5:驚いた事
買い出しのついでに町の中を散策してみたり、出入り口の門やギルドの前に設置してある掲示板を眺めてみたり図書館へ通ってみたりもした。
掲示板には仕事の依頼や空き物件の情報、尋ね人や迷い犬の張り紙まであった。
寮母代理の仕事が終わった後の事も考えなければならないので情報を得る必要があったのだ。
仕事の依頼は『町のゴミ拾い』から『魔の物討伐』までと幅広くて驚いた。
空き物件情報は賃貸と売買の両方が貼られていた。
中古物件なんかもピンキリでこれは実際に見て考えた方が良さそうだった。
少しずつ町の人とも交流を持つようになり、ここでの生活も慣れて来たと思う。
そんなこんなであっという間に1ヶ月は過ぎ、アマンダさんの腰もしっかりと回復した。
「この1ヵ月とても助かったわ、ありがとうキクノ」
「いえ、こちらこそ助かりました。ありがとうございました」
「それでキクノはこれからどうするの?」
「それなんですけどね。
町の外れにボロボロだけど安くて小さな家を見つけたんです。
そこを買って手直ししてお店をやろうかと思ってます」
そう、町の外れにある小さな一軒家、一般的な賃貸の家賃3ヶ月分で売りに出されていたのだ。
ボロボロではあったけど、外から見る限り土台も柱もしっかりしていたので手直しすれば大丈夫そうだった。
中は確認出来なかったけど床だって張り替えればいいのだし、イザとなれば魔法と言う手もあるにはある。
格安だった事を考えても手直しを前提として売られているのだろう。
「もしかして北の外れの家かしら?」
「あれ、アマンダさんご存じなんですか?」
「ええ。だってそれ私が売りに出した家だもの」
「ぐはっ」
ボロボロとか言っちゃったじゃないか、ひぇぇごめんなさい・・・
寮母になる前にご主人と暮らしていた家なのだそうで。
ご主人が亡くなって寮母となりここに移り住んだ為売りに出したものの買い手はつかないままなのだったらしい。
人が住まなくなった家は傷むのが早いと言うものね・・・
アマンダさんは条件を1つのんでくれるのであれば無償で譲ってくれると言う。
その条件と言うのはアマンダさんが休みの日に一緒に夕食を食べて欲しいとの事だった。
そんな簡単な事でいいのだろうか・・・
「娘がいたらこんなかんじなのかしらと思ってね。
どうかしら、母親代わりとは言わないけど仲良くして欲しいのよ」
「私は幼い頃に母を亡くしているので母親に憧れがあったので嬉しいですけど。
アマンダさんは本当にそれでいいんですか?」
「いいのよ。息子は遠方に住んでいるし、
結婚する気があるのか無いのかそんな話も聞かないし。
娘が出来たら一緒にお料理したりお喋りしたりと色々やってみたかったの」
「でしたらお言葉に甘えようと思います。アマンダさんありがとうございます」
「お、話はまとまったのか」
「リコさん、1ヵ月間ありがとうございました。助かりました」
「まぁ気にするな。
しかしあの家を手直しするにしても金が掛かるんじゃないか?
ああ、アレと言う手があるのか」
「いえ、そこはまぁ自分の手でやろうかと思ってます」
「は?キクノがか?」
「中をちゃんと見てみないと何とも言えませんが、柱や梁がしっかりしていれば
後はなんとかなるんじゃないかと・・・
こう見えても古民家リフォームとか多少は経験あるので」
動画見ながらでも意外と何とかなったりするんだよな・・・
「古民家リフォーム・・・キクノは大工だったのか?」
「違いますよ。
古い家を自分の手でリフォームするってのが流行った時期があったんですよ。
それで私も挑戦してみた事があったんですよね」
「なるほど、まぁ必要な木材は森で調達するか間伐材でなんとかなるか・・・」
「非番の時なら僕も手伝いますよ?」
「自分も手伝えます」
有難い事にデイルくんを始め何人かが非番の時に手伝いを申し出てくれた。
まずは家の名義変更手続きだね。
商業ギルドが不動産屋の役割も担っているらしく、アマンダさんとリコさんが付き添ってくれた。
私1人だと解らない事も多いだろうし、一緒に行く方が手続きもスムーズに進むだろうからとの事だった。
ついでにギルド登録をしておけば店を始める時に便利だと教えて貰ったので、その登録もしておく。
身元保証人が2人必要との事でリコさんとアマンダさんがなってくれた。
この2人には感謝しかない。
手続きと店舗営業についての説明を受け終わり、さっそく家へと行ってみる。
中へ入って見れば、床や壁の傷みは酷かったけど、柱や梁、筋交いなど全体的に骨組みはしっかりしているよううに思える。
意外な事に屋根も一部を除けば大丈夫そうだった。
アマンダさん曰く、後々の事も考えて柱や梁、筋交いや屋根は丈夫な造りにとご主人が拘ったのだそうだ。
壁や柱、床など手が届く範囲でコンコンと叩いて回る。
ぐらついた柱も無いし、叩いた程度で崩れる床や壁も少ししかない。
これなら自分でなんとかなりそうだ。
まずは手始めに寝る部屋の確保からだね、明日から頑張ろうと思う。
この日は寮の部屋に泊めて貰った。
翌日からは家の手直しを始める。
まずはご近所さん、とは言っても少し離れているけど、家の手直しをするので少しうるさくなるかもしれないと作っておいたクッキーを持って挨拶に行った。
皆さん気にしないでいい、手伝えることがあれば声を掛けてくれと言ってくれたのでありがたい。
さてと寝る部屋の確保だ。寝室にはアマンダさん達も寝室として使っていた部屋を利用する事にして作業に取り掛かる。
木材は商業ギルドで間伐材を安価で分けて貰えたし、解体した家屋の廃材で使えそうな物があれば持って行っていいとも言って貰えた。
枝打ちした枝や細い木材などは薪用に持って行けとも言って貰えたので助かる。
痛んだ部分の板材をベキベキと剥がし、長さを測って新たな木材をのこぎりで切って釘で打ち付けて行く。
驚いたのはこの釘、金属じゃなくて魔物の骨や外殻を使ってあるのだそうだ。
ある意味エコだなと思った。
床を張り終わった頃には日が暮れかけていた。
台所の竃はまだ使えそうだったので火を起こして肉を焼いて行く。
めんどいので今日は買っておいたパンとこの肉の串焼きだけでいいかな。
食べ終わった後はコーヒーで一息つく。
椿ちゃん達は元気にしているだろうか。
私が無事に元気で暮らしている事くらい報告出来ればいいんだけどな。
手紙を書いたとしても2人の手元に届くとは思えないし。
狼煙でもあげてみる?
いや駄目だな、火事だとか思われそうだ・・・
その内なにか手段が見つかればいいのだけど。
呑み終わったコーヒーカップを片付けて、デイルくんに貰ったお古の寝袋(といいつつ新品な気がする)に潜り込んで寝た。
1週間もあれば寝室のリフォームを終わらせる事が出来た。
問題は風呂場である。
風呂場だけあって湿気が凄かったのだろう、ここは屋根を含めて全面リフォームとなるのだ。
壁や床はそこまで苦労はしなくて、換気用に小窓も作る事が出来た。
ただちょーっと屋根に苦戦した、ほら板材を持ち上げる重機とかチェーンとか無いから。
手伝いに来てくれた非番の子と一緒にチマチマと担いで梯子の上り下りをね・・・
お陰で全身筋肉痛だけど体は引き締まった気がする。
非番の子が来てくれた日は、お昼に丼物をご馳走した。
作るのも食べるのも手軽でいいし、私がやりたい店が丼物屋だから。
そのせいか、非番だからと手伝いに来てくれる子が増えた気がする。
ちゃっかりリコさんも来て居て手際も良かったのには驚かされた。
風呂を含む水回りの配管工事だけは専門の業者さんにお願いする事にした。
さすがにこれは解らない、以前も配管と配線は業者に頼んだし。
幸いな事にご近所さんに居たので探す手間が省けて助かった。
そして再び驚く事になる。
なんと水は魔物の魔核(魔石とも言うらしい)を利用して水道と同じ様に使えるし、トイレやお風呂も同じように魔核を使って日本と同じ様な感覚で使えるのだ。
だったらコンロ的な物もあってもいいのではと思ったけど、魔核を使って出せるのは水やお湯だけらしいので不思議なものだなと思った。
お陰で台所は随分と便利になったように思う。
読んで下さりありがとうございます。




