王子を罵倒して婚約を申し込まれた女剣士の話
「面妖な!ここはどこだ?」
戦場は霧に包まれた。先を進んだら知らない土地が現われた。
あのにっくき入道にかなわぬまでも一矢報いようと奮闘したが届かず城は燃え。
主君一家は自害をされた。
ここは森だ。見た事のない木だ。
そしたらな。絹を切り裂く悲鳴が聞こえてきたのだ。
「助けて下さいませ~!」
馬車というのか?横転し野伏せりどもが取り囲んでいた。
数十人いただろう。
ワシは城の姫を思い出した。
体が勝手に動いていたな。
「な、何だ。この鎧!」
「汚い鎧だな」
「変な髪型だ」
「やっちまえ!」
だがな。奴らはとてつもなく弱かった。
「ファイヤー・・・ウギャー!」
何か印を結んで妖術をしようとする。
「アハハハハハ、遅い!遅い!遅い!」
あっと言う間に10人ほど斬りまくった。
そしたらな。敵の大将が出てきた。
「ふむ。奇妙な姿だな。我は魔法剣士ドグロフ!今までのようにはいかないぞ。名を名乗れ」
「我は海野太郎左衛門、流派は新陰流!」
戦いが始まったが・・・
「我の鎧は王都で最高の魔道師に防御を付与されたものだ。その刀では・・・ウギャー!」
指を斬った。こいつもダメだった。
「に、逃げろ!」
「あ、待てや!」
足に脇差しを投げて一人だけ捕まえた。
「野盗は御法度じゃろ。黒幕を言え・・・」
「ウグ・・・国王陛下だ。お前も最悪だな。嫌われ姫からは恩賞はでないぞ・・・ギャ!」
情報を聞き出して殺した。
国王?国主のことか・・・
するとな。姫様が言ったのじゃ。
「・・・まさか、実の父が黒幕だったなんて・・・グスン、もう、頼れる方はウンノ様しかございません」
ワシの胸に両の手の平を当てて寄り添ってくる。
「私はローズマリ・フォン・ローエングラムです。このローエングラム朝ミリダ王国の第1王女ですわ」
「何かすごいのか?」
「もう、強くて賢くて優しいイケメン騎士ウンノ様を頼るしかございません。お慕い申し上げております」
「是非もなし・・・」
これがローズマリーとのなれそめじゃ。
婆様の名前から、マリーと名付けたのじゃ。
・・・・・・・・・
「嘘・・・」
「本当じゃ!」
また、お爺様のホラ話が始まったわ。
お婆様が亡くなってから寂しそうだから時々一族を代表して私が様子を見に来ている。
「少なくても、『強くて賢くて優しいイケメン騎士ウンノ様』の下りは嘘でしょう?」
「う、厳しいのう・・・」
「だいたい数十人を一人で相手に出来るわけないでしょう?」
「それは本当じゃー!」
「お爺様、この前、アクアドラゴンが空を飛んでいると言っていましたよね・・・」
「それも本当じゃ!釣りをしていたら河から出て空を飛んでのじゃ」
お婆様は美しくてお爺様と仲が良かったけど・・・お爺様が令嬢だったお婆様を拐かしたのではないかと心配している。
いや、それはないか・・・
「とにかく、お母様が作ったスープ温めておくから飲んでね。洗濯物も出して!」
「厳しい孫じゃのう・・・」
そんな私は剣士の娘だ。お父様は入り婿。お母様は村娘なのに。
やたら上品だ。
「マリー、お爺様は息災でございましたか?」
「はい、お母様、無駄に元気でした」
「まあ、そのような物言いはいけませんよ」
お婆様に躾けられたようだ。
「フフフフフ、お紅茶が手に入りましたの。ティータイムにしましょう」
「はい、お母様」
私はこの話し方が嫌だった。
「ねえ。お母様、私、薬草探しになろうと思うの・・・」
「マリーの人生ですわ。応援しますわ。でも、冒険者ギルドにはお爺様に付いていってもらいなさいませ」
「お母様、分かったわ」
お爺様と冒険者ギルドに行った。
お爺様は。
「おっと・・・」
「危ないわ」
思ったよりも体が弱くなっている。よくよろける。
だから、私が支えたわ。
「よくワシがよろける瞬間に手をだせるのじゃ・・・一族で剣術の才能はマリーが一番あるのじゃ・・・」
「また、そんなことを言って・・・」
「ローズマリーの容姿とワシの髪の色を受け継いでいるのじゃ・・・惜しいのう・・」
そう言えば、お爺様は冒険者ギルドで剣術の指導もしていたのだっけ?
だけど、すぐに追放されたと聞く。これは話題にしないようにしよう。
冒険者ギルドに入ると、騒がしかった。大型クエストが入っていたようだ。
「ミリダ王国内乱、ローエングラムの血を探しているだと・・・」
「ああ、後妻の子が今の王だった・・・愚王に貴族達が反旗を翻したのだ」
「その旗印に失われたローズマリー姫の血統を探している」
まあ、私には関係ない。
受付で登録する。
「マリー・ウンノ、14歳、今までは剣術道場で家事手伝いをされていたのね」
「はい、よろしくお願いします」
お爺様はロビーでボウとしている。
あら、若い冒険者達がお爺様を囲んで・・・・からかっているわ!
「おい、ウンノのジジだ!」
「一日中、刀の抜き方とかやっていた爺さんだ」
「お前の技はつまらないって兄貴から聞いたぞ。心が大事だとか、つまらねえってな」
お爺様は小突かれている。
だけど、お爺様は戦える体ではないわ。
「心が大事なのはおぬしらを見れば分かるのじゃ」
私はお爺様の前に立ったわ。
「やめて、お爺様を虐めないで」
「うわ。平民のくせにお爺様だってさ!」
「お、よく見たら可愛いじゃん。ねえ。飲みに行こう」
「俺たちと森の奥に冒険行かない。大人の冒険さ」
お爺様そっちのけで私に来たわ・・・・お父様がいれば・・・
「なあ、なあ、名前教えてよ。俺らは先輩だぜ。あいさつ・・・・・」
「え、な、何だよ」
急に彼らはこわばったわ。
後ずさりをする。
私の背にはお爺様がいる・・・・
何か良くない気を感じる。お爺様の低い声が響いてきたわ。
「ぬしら、孫に手を出したら・・・」
振り向いたら、お爺様の顔はまるで悪鬼だわ・・・
【殺すぞ】
「「「ヒィ」」」
冒険者たちは腰を床につけた。
その時・・・
「おい、大変だ!アクアドラゴンが空を飛んでいるぞ!」
「な、何?空に昇って出世するのか?」
「千年に一度だ。めでたい。見に行くか!」
アクアドラゴンが飛んでいる報が舞い込んだわ・・・
お爺様の言う事は・・・
「お爺様、『強くて賢くて優しいイケメン騎士ウンノ様』以外は全て本当のことだったのね・・」
「きつい孫じゃのう・・・」
「ねえ。お爺様、剣術を教えて・・・」
「何じゃ。嫌っていたのに強くなりたいのか?」
「いいえ。一族の証として習いたいの・・・」
「そうか、分かったのじゃ・・・」
その二年後、女剣士マリーの名が大陸に轟ろく。
彼女の剣術は・・・
「騎士団長、わ、私の勝ちです。指に剣が当たっただけです。その後、私の剣でマリー殿を一刀両断しておりました!」
「・・・・指を斬られて剣を握っていられるのか?マリー殿の勝ちだ」
「そ、そんな」
男の騎士にも連戦連勝したと云う。
とある王国の剣術指南に招かれたが・・・
「殿下、かかって来て下さいませ」
「う・・・隙がない・・打ち込めないよ」
「殿下は馬鹿で無愛想で野暮と評判です。剣術もおべっか使いたちに手加減されて、まあ、可哀想ですわね」
「ウグ・・・」
「それでは、亡きお母様も浮かばれませんわね」
「言ったな!」
王子は無意識にマリーに剣を振るった。
パチン!と額に剣が当たった。
「やった。マリーから一本取ったぞ!・・・え・・・」
「ええ、殿下、その心です。恐れもなく、ただがムシャらに剣をお振るいになられた。無心に近い心境です。それが剣術、全ての芸事の要点なのです」
「マリー、血が・・・」
「大丈夫ですわ。竹刀ですから」
「もしかして、罵倒はわざと・・・」
「殿下、アクアドラゴンが空を飛ぶように飛躍なさいませ」
「何それ・・・」
マリーは心の使い方が上手かったといわれている。
血統はローエングラムとの話があるが、噂の域は出ていない。
ただ、アクアドラゴンが飛んだ日に剣術を志したと逸話がある。
「ほ、惚れた。婚約をしてくれ!」
「・・・・お爺様と逆の逸話になるのかしら・・・子供に出会いを『馬鹿で無愛想で野暮』と罵倒したとか説明しなくてはいけませんよ」
「そこはスイートにぼかしてよ」
「さあ、剣術の稽古の続きでござます」
その後、王族と結婚したと云う。
最後までお読み頂き有難うございました。




