閑話1:ビナシの森
逆からみた場合
その日いつものように私は村のそばの森に薬草を取りに行っていた。
駆け出しの冒険者である私でも何とか依頼を達成できる難易度の森だ。
ビナシ地方の森なので一般にはビナシの森と呼ばれている。
いつもなら難なく数時間で達成できるのだが今日はなぜか森の雰囲気がおかしかった。
(森の空気がおかしい・・・?)
浮ついたような、落ち着かないような変な感じがあった。
つい森の奥深くに入りすぎたのだろう。いつもの炎鼠ではなく、炎犬に囲まれていることに気付いた。
(まずい)
一匹一匹ならなんとか勝てない強さではないが、群れで攻撃してくる厄介な敵だ。
見えるだけで十数匹、恐らく隠れているのを合わせればもう少し行くだろう。
絶体絶命とも言える状態だった。
数匹の炎犬を倒したがこちらの息も切れ始め、疲れが見え始めた。
しかし、まだかなりの数がいる。
(ここまでか・・・。)
冒険者になったときから覚悟はある。だが死にたいと思ったことはない。
ギリギリまであがこう、そう思った時横合いの森から音が聞こえた。
(新手か!)
そちらを振り向くと、銀色の閃光が走るのが見えた。
森から一人の少年が出てきたのだ。
駆け出しの冒険者なのか、己と似た簡易な防具をつけている。
少年はきょとんとこちらを見ると、一呼吸おいてこう言った。
「加勢するよ!」
その時、先ほどの閃光が攻撃であること、その一撃で十数匹の炎犬が倒れていること、残りの犬も一度態勢を整えるためか仲間の方へ引いていることに気付いた。
そして彼は、瞬く間に、や、見る見るうちにという言葉にふさわしい速さで敵を屠っていく。
私は呆然としてその様を見ているしかなかった。