9:三食そぼろ丼 VS 迷惑おばさん?
今日も今日とて客の入りは順調だ。
有難い事に第三兵士団以外の常連さんも増えている。
一番の常連さんはアンディさん達だ。ほぼ毎日来てくれている。
おちびちゃんが可愛いのよ。
5歳くらいの女の子なんだけどハーフサイズをペロリと食べるんだよね。
そして必ず毎回お花を1輪持って来てくれる。もぉ可愛くて可愛くておばちゃんメロメロよ?
このおちびちゃんの為にお子様ランチでも作ろうかな。
いや駄目だ・・・ 絶対兵士団の皆なんかは自分も食べたいと言いだすだろう。
今度定休日にでも作って差し入れしよう、そうしよう。
あっという間に開店から1ヶ月が過ぎた。
牛丼、カツ丼、天丼。この3つはやっぱり安定して人気がある。
カツ丼と天丼も定期的に出して欲しいと言われた。
カツ丼はまだしも、天丼はコスト的にも手間的にもあまり頻繁には無理だ。
なのでカツ丼は10日に1回、天丼は月に1回にした。
牛丼が一番楽なんだよね・・・
ある日の事、どっからどう見ても貴族だろってな女の人がやって来た。
この日のメニューは3色そぼろ丼(鳥そぼろ、炒り卵、法蓮草のナムル)
大丈夫だろうか。
「こちらに牛丼と言う物があると伺ってまいりましたの。
牛丼を1つ頂くわ。ああ、お肉は黒毛バイソンのA5ランクランプ肉でね。
焼き加減はミディアムレアで、味付けはトリュフ塩がいいわね」
は?・・・
立て看板の注意書き見てないのかよ。
A5ランクのランプ肉ってうちは庶民の味の店だっつーの。
焼き加減がミディアムレアでトリュフ塩?
んなのがいいなら高級レストランでも行ってくれや。
「うち丼物屋なんすよね。
しかもメニューは日替わりで1品のみ。
表に出してある立て掛け看板に書いてありますよね?見てないんです?
あ、もしかして文字が読めないんですかね?
それとも老眼で文字が見えませんでした?
高級肉が食べたいならそう言った高級店へ行ってもらえますかね?
うちはお貴族様が来る様な店ではなくて庶民の店なんで。
そもそも今日は三食そぼろ丼の日なんでね、嫌なら帰って貰えますかね」
「なんですって?ワタクシを誰だと思っているのです!」
「いや知らんがな。ただの迷惑おばさんじゃん」
「なっ、めっ、迷惑おばさんですってぇ!
この町でワタクシの事を知らないなんて今すぐにでも追い出して」
「はいはいはい、追い出されるのはおばさんだね。出ていった出ていった」
ぐいぐいと背中を押して店から追い出すと丁度リコさんと鉢合わせた。
「どうした? こちらの女性は?」
「どっかのお貴族様? A5ランクのランプ肉で牛丼を作れとよ。
しかもトリュフ塩で! ばかじゃなかろうか、それもぉ牛丼じゃねぇわな」
「アナタさっきから失礼ね!
客の要望に応えるのがシェフってものでしょう!!」
「シェフじゃねぇからな、私は。しかもここは丼物屋だ。
立て掛け看板にもそう書いてあるだろう。
気に入らないなら来んな!失せろ!けったくそ悪い」
「まぁ落ち着け。
ご婦人、店内に入られる前に注意書きはご覧になりましたか?
ここに書いてありますよね?
ご婦人があれこれと自分のご要望を言われるのは自由ですが
それを店主に強要する事はできませんよ?
どうしても要望を通したいのであれば
それを叶えてくれる店に行かれてはいかがです?」
「どの店でも牛丼と言う物が作れないと言われましたの!
ですからわざわざ足を運んだのですわ!
でなければこんな庶民の通う粗末な店など来ませんことよ!」
カチーンッ
「粗末で悪かったな、あぁん?貴族だかなんだか知らんけど!
権力振りかざしゃなんでも我儘が通ると思うなよ!二度と来んな!」
ガタガタと常連客達も席を立ちあがり集まって来る。
「ご婦人、さっさと帰られた方がよろしいのでは?
此処に居る全員を敵にまわしたようですからね」
「なにをっ、わ、ワタクシは!」
「アルトワ男爵の第二婦人でしたっけね。
御夫君には私の方から報告しておきましょう」ニッコリ
「アナタのようなたかだか兵士が旦那様に声掛けなど出来る訳がないでしょう!」
「そうお思いでしたらそれで構いませんよ。ささ、お引き取りを」
「おい、辻馬車を拾って来たぞ。これに押し込んじまえ」
リコさんと客達でお貴族様な迷惑客を辻馬車に押し込んだ。
私は走り出す辻馬車めがけて思い切り塩を投げつけた。
「悪霊退散!疫病神退散!二度と来んなー!!」
なんかちょっと違う様な気がしなくもないがまぁいいだろう。
それにしても腹が立つ。
気を落ち着ける為に深呼吸して店内へと戻る。
「お客様におかれましては大変お見苦しい物を、申し訳ありません」
「いやいや、気にしなくていいぞ」
「そうそう、俺たちゃお貴族様なんぞ関係ねぇからな」
「店主が追い出してなきゃ俺が追い出す所だったさ、ハハハッ」
「そう言って頂けてありがとうございます。
お騒がせしたお詫びにコーヒーサービスさせて頂きますね」
「おぉ、気ぃ使わせて悪いな」
食事が終わった人から順にコーヒーを出していく。
あれ? リコさんは何で居たんだろう。
「キクノ、まだ丼物は残っているか?」
「ありますよ。残り2杯ですね」
「ではそれをくれ。じきにデイルも来るだろう」
「はーい、少々お待ちくださいね」
ちょうど昼休憩に入ったのでお昼ご飯を食べに来てくれた所、あの場面に出くわしたのだそうだ。
タイミングが良かったのやら悪かったのやら・・・
リコさんにはあの喋り方が素なのかと聞かれたので正直にそうだと答えた。
リコさんが笑うものだから常連さん達も大爆笑になってしまった。
なにも泣くほど笑わなくてもいいじゃないか・・・
「なぁ店主。これからは気軽にああいった喋り方でいいんじゃないか?」
「そうそう、その方が親近感があっていい」
「俺達もちぃとばかし余所行きの喋り方になってたしな」
「いやでもほら、私素で喋るとかなり口悪いですしね?」
「ここらの連中は皆同じようなもんさ、なぁ」
「長い付き合いになるだろうし、この町に住む仲間だろ?」
「そうだそうだ、もっと気楽に行こうぜ。ワハハハッ」
「そ、そうですか?ではなるべく砕けた喋りになるようにしますね」
「ほれ、硬い硬い」
「え、えぇぇ・・・ じゃあ、今後共御贔屓に!」
一際大きな笑い声が上がった時にデイルくんはやって来た。
「え?何事ですかこれ」
「いや、なんでもないよ・・・」
誤魔化そうと思ったのに、リコさんやお客さんが一連の出来事を話してしまった。
「えぇぇ、僕も見たかったなぁキクノさんの勇姿」
「ごふっ 見なくていいから・・・」
「デイル、心配しなくてもまた見れる機会があると思うぞ」
「あんな迷惑客、再々現れても困るんだが・・・」
「次は僕が居る時でお願いします!」
「いや、こっちがタイミング選べる訳じゃないからね?」
途中でひと騒動あったけど、この日も無事に完売御礼。
リコさんとデイルくんは何かあればすぐに兵士団の詰め所に連絡をいれるようにと言い残して仕事へと戻って行った。
なんか心身共に疲れた気がする。
ああいった我儘お貴族様には二度と来て欲しくない。
そう思ってドアに逆さ箒を立て掛けようとしたらドアが開いた。
コンッ
「いたっ」
見れば逆さ箒を抱えおでこを赤くしたリコさんのお兄さんが立っていた。あらま・・・
「ごめんなさい・・・」
「いえ、大丈夫ですが、これは?」
「あー・・・一種のおまじないの様な物です。
嫌な客が来ませんようにとか、嫌な客がさっさと帰りますようにとか」
「え?その嫌な客ってまさか私?」
「いえいえいえいえ、違いますよ」
「言ってみただけだよ。エンリコから話は聞いたからね」
リコさんのお兄さん、名前はスカイラーさんと言うのだそうだ。
スカイラーさんはリコさんから連絡を貰い、非番だからと様子を見に来てくれたのだそうだ。
あの迷惑客の旦那さん、アルトワ男爵とやらはスカイラーさんの部下らしい。
スカイラーさんはリコさんがたかが兵士と言われた事もご立腹のようで・・・
「騎士も兵士も同格なんですけどね」
兵士を見下すのは騎士を見下すのと同義、そこの部分をちゃんと言い聞かせるようにとネチネチと語って聞かせたのだとか。
ほんのちょっとだけ、アルトワ男爵が気の毒に思えた。
読んで下さりありがとうございます。




