。またその逆もありという相互不信煽りまくりというステキぶり。

 双方とも相互不信が頂点に達したあたりに魔族大侵攻というスケジュールになっていたそうな。

 話がそれた。


「人間プレイヤーの方が多くなるでしょうから、開拓都市の方に色々建物を建てる事になると思いますよ」


「じゃあ、開拓都市の方に全部の宿屋建てとくわよ。

 エルフの里はどうする?」


「同じでいいよ。

 エルフも人気種族だからな。

 あ、リオン先輩の酒場のデータが送られてきているから、開拓都市の方に建てておいてくれ。

 配置は任せるから」


「了解」


 フリージアのアドバイスにカレンが頷き、俺が了解を出した事で、宿屋がマップ上に出現する。

 このあたり、○○シティと言われても何も言い返せないし、俺も同じ事を思ったのだ。最初は。

 カレンが配置をあーでもないこーでもないと悩んでいるすきに、俺とフリージアは次の建物に目を向ける。


「武器屋に防具屋と……」


「武器・防具には修繕用の鍛冶屋を用意しておかないと。

 後は商人プレイヤーが出店を広げられる公共の市場を」


 買っただけで整備をしないと痛むのは当たり前。

 他にも、整備という過程を入れる事で生産職プレイヤーが生活できるという理由もあったりする。

 そして、生産職プレイヤーの邪魔をしない程度に売り物は最低限のレベルに抑えておくのがみそである。


「皮装備に木の盾、ショートソードに竹槍……」


「いまや初心者でも買いませんね」


 もちろん、これらもアップデートが可能で、チート武器販売もできたりするがそれも武器・防具・鍛冶屋それぞれの成長としてクエストが用意されていたり。

 当然生産職がメインになるので、彼らも楽しんでもらえるという訳だ。


「後は薬屋か」


「魔法による治癒があると発展が難しいですからね。

 どうせ教会のプリーストの呪文に負ける運命なんですよ。

 あ、それで思い出しました!

 教会を建てておきましょう。

 魔族と対立している以上、人の結束に宗教は必要です」


 魔法と科学は反比例の関係にある。

 薬屋が病院にクラスチェンジするならば、教会は閑古鳥が鳴く訳で。

 このあたりは、シーソーゲームのように優劣を繰り返して相互発展をしてゆく事になる。


「で、実際に迫害されるのはこの街だとエルフになるんだろう。

 わかります」


 メインクエストの流れからするとそうなるのはある意味必然だったが、面と向かってはっきり言われるとえげつないなとため息とともに呟かずにはいられない。

 教会が発展して大司教が魔族に乗っ取られて、エルフ狩りなんてメインクエストが先にあったりするからもう。


「その通りです。

 他にも魔族襲撃イベントの為に城壁と騎士団を用意しましょう」


「最初だから堀と木柵、自警団で十分だろう。

 ここもイベントにして、プレイヤーが都市を発展させる事で、都市に愛着が沸くようにしておかないと」


 愛着が沸いたら街の管理運営をプレイヤーに委託してもいいのがこの『Trash Box Online』の良さでもある。

 何しろ、元がゴミ箱ゆえいつ処分されるか分からないから、自分で管理できるならばと、廃人プレイヤーはそのまま管理業務にまで足を踏み入れるのだ。

 かくして、プレイヤーがゲームマスターにクラスチェンジするという流れもあったり。

 これも、『Trash Box Online』内で流れている通貨が現実通貨とリンクして食えるというのが大きかったりする。


「じゃあ、行政を行う集会所と村長を配置しますね。

 税金という形でプレイヤーから資金を回収する事で、森林地帯の開拓や街道整備に合わせて城壁の整備や教会の建設ができるように。

 最初なので双方の都市の人口は村程度に設定しておきますよ」


 毒にも薬にもならないNPCは地区単位価格だったりする。

 もちろん、カスタマイズしてイベントを発生させる事も可能だったり。

 双方の人口は数百人程度、周辺人口を入れて万に届くか届かないかというあたり。


「他に何かいるものがあったっけ?」


「先の話になりますが、病院と学校を。

 これも都市発展イベントになりますが、住民NPCのレベルが上がって良い武器や防具、魔法なんかが利用できると。

 あとはクエスト管理の冒険者ギルドですね。

 開拓都市ですから、村長との関係は友好的でしょう。

 他に……」


 こうして、俺達の○○シティは時間一杯まで続けられた。

 あれ?


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