つきあたまさん
頭が月のつきあたまさんと、頭が紙袋のふくろあたまさんが出会って、夜空に星が無くなった原因を探しに行きます。そこで見つけたものは・・・。
1-夜の出会い
つきあたまさんは頭がお月さまです。
襟と袖口にファーが付いた黒いコートをなびかせて夜空をふわふわ飛んでいます。
するとガケの下からハシゴがながーく伸びているのを見つけました。ガケは高く下が見えません。
「あれ、これはなんだろう。とりあえずつかまってみよう」
つきあたまさんがハシゴにつかまると、ぐらぐらと揺れて、つきあたまさんはハシゴごとバターンとガケの下に倒れてしまいました。
つきあたまさんは飛べるのでけがはしませんでした。ハシゴがどこから伸びていたのか知りたかったので、コートの汚れを払ってからハシゴの根元まで飛んでいきました。
ハシゴの根元では、武士の格好をした人が目を回して倒れていました。
「もしもし、どうしました。大丈夫ですか」
つきあたまさんが声をかけると、倒れている人が目を覚ましました。
「うう~。どうなってんねん」
倒れている武士は頭が紙袋でした。頭が紙袋の武士は名前を《《ふくろあたま》》と名乗りました。
2-ふくろあたまさんの話
つきあたまさんは自分がハシゴにつかまったせいで《《ふくろあたまさん》》が倒れたと分かったので謝りました。
「ふくろあたまさんはここで何をしていたんですか?」
ハシゴはふくろあたまさんの頭から出ていました。ふくろあたまさんはハシゴをシュルシュルと頭に戻すと答えました。
「ここんとこ、夜の空に星が見えへんやろ。雲もないのにちっとも見えへん。星がのうなってる。おかしいやろ。せやから、ちょっと空まで行って見てこよ思てん」
「なるほど。たしかに最近、星が見えませんでしたね。こんなに気持ちの良い夜空なのに不思議ですね」
『星が見えない』のではなく『星がなくなって』いたのです。
ふくろあたまさんが空まで届くハシゴを伸ばしているときにつきあたまさんがハシゴをつかんだために、ふくろあたまさんは重さに耐えられず倒れてしまったのでした。
ふくろあたまさんは頭が紙袋なので、首が折れることはないのでけがはありませんでした。
3-いざ、夜空へ
「空は広いですよ。どこに行けば原因が分かるのでしょうか。それにハシゴに昇ってもどこにも移動できませんよ」
「ごちゃごちゃうるさいのう。やってみなけりゃ分からへん。しかしあんたのいう事ももっともや。どこに行けばいいかは分からへんのや」
「では、いっしょに空を飛んで原因を探しましょう」
「せやかて、わしは空飛ばれへんで。頭の袋には自分がしまった物しか取り出されへんねや」
「では、こうしましょう。わたしの力を分けます」
つきあたまさんは両手をふくろあたまさんの背中に当てました。
つきあたまさんの顔が光り出しました。
「むーん」
つきあたまさんが力を入れると、顔の輝きが増し、やがて光は収まりました。
つきあたまさんの顔の左側が目の辺りまで欠けました。
つきあたまさんが自分の力を分けると、ふくろあたまさんの体がふわっと浮きました。
「さあ、いっしょに夜空へ行きましょう」
4-夜空にいたもの
二人が空高くまで昇り、夜空を飛んで星を探しました。または星が無い原因を探しました。
夜空は広いのでなかなか見つかりません。何を探していいのかも分かりません。二人はときどき休んで、ふくろあたまさんの頭から取り出したみかんを食べたり、お茶を飲んだりしました。すると
「ボクにもみかんください」
子どものワニが二人に話しかけてきました。
「みかんあげてもええけど、お前の手足じゃ皮むけへんやろ」
「皮をむいたものをあげましょう」
ワニはみかんをしゅるっと食べました。
「ありがとうございました。おなかが空いていたので助かりました。この辺りの星は全部食べてしまったので・・・」
「・・・!!」
二人はおどろきました。
5-ホシクイワニの話
子どものワニは、ホシクイワニという珍しい種族のワニでした。
「聞いたことがあります。名前のとおり、星を食べるワニですよね」
ホシクイワニはうなずきました。
「でもなぜ・・・。たしかこんなに星がなくなるまでは食べないはずでは?」
ホシクイワニは説明しました。
「そうです。ホシクイワニは何日かに一回、たまに少しの星を食べるだけでいいんです。でもここのところお腹がすいて仕方がないんです。食べても食べてもお腹が空いたままなんです。まるで何も食べてないみたい」
ホシクイワニは困っているようでした。
「それでこの辺りの星をどんどん食べたっちゅうわけやな。おかげで星がのうなってお空が真っ暗やで。こっちも困るっちゅうねん。なんでそんなに腹ぁ空かせとんねん」
「ボクだってわかりません。わーん。わーん」
ホシクイワニは大きな口をあけて泣いてしまいました。
「ボン、言い過ぎた。かんにん。・・・んっ?なんや、あれ?」
6-くちのなかで光るもの
ふくろあたまさんはホシクイワニの口の中にきらっと光ったものを見逃しませんでした。
「ボン、そのまま口開けときぃや」
ふくろあたまさんは頭から取り出した懐中電灯でホシクイワニの口の中を照らしました。つきあたまさんが口の中に頭を入れてのぞいてみると、ホシクイワニの一番奥の左の歯が虫歯になって大きな穴が開いていました。
虫歯の穴は宇宙のように深く、中に食べた星がたくさん渦巻いていました。
「これが原因だったんですね」
ホシクイワニが食べた星はそのまま虫歯のブラックホールに飲み込まれていったのでした。そのため、いくら星を食べても食べても、お腹がいっぱいにならないのでした。
「ようし、原因は分かった。あとは星を元に戻すだけや」
7-ほしのうず
「わしにまかせとき」
ふくろあたまさんは頭から大きな歯ブラシと歯磨き粉を取り出しました。
大きな歯ブラシを二人で持って、ホシクイワニの虫歯を磨くと・・・
・・・・ぽろ・・・・・ぽろっ・・・・ぽろぽろ・・・
ぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろ
虫歯に入っていた星がかき出されて、星が夜空に戻っていきました。
黄色や赤や青やピンクや黄緑色の、金平糖のような星が、ホシクイワニの口から渦を巻いて、川のようにあふれ出しました。
「たくさん食べたんですね」
「ぎょうさん食うたんやな」
真っ暗だった夜空にみるみる星が広がり、色とりどりに輝き出しました。
「これで元通りですね」
8-これから
ふくろあたまさんは頭から特大正露丸を出し、虫歯に詰めました。
「とりあえずはこれで大丈夫やな。あとは虫歯の治療や。歯医者に行きや」
「ありがとうございました」
「ところでホシクイワニさんのお父さんかお母さんはどこにいるんですか?」
「ホシクイワニは、夜空の星を食べ過ぎないように、家族や仲間とはふだんは別々に暮らすんです。たまに会いたいときに会いにいったり、年に何回かあるホシクイワニの集会のときに会ったりするんです」
「じゃあ今はおとんとおかんは離れたところにおんねやな」
「歯医者にはひとりで行けますか?」
「ううん。歯医者はひとりじゃ怖いです。それに、保険証もお母さんが持ってるし」
「ほな、おかんのとこまで送っていったる」
「ふくろあたまさん、私も行きます」
「おにいちゃんたち、ありがとう」
三人は、星が戻った夜空をふわふわと飛びました。
夜空にうかんだ星はゆらゆらと揺れています。
ゆらゆらゆらゆら揺れています。
おしまい




