4:めんどくさっ
確かに歯の健康も目の健康も大事だ。
だけどそうじゃない、今やりたかったのは椅子とテーブルの修復であって私の体の修復ではないのだ。
気になり始めればずっと気になってしまう。仕方が無い、木材買って来て修理しておくか。
( ・・・ )
直ってるじゃんか・・・ 今ので直ったって事? 何故に?
ハッ、まさか修復と修理の違い? えぇぇ、そういう設定?めんどくさっ!
取り敢えずは魔法が使えるらしい事は黙っておく方がいいのだろうか。
いやリコさんには伝えておいた方がいいかもしれない。
椅子やテーブルのガタ付きが直っているのに気付くだろうし。
魔法が使えたらしい事は椿ちゃん達に相談したかったけど連絡手段がない。
あの2人もきっと使えるはずだ。
大丈夫かな、ちゃんとご飯食べれているかな。
あのジジィに利用されなければいいのだけど・・・
年齢の割にはしっかりしていてもまだ子供だから不安も多いだろうに。
おっと考え込んでいる場合では無い、まだ掃除の途中だった。
窓も拭きたかったけど、今日は買い出しにも行きたいので明日に回す。
掃除が終わったら、アマンダさんから頂いたワンピースに着替えて買い出しだ。
商店街らしき場所でいくつかの店を見て廻って値段を見比べる。
ぱっと見は昭和によく見られた商店街やアーケード街に似ている。
アマンダさんに聞いたところ、どの店で買うとかは決まっていないのだそうだ。
ならば鮮度が良くて安価な店がいい。
おや、露天商もあるのかと覗いてみた。
少々不格好な物が多いけど、鮮度は悪くないし値段も安い。
どうやら店には置けない不格好な物や不揃いの物を農家さんが直接売っているようだった。
見た目が悪くとも味や鮮度が悪く無ければいいじゃないか。
そう思いあれこれと買っていく。
おばさんは沢山買ってくれたからと林檎を1山サービスしてくれた、ありがたい。
次に肉を買いに行く。これはギルドの直売所が安くていいとアマンダさんに教えて貰った。
この世界のお肉は魔物肉なんだそうで、魔物が居る世界なんだと驚いた。
鳥肉、猪肉、牛肉 3種類とも買った。
はっ、買い過ぎて重い。 服は明日にしよう・・・
いやでも靴は欲しい。ワンピースに地下足袋だと似合わなくて変なのだ・・・
そう思い同じく露天商で売っていた安い靴を1足だけ買った。
見習工が作った物なので少し不格好だから安価なのだと言う。
不格好と言っても不良品という訳では無いし、売れれば見習工の励みにもなっていいんじゃないだろうかと思う。
寮へと戻り夕飯の準備に取り掛かる。
夕飯はハンバーグにしようと思う。
こちらではクズ肉と呼ばれているようだけど、ミンチ肉が売ってあったのよ。
色々な肉の切れ端なんかを叩いたお肉だから安価だったのよね。
付け合わせはサラダとポテトフライ。スープはポタージュ。
ハンバーグは大きめに作り1つ辺りが17㎝前後と私の手の平大だ。
1人2枚で食べ応えは十分だと思う。
私は1枚の半分の大きさでいい、あんなに食べられない・・・
アマンダさんはどうしよう、1枚でいいだろうか。
悩んだ結果10㎝サイズのを2枚用意する事にした。
最初に少し強めの火で外側をパリッと香ばしく焼き上げたら、後はトロ火でジンワリと中まで火を通していく。
この時少量のワインを振りかければシットリと仕上がる。
フライパンに残った肉汁はトマトソースやウスターソースと合わせてハンバーグソースにする。
時間になれば兵士達の足音が聞こえてくる。
「今日もいい匂いがするな」
「この匂いは肉だよな? いつもと少し違う匂いがするが」
「よし、俺は大盛りにするぞ」
「俺もだ」
なんて声が聞こえてくるが残念、今日は大盛りとか選べないんだ・・・
ある意味では全員大盛りだと思うけども。
そう思いながら料理の乗ったトレーを渡していった。
( ・・・ )
1人3枚にするべきだっただろうか。
あれだけ大きなハンバーグが物凄い勢いで消えていく。
食べると言うよりは飲んでいると言った感じだった。
そしてやっぱり初めて食べるらしく大好評だった。
ハンバーグは大人から子供まで皆好きだからね、一般的には。
勿論アマンダさんにも好評だったけど、ペロリと平らげていた。
もしかしてアマンダさんは兵士と同じ分量でいいのだろうか。
次の日からはアマンダさんも兵士と同じ分量にしてみたのだが残すことなく完食されていた。
こちらの人は平均的に食べる量が多いのかもしれない。
リコさんが非番の時に少し時間を頂いて、先日の事を相談した。
「は?! まぶぉふがふがふぇただふぉ?!」
「声がでかい!もう少し小声で」
思わず手でリコさんの口を塞いでしまった。
危ない危ない、頭をはたきそうになったなんて言えない・・・
「す、すまん。余りにも驚いてつい」
「これって隠しておくほうが良さげな気がするんですが
リコさんどう思われます?」
「俺も同感だな。あのジジィが知ればロクでも無い事を考えそうだ」
「やっぱり・・・」
この国では魔法が使えるのは5人に1人くらいは居るらしいのだけど、そのほとんどが生活魔法と呼ばれる初歩的な魔法なのだそうだ。
生活魔法以外の魔法が使える場合は魔法省や騎士団に所属するようになるらしい。
と言う事はだ。あのジジィ、モルソンも魔法が使えるのだろう。
アイツの下で働くとか絶対に嫌だ・・・
ただ隠しておくにしても魔法については知っておく方がいいだろうと言う事になり、子供が最初に読むと言う魔法についての本をリコさんが貸してくれた。
この本を読み終わって更に興味があるようであれば、もう少し詳しい本を貸してくれるとの事だった。
実はリコさんもデイルくんも少しばかり魔法が使えるのだそうだ。
ただ私とは違って戦闘向きの攻撃系の魔法らしい。
「いいかキクノ。今後ももし何か異変や困り事があれば必ず相談してくれ。
特に異変なんかは知っておかなければ守ってやることも出来ん」
「解りました。また何か気付いた事とか解った事があれば相談しますね。
お手数をおかけしてしまいますが宜しくお願いします」
「気にしなくていい。それと出来れば堅苦しい話し方は無しにして欲しいのだが」
「無理ですね、他の兵士の手前もありますので上官に対しての敬語は必須かと」
「だがキクノは兵士ではあるまい」
「兵士ではありませんが兵士団所属の寮母代理ですので」
「うぅむ、では勤務時間外であればどうだ。例えば今の様な時間とか」
「解りました。ではあくまでもプライベートな時間帯であればと言う事で」
リコさんは満足げな笑顔を浮かべていた。
その後は特に異変もなく、と言うよりも試してみる気になれなかったのだが。
借りた本はしっかりと読んだので解った事が1つある。
修理・修復・修繕。それぞれ微妙な意味の違いがあるので魔法の発動にも適切な言葉が必要だと言う事。
なるほど、イメージするにしても具体的かつ詳細にって事か、うわめんどくさっ。
もし今後魔法を使う事があったとしても慣れるまでは苦戦しそうだった。
寮母代理の仕事も恙無くこなしている。
1ヶ月ならばメニューに悩む必要も無かった。
シチューやスープ、パスタなんかはバリエーションが豊富だし、肉や魚だってどうとでもなる。
困った時は和食を参考にすればいい訳だし。
ただ量には毎回悩まされている。
体を動かす兵士と言う事と若いと言う事が相俟って食欲が半端ないのだ。
作っても作ってもキリがないし食費も圧迫してしまう。
「腹八分目に医者いらず! 食い過ぎは体に悪いし胃の負担にもなるし
成人病になって禿げるぞ! 何事も適度に!程々がいいんだからな!」
禿げるぞと言っておけば大概の人は腹八分目を受け入れる。
便利な言葉だ「禿げる」
読んで下さりありがとうございます。




