28: 掴んだ物
「デイルとキクノが結婚すれば俺達とも兄妹って事だろ」
「デイルが嫌なら私とでもいいんだぞ」
「ごふっ・・・」
「ちょっと団長!やめてくださいよ」
「デイル、お前いつまで団長だの隊長だのと呼ぶんだ」
「つい癖でこうなるんですよ」
なるほど、こうやってじゃれ合ってる姿は仲の良い兄弟そのものだ。
そう言われてみれば前からこんな雰囲気だったなこの3人。
デイルくんと一緒になればこんな光景が当たり前に・・・いや現状でも当たり前になってるじゃん。
「キクノさん難しく考えないで下さい。一緒に楽しく日々を過ごしたいんです」
『 そうそう、キクノは難しく考えすぎ 』
『 好きか嫌いか 』
『 一緒に居たいか居たくないか 』
「キクノさんが好きです、キクノさんは僕の事嫌いですか?」
手を掴まれてそんな事言われたら、可愛いじゃないか。
確かにね、デイルくんは私の事も理解してくれているし理解しようとしてくれていた。
最初に心配してお金についても教えてくれたのもデイルくんだった。
そしてこの懐っこい笑顔が私は嫌いではない。
試食の時や味見なんかもいつもデイルくんだったな。
あれ、もしかして私デイルくんを餌付けした?・・・
「しっかり餌付けされましたね。胃袋も心もがっちり掴まれましたよ」
「うわっ、また声に出てた?・・・」
「「「 出てたな 」」」
「あちゃぁ・・・」
「ふふふ、キクノさんも僕の事好きって事でいいです?」
これは誤魔化せないだろうなと観念した。
年甲斐もなくこんな若い子を・・・ 若い子よね?まぁ気にしないでおこう。
「うん、勿論リコさんやスカイラーさんも人として好きだけど。
デイルくん、本当に私でいい?後悔しない?」
「しませんし、キクノさんにも後悔させませんから!」
デイルくんはぎゅっと抱きしめてきて私をクルクルと廻した。
おぉぅ、目が回る・・・
「デイル、落ち着け。嬉しいのは解るが加減をしろ」
「キクノの顔色が・・・」
「はっ、すみません。つい・・・」
「せめて2,3周で勘弁してくれるかな・・・」
こうしてデイルくんと私は婚約する事になった。
常連さん達は喜んでくれたけど、リコさんスカイラーさんデイルくんの3人の内誰と婚約するのか賭けていたようで。
「やったぜ、当たった!」
「やっぱりな、デイルさんだと思ってたんだ」
「くそー、リコさんもう少し頑張ってくれよ」
「スカイラーさんだってもう少し押して行けば」
「はいはい、人の恋愛で賭け事しない!」
人で賭けないで貰いたいと思ったけど、賭けた物が明日の丼物だったので売上貢献って事でまぁよしとしよう。
そして椿ちゃん、桜ちゃん、アマンダさんにも手紙で知らせた。
3人共すぐに飛んで来たよ。
比喩表現じゃないよ? 本当に飛んで来たんだよ箒で!
「おかあさーん! 見て見て!私空を飛ぶ魔法が使えるみたーい!」
「ゴフッ みたーい!じゃなくて! 大声で言うんじゃありませんっ!
そしてさっさと降りてらっしゃい!パンツ見えるよ?」
「え? うそ、やだぁ」
「ちょっと桜、飛ぶことにまず集中してよ、落ちちゃうじゃない」
「あらあら大変ねぇ~」
アマンダさんは相変わらず落ち着いて・・・いや、あれはちょっとテンション上がってるな。
ほんのり頬が染まってるもの・・・
桜ちゃんはゆっくりと箒の高度を下げて皆を降ろした。
「ふぅ、疲れた~」
「そうじゃ無くて、なんで箒? まさか箒限定で飛べるの?」
「うん、箒限定だったぁ~。
あれかな、アニメとかで魔女が箒で空を飛ぶの見てたから
空を飛ぶ=箒のイメージがあったのかも」
「なるほど。それで大っぴらに見せて大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。私のこの魔法、女性専用だった!」
「ぶっ、魔法に女性専用とかあるんかいっ」
「そんな事はいいのよ、お母さん!
デイルさんと婚約ってその話詳しく!」
「そうそう、詳しく!」
「デイルからも聞きたいわねぇ~、うふふ」
詳しくも何も手紙に書いたと思うんだが。
あ、もしかして恋バナとかってやつ? それがしたいのかな。
仕方が無い、ならば2人の馴れ初めとかも聞かせて貰おうじゃないか。
アマンダさんにも亡きご主人とのノロケを聞かせて貰おうじゃないか。
結局常連の女性陣も加わって大賑わいの女子会になってしまった。
皆に披露目はどうするのだと聞かれた。
貴族では無い一般人だとガーデンパーティーぽいのをやるのだとか。
ガーデンパーティーね・・・
ご近所さん達が料理は持ち寄ればいいと言ってくれる。
でも私だってどうせなら振舞いたい。
そうなると・・・
「ねぇ、いつもと変わらなくない?」
「言われてみれば・・・そうよね」
「なんだかんだと皆でキクノの所に集まるものね」
結局はいつも通りの集まりでいいんじゃないかという事で、次の定休日に開催する事になった。
子供達も来れる様にちょうどお昼時にすればいいだろう。
椿ちゃんと桜ちゃんがカレーを食べたいと言うので私はカレーを用意する事にした。
2人共市販のルーでしか作った事がないので、こちらでは作れないらしい。
まぁスパイスの配合なんて好みがあるしね。
婚約の披露目でカレー?と思うかもしれないが、別に畏まった式という訳でも無い。
どうせいつものメンバーしか集まらない訳だしね。
「あ、父が来ると言ってましたね」
「へ?!」
「そう言えば、そんな事手紙に書いてあったな」
「ねぇ、皆のお父さんってどんな人なの?」
「ん? キクノも会った事があるだろう」
「へ? もしかして常連さんの中にいる?」
「あー、一応常連なのかな」
「まぁ会えば判りますよ」
そこは事前に教えておいて欲しいのだけども。
心の準備と言う物がだね・・・
デイルくんは心配いらない、いつも通りでいればいいと言うけれど。
そして当日。
「エイキンスさん?!」
「やあキクノ殿。
改めまして、スカイラー、エンリコ、デイルの父親エイキンスです。
今後共宜しくお願いしますね」
ニッコリと笑う顔が3人と似ている・・・
そうか、エイキンスさんが3人の父親だったか。
って事は3人もお貴族様? え、嘘でしょ。聞いてないんだけど?
「貴族と言っても名ばかりですよ。騎士爵なのでね」
「そうはいっても父は将軍だったからな、そこらの貴族より力はあるぞ」
「騎士爵だから本人のみですし安心してくださいね」
「あ、そうなんだ。よかった」
ちょっとした驚きもあったけど、いつも通りに皆で笑い合って楽しく過ごす集まりとなった。
皆におめでとうと言われて嬉しくなる。
丼物屋は続けてくれとの声も多かったが、勿論そのつもりだ。
丼物のお陰でこうやってこの町に馴染む事が出来たし、皆にも受け入れてもらう事が出来た。
そしてデイルくん達の胃袋もがっちりと掴んだ訳だけど、私は私で幸せを掴んだと思う。
これも皆のお陰だろう。
「そうそう、俺達皆胃袋掴まれたからな」
「隊長や団長、デイルさんなんかはハートも鷲掴みだろ?」
「ははは、違いねぇや」
「俺のハートは握り潰されて玉砕だー!」
「なんだオメェもオカンに好意持ってたのかよ」
「あきらめろ、相手がわりぃやな、ははは」
ん?・・・
「まさかの」
「全部声に出てましたね・・・」
「ゴフッ・・・」
まぁ聞かれて困るような事は言って無いと思うけど。
これからも皆と楽しく笑い合う、こんな日々が続くのだろう。
デイルくんは働き方を少し変えてお店の手伝いがメインとなり、手が空いた時にリコさんのフォローをするそうだ。
スカイラーさんがその分しっかりリコさんと頑張るようだ。
そして渡り廊下で繋がってた2軒の家は、皆が祝いだとトンテンカンテン繋げてしまった。
とは言え、ちゃんとプライベートは確保できるようになっていたので、そこは流石だねと思った。
それ以外は特に何が変わったと言う事もなく、いつもと同じ日々を送っている。
「キクノさん、立て看板出してもいいですか」
「うん、お願い」
おかんの丼物屋、本日も張り切って開店!!
終わり
これにて終わりとなります、最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。




