表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

【短編】その他の短編

あと一回のトモキくん

作者: 烏川 ハル
掲載日:2026/03/31

   

 昼休み明けの授業は日本史で、担当は白髪頭の老教師。ボソボソと眠気を誘う口調だが、居眠りにも怒らない温和な性格であり、名前の「保竹(ほたけ)」を(もじ)って「ホトケ」と呼ばれている。

 私もその日ついウトウトと寝てしまい……。

 ハッと目が覚めて顔を上げると、ホトケの頭の上に赤い数字が浮かんでいた。

 ふと思い出したのが、漫画の閃き表現として頭の上に電球が(えが)かれるイメージ。ちょうどその位置に、数字の「5」が見えていたのだ。


「えっ、何これ……?」

 そういえば居眠りの最中(さいちゅう)に、変な夢を見た覚えがある。神様っぽい格好の老人が出てきて「お前に特殊能力を授けてやろう」とか言っていたっけ。

 実はあれが正夢? だとしても、肝心の能力について説明される前に起きたから、残念ながら詳細は不明だった。


 とりあえず教室を見回すと、ホトケだけでなく、みんなの頭にも赤数字が浮かんでいる。

 ほとんどが二桁で、ホトケ以外の一桁は、隣の席に座るトモキくんだけ。彼の場合は「1」だった。

 トモキくんは、イケメンでサッカー部のエースストライカー。よくモテるし、私にとっても密かな憧れの対象だ。その彼が「1」なのだから、この数字は私の好きな順なのかな?

 逆に数字が大きい人を探せば、教室の隅に座る倉田さん。彼女なんて、ギリギリ二桁に(おさ)まるような「99」だった。

 休み時間も(ほか)の生徒とは遊ばず、いつも本ばかり読んでいる倉田さんだから、確かに彼女のことはあまり好きではない。でもそれを言うならば、別にホトケだって好きではないし、どうやら「私の好きな順」とは違うみたいだ。

 ならば一体(いったい)、何を意味する数字だろう?


 この数字が見えるのは教室限定らしく、授業が終わった後、廊下に出ると消えてしまった。

 だから鏡で自分のを見るのは無理だし、家に帰っても親兄弟の数字は確認できなくて……。


 数日後。

 登校したら、朝の教室で倉田さんが噂になっていた。どこかの小説コンテストで新人賞を受賞したという話で、それが出版されることも決まったそうだ。

 倉田さんが小説を書いていたなんて私は知らなかったが、素直に「へえ、凄いなあ」と感嘆。そう思いながら改めて彼女に視線を向けると、例の数字は「98」に変わっていた。


 その翌日には、商店街の福引で温泉旅行に当たったと騒いでいる男子もいて、その周りにも人が集まっていた。

 その男子の数字は「9」になっている。最初に彼の数字がいくつだったのか、はっきりとは覚えていないけれど、あの時「ほとんどが二桁」「ホトケ以外の一桁はトモキくんだけ」という状況だった以上、彼が二桁だったのは間違いない。彼の場合も数字が減ったことになる。


 これらの例から考えて、おそらくこの数字は、今後の人生の中で良いことが起こる回数なのだろう。

 いわゆるラッキーナンバーとは違うけれど、まさに幸運(ラッキー)の回数を示す(ナンバー)だ。

 私たちより寿命が短いであろう、老教師の数字が小さかったのも納得できる。でもトモキくんに関しては、ちょっと問題だ。私と(おな)(どし)にもかかわらず、彼のラッキーは残りの人生であと一回だけ……。


「トモキくんと結婚する女性(ひと)は、苦労するだろうな」

 思わず小声で呟いてしまうと同時に、彼に対する気持ちも急速に冷めていく。

 今まで自分でも気づいていなかったけれど、私は案外、薄情な人間だったらしい。




(「あと一回のトモキくん」完)

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ