2:短期の仕事
町の中に入るにも気後れしてしまい、入り口で立ち尽くしていると老夫婦に声を掛けられた。
場違いな服装なので中に入るのに気後れしているのだと伝えれば、ここはちょっと裕福な商人や貴族の専用入り口なのだそうで一般的な町民や冒険者などの入り口は別にあるのだと教えてくれた。
なるほどと思い、教えて貰った礼を言って一般の出入口を探しに行く事にした。
すると少し距離があるから自分達の馬車に乗って行かないかと行って貰えたのでお言葉に甘える事にする。
老夫婦は見慣れない服装だが何処から来たのかと聞いて来た。
隠す気もなかったのでありのままを伝えたところ、2人共頭を抱えてしまっていた。
お腹が空いているだろうからとパンと林檎を頂いた。
正直朝食どころか昨夜の夕食すら食べさせて貰って居なかったのでかなり有難い。
馬車に揺られる事15分、入り口に着いた。
馬車から降りて老夫婦にお礼を告げ別れた。
中に入って見ればさすがにモンペ姿の人は居ないけど、ドレス姿の人もみかけなくて普通にワンピースやズボン姿の人ばかりだったのでほっとした。
どことなく『大草原の〇さな家』の雰囲気に似て懐かしさがあった。
さて、ほっこりしている場合ではない。
今後の事を考えないとならないので貰った当面の生活費とやらが幾らあって、ここらの物価がどんなものかを確認しなければ。
そう思いまずは宿屋を探す事にしたのだけど、なるべくなら安い宿がいい。
入り口に戻り、門番さんに何処か安い宿を知らないかと聞いてみた。
門番さんは訝しげに何処から来たのかとか、その服装は何処の民族衣装なのかとか聞いて来た。
そりゃそうだろう、見た事がない服装だと気になるのは当たり前だ。
ここでも隠す事はあるまいと思い、この町に来た経緯を話すと驚かれた。
当面の生活費が幾らあるのかと聞かれ、見ても解らないだろうしまだ確認していない事を伝えると一緒に確認してくれる事になった。
そしてお金の説明もしてくれたのだけど、有難い事に感覚としては日本円と同じぽかったし物価も日本よりは少し安い感じがした。
ほっとした私とは逆に門番さんは眉間に皺を寄せている。
「どうかしました?」
「あのクソジジィ・・・」
「ぶっ、門番さん声押えて!」
門番さんが怒り始めてしまった。
当面の生活費とやらは、切り詰めて1ヶ月持つかどうかの額だったらしい。
もう少しあるのかと思ったが「当面の」なんて曖昧な言い方だったもんな。
つまりは早急に仕事を見つけて金を稼がないとヤバイ訳で、安宿に泊まってる場合でも無くなった訳だ。
野宿か、さすがにキツイなと再び溜息をつく。
「おい、どうした」
「あ、隊長。じつはですね・・・」
詰め所から出て来た隊長と呼ばれた人に門番さんが説明をすると、隊長さんは頭を抱えてしまった。
「モルソンのジジィは相変わらずか、あの腰巾着め」
そう言って少しの間考え込んでしまった。
「あんた、名前は?」
「楡山菊乃です」
「ニェーリャ・マ・キクノ?」
「キクノで・・・」
訳の分からん外国名にしないで貰いたいと思ったが、隊長さんは短期の仕事をしてみないかと言ってくれた。
此処の門番を務めているのは国の第三兵士団で、そこの寮母さんが腰を痛めて1ヶ月間安静にしておかなければならないのだそうだ。
本来寮母さんは2人体制なのだが1人しかおらず無理がたたったのだろうとの事で、部屋も開いているからそこで寝泊りをしてもかまわないとも言って貰った。
1ヶ月とは言え私にはありがたい話なのでお受けする事にした。
1ヶ月あればこの町での生活についても少しは知る事が出来るだろう。
寮母の仕事については腰を痛めた寮母さんから聞く事になり、1か月分の給金として提示されたのは当面の生活費として渡された額の3倍だった。
「言っておくがこれが平均的な1か月分の給金だからな?」
「マジで? あのジジィ・・・」
さっきの門番さんじゃないけど、クソジジィと叫びそうになった。
「当面」曖昧で便利な言葉だな、おぃ・・・
隊長さんの名前はエンリコさん、普段はリコさんと呼ばれているようだ。
そしてあの門番さんはデイルくん、娘と同じくらいの年齢なので「くん」で呼ばせて貰う事にする。
リコさんに寮を案内して貰う。
1階部分は食堂と風呂場といった水回りが揃っており寮母の部屋もあった。
2階と3階部分が兵士達の個室になっているらしい。
次に寮母さんを紹介して貰い、仕事内容の説明を受ける。
寮母さんの名前はアマンダさん、私より年上の方だった。
仕事内容は料理洗濯掃除といたってシンプルで寮に入っているのは8人。
朝と夕の2食だけ作ればいいようで食事が不要の人は予め連絡があるらしい。
仕事さえ終われば後はのんびり自由時間でいいのだとか。
なるほど、これなら今までの仕事と大差も無くてさほど苦にはならなさそうだ。
「さっそくで悪いのだけど、今日の夕飯から頼めるかしら」
「はい、お任せください。材料は有る物を使っても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。あの子達は大食漢だから多めに作ってね。
後、食材の予算も渡しておくわね」
「すまないが頼む。上には早く寮母を補充するよう伝えてはいるんだがな」
「あー、腰が重い上役っていますよね。
あれ?私を臨時雇いするのは上役に話を通さなくてもいいんです?」
「臨時雇いの許可は丁度今日貰って来たところだ」
「なるほど、ある意味タイミングがよかったんですね私。
1か月間宜しくお願いします!」
1か月分の予算を預かったので1週間分ずつに4等分しておいた。
うっかりして月末ピンチになったら困るからね。
さてと、まずは食材の確認をしに台所へと向かう。
玉葱 人参 芋 大根 キャベツ ピーマン 猪肉 ベーコン
ソーセージ パン 米 大蒜 生姜
調味料は砂糖 塩 胡椒 唐辛子 瓶入りソース5本 壺入りの味噌?
ソースと味噌っぽいものは味を確認してみる。
ウスターソース 甘めのお好みソースっぽい物 醤油 黒いトマトソース
唐辛子のソース(名前が不明) 味噌はちょっとピリ辛だけど一応味噌
見慣れた食材で安心した、これならなんとかなりそうだ。
ふむ、明日の朝食の事も考えなければならないのよね。
よし、夕飯はホイコーロー丼と大根スープにしよう。
今から作れば夕飯には間に合うだろう。
申し訳ないけど洗濯と掃除は明日からだな、さすがに今日はそこまでやる余裕が無い。
早速調理に取り掛かるが、竃だった・・・
ふっ、まさかこんな所で鉈とライターが役に立つなんてね!
竃は使った事がないけれど、要は薪ストーブと要領は同じはずだ。
薪を持って来て着火剤代わりに削っていき、焚き付け用に細く割っておく。
竃の中に木屑と木っ端を入れて火を起こし、その上に薪を重ねていった。
「キクノさん火起こしは大丈夫ですかって、出来てますね」
「あ、デイルくん。心配してくれたの?ありがとう」
「もしかして竃を使った事が?」
「いや、無いよ。でも薪ストーブは使ってたから火は起こせたよ」
「なるほど」
まずは米から炊いて行く。
使う野菜を切って肉も切っておき、調味料は予め合わせておけば下準備の完了だ。
あれ、夕飯の時間聞いてなかった・・・
「18:00が夕飯の時間ですよ、朝は07:00です」
「了解、ありがとう」
なるほど、時計があるので時間の確認ができるのは助かる。
となれば、30分前なのでそろそろ作り始めてもいいだろう。
ホイコーローも大根スープもすぐに火が通るからね。
米もいい感じで炊きあがりそうだ。
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