3:予想していなかった事
「ところでデイルくん、仕事は終わったの?」
「今日は早番だったので16:00には終わってますよ」
なるほど、それで様子を見に来てくれていたのか。
ならば味見でもして貰おうじゃないか。
「デイルくん、ちょい口開けて?」
「はい?」
開かれたデイルくんの口に熱々のホイコーローを入れる。
「はふっ はふはふ」
少し冷ましてからの方が良かったかもしれない、ごめんよ。
「キクノさん、これ見た目は地味ですけど旨いです!」
うんまぁ、見た目は地味だよね確かに。
でも口に合ったようならよかった、安心して夕飯で出せるね。
18:00になるとドカドカと足音が聞こえ始める。
兵士達が食事へとやって来たのだろう。
「なんだこの匂い、腹が鳴る」
「今日の当番はデイルだったっけ?」
アマンダさんが腰を痛めてから私が来るまでの3日間は兵士たちが交代で作っていたらしい。
なるほど、私が来なければ今日の食事当番はデイルくんだったのか。
「うおっ、知らない女が居る!」
「人を指差すんじゃありません!
後女とか言うんじゃありません!女の人もしくは女性と言う様に!」ペシッ
あ、ついいつもの癖で頭をはたいてしまった・・・
ぶふっとデイルくんが吹いていた。
「コホンッ失礼いたしました。
本日よりアマンダさんの腰が治るまで代理を務めさせて頂くキクノと申します。
どうぞ宜しくお願いいたします」
「あ、はい。宜しくお願いします?」
すると背後でクククッと笑い声が聞こえる。
「キクノさん、いいね。
あいつらまだ若いから礼儀も解ってない部分があるんだ、すまんな。
遠慮なくしごいていいから」
あら見てたのねリコさん・・・
騎士なら貴族が多いので礼儀もなっているらしいのだけど兵士は平民が多いので口も悪いのだとか。
まぁ口は悪くてもいいけど、人を指差すのは駄目だし女呼ばわりも駄目よね。
「では並んで下さいね、大盛り、並み、少な目
どれにするか言ってくれれば盛り付けて渡しますので」
「食欲をそそる匂いだな、大盛りで頼む」
大盛りホイコーロー丼と大根スープをよそってトレイに乗せてから渡す。
リコさんは目をキラキラさせてそれを受け取り、席に着く。
「私も大盛りでお願いします」
デイルくんも大盛りだ。
見た事が無い料理だからだろう、他の兵士は2人の様子を見ている。
「んっ、これは旨いな!」
「でしょう、この濃い目の味付けが米に合うんですよ」
大盛りホイコーロー丼が2人の口の中へとドンドン消えていく。
特盛りも用意した方がよかっただろうか・・・
誰かのお腹がぐぅとなったのが聞こえた。
「じ、自分も大盛りでお願いします!」
「お、俺も大盛りを!」
2人の喰いっぷりに耐えかねたのか次々と注文がされていく。
結局皆大盛りになってしまった。
うん、この様子なら次からは大盛りのみでいい気がする。
あっという間に無くなり皆お代わりが欲しいようだったが残念、アマンダさんの分しか残っていない。
おそるべし若者の胃袋・・・
食べ終わってもまだ物欲しそうにしている兵士を食堂から追い出し後片付けを済ませる。
温め直した食事をアマンダさんに届けて、空いた器は明日の朝取りに来る事を伝えた。
寝るにはまだ早いし、ついでに食堂だけ掃除をしておこうかな。
箒で掃いた後にモップで拭いて、雑巾でテーブルと椅子も拭いておく。
うん、これで朝食は気持ちよく食べられるだろう。
綺麗になった食堂を眺めればグゥと私のお腹が鳴った。
しまった、私の分がないじゃないか。
仕方が無いので残っていたご飯をおむすびにして頬張った。
食べ終わると割り当てられた部屋に戻る。
電気と言う物はないらしく、明かりはランプだ。
ランプのほんのりとしたオレンジ色の光は眠気を誘う。
怒涛の1日だった。
まだまったく状況が把握できていないけど、1ヵ月の寝床が確保できたのはありがたかった。
考えなければいけない事は山積みだけど、まずは寝よう。
私の頭はオーバーヒート寸前だ。
翌朝、簡単に身支度を整えて部屋を出て、アマンダさんの空いた食器を受け取ってから食堂へと向かう。
まずはキャベツを千切りにしておき、ソーセージは炒めて塩胡椒しておく。
次に玉葱をスライスして軽く炒めた後に煮込んでスープに仕上げていく。
朝食はホットドッグとオニオンスープ、デザートにはリンゴも付けておく。
昨夜の様子からホットドッグは1人3つにした。
パンもソーセージも大き目だからたぶん足りるであろう。
この大きさなら私は1つで十分だけど、アマンダさんはどうなんだろう。
2つ用意しておけばいいだろうか。
時間になり兵士たちは次々と食堂へとやってくる。
「おぉ、朝も旨そうだな」
「おはようございます、並んで取りに来てくださいねー」
パンに千切りキャベツを挟みソーセージを乗せ、トマトソースとマスタードをかけていく。
スープをよそってコーヒーを淹れトレーに並べて渡していく。
アチコチから「旨い」と声が上がれば私も嬉しくなる。
皆が食べ終わり後片付けを始めた。
お代わりの声が上がらなかったので朝はあのくらいでよさそうだ。
食べ過ぎて仕事に支障が出ても困るしね。
片付けが終わるとアマンダさんに朝食を届ければ、昨夜のホイコーロー丼が美味しかったと言ってくれたので良かった。
私も手早くホットドッグを食べ、洗濯に取り掛かる。
( ・・・ )
いや別にね?下着も出してくれていいんだけどさ。
洋風の褌だとは予想していなかった。
そうか、下着は褌なのか・・・
まさか女性も褌とかじゃないよね?
後でアマンダさんに確認しておこう・・・
洗濯石鹸は粉せっけんだった。
懐かしいが洗濯板くらいはあって欲しかった。
仕方が無いのでジャブジャブと手洗いしていく。
全部洗って干し終わった頃にはお昼になっていた。
皆ため込んでたんだな、干場が無くなるかと思ったやんけ・・・
ゴキゴキと腰が鳴る。
もう少し楽に洗う方法は無いものだろうか。
さて私とアマンダさんの昼食を作ろう。
簡単にパスタでいいだろうかと思い、ナポリタンにした。
2人だし、アマンダさんの部屋で一緒に食べる事にする。
アマンダさんは喜んでくれて、色々と話して聞かせてくれた。
息子さんが1人居て、南の国境で兵士として勤めているのだそうだ。
旦那さんは残念ながら数年前の災害で亡くなられたそうだ・・・
1人で家に居るのが寂しくてこの仕事を始めたらしい。
私の事はリコさんから聞いていたらしく、自分のお古で悪いのだけどとワンピースを2着頂いてしまった。
正直とても助かる。
掃除が終わったら食材の買い出しついでに服や靴なんかも買おうと思っていたのだ。
下着については女性用は褌では無くドロワーズだったのでホッとした。
アマンダさんにお勧めの古着屋さんを教えて貰ったので1,2着ズボンを買っておきたい。
靴も忘れずに買っておかないとさすがに地下足袋のままはマズイと思う。
さすがに下着は新品を買うつもりだけど。
昼食の後は掃除を始める。
掃除をする部分は食堂や風呂場、廊下や階段などの共有部分だ。
昨日は気付かなかったけど、椅子やテーブルなんかは少しガタ付きがあるし床も少しひわっている。
召喚なんて事が出来るのだからおそらく魔法なんて物も存在するのだろう。
こう、パパッと魔法で修復出来たりはしないのだろうか。
桜ちゃん曰くそういう専用の職業やスキルがあったりする事もあるのだそうで、私達の様に違う世界から来た人もチートスキルを持って居たりするパターンが多いらしい。
もしかして私も使えたりはしないだろうか。
椿ちゃんは魔法を使う方法はパターンは2つあると言っていた。
1つは想像力。とにかく具体的に思い浮かべるのが大事なのだそうだ。
もう1つは構築式。こっちの場合は誰かに師事して貰う事になるらしい。
構築式とか無理だ。私は理数系が苦手である・・・
キョロキョロと辺りを見回し誰も居ない事を確認する。
(試すくらいならいいだろう、誰も居ないし)
「 修復 」ぼそっ
だが何も変化は起こらなかった。
(だよなぁ。小説や漫画じゃあるまいしそう簡単に使えたりはせんよな)
と思ったのだがすぐに違和感を覚える。
視界がぼやけているし、口の中に何かが転がっている。
ぺっと吐き出してみれば銀の被せ物が出て来た。
口の中を指で確認してみれば穴が塞がっているではないか。
(まさか・・・)
恐る恐る眼鏡も外してみれば視界良好になっている。
(まさかの自分の体修復?! えぇぇ・・・)
読んで下さりありがとうございます。




