12:中華丼 VS どっかのオーナーシェフ
寝る前に登録証を読んでみた。
ハティとノアは兄弟で以前の契約者である魔物使いと死別しギルドで保護されたらしい。
バスティは山の中で保護された推定2か月の子猫。
え? 子猫なの?! 嘘でしょ、デカくない?・・・
『キクノ、バスティはもっと大きくなる種だ』
『我等もまだ大きく育つ』
「ぶっ、マジで? えーっと、もっと大きな家にした方がいい?・・・」
『安心しろ、流石に家の大きさは超えぬ』
家の大きさは超えぬと言われても安心は出来ないじゃんよ。
今度リコさん達に相談しよう・・・
翌日の営業日からは常連客達に祭り期間中の営業をどうすべきか相談した。
「そうだな、確かに人が増えるこの時期は多少治安も悪くなる」
「丼物は目新しいし店主の見た目も珍しいからなぁ」
「丼物がしばらく食えなくなるのは残念だが
女将の安全を考えると閉めた方がいいだろうな」
祭りの3日間を含み10日間くらいは賑わうらしい。
10日も店を閉めるのか。うーん、収入が減るのは困るけど身の安全には代えられないか。
そう思い次の定休日から10日間は店を休む事にした。
「ところで店主。その犬は?」
「あぁ、新しく家族になったハティとノア、それに猫のバスティです。
賢いし優しいし良い子達なんで宜しくお願いしますね」
「そうかそうか、凛々しい顔をしているな」
「女将、今度アキレスを持って来てやってもいいか。
うちの犬はもう年寄りで食えなくなってな」
常連さん達はすんなりとハティ達を受け入れてくれた。
中には「しっかり店主のボディガードを頼むぞ」なんて言ってくれる人もいた。
「ついでにといってはあれなんですけど。
お店の名前のオカンノとはどういった意味なんですか?」
聞いてきたのはあの門兵、チップさんだ。
チップさんも遠いのに休みたんびに通って来てくれてすっかり常連となっている。
「あぁ。おかんと言うのは方言でお母さんの事なんですよ。
だから『お母さんの丼物屋』と言う事になりますね」
「なるほど。キクノさんはお子さんがいらっしゃるんですか?」
「ええ、いますよ。ハティにノアにバスティ。
可愛いうちの子達ですよ」
異世界に子供が居ますなんて言えないからね。
常連さん達は皆優しいから、言えば心配させてしまうだろう。
「おかん、お母さんか」
「言われてみれば確かに、目新しい料理だがどこか懐かしさもあるよな」
「ああ、親子丼なんかはお袋を思い出したさ。お袋が作れる訳ないのにな」
チップさんの質問がきっかけとなり、徐々に私をおかんと呼ぶ人が増えた。
私よりも年上であろう人までもがだ・・・
店主や女将と呼ばれるよりはいいけど、複雑な心境だったりする。
祭り期間までの5日間は牛丼、サーモン丼、中華丼、マグロの山掛け丼、そしてかき揚げ丼とした。
牛丼とサーモン丼の日はなんの問題も無く営業を終了する事が出来た。
だが中華丼の日はちょっと面倒臭い事があった。
「この中華丼とやらを祭り期間中うちの店で販売したいのですが、どうでしょう?」
どこぞの大きなレストランのオーナーシェフと名乗った男が言い出した。
「お断りします」
「悪い話では無いと思いますよ?
うちの店で出せば貴族の方々の口にもはいりますからね。
あっと言う間に稼げますよ?」
「だからお断りしますと申し上げています」
「もっと大量に売り捌けばこんなボロい店ではなく町の中心に
大きな店を出す事も可能なんですよ?」
「なるほど、ここがボロい店に見えるんならアンタの目は腐ってんだね。
この店は小さいかも知れんけど、ちゃんと手入れは行き届いているし
清潔さには十分気を付けてあんだよ。どこもボロくはないと思うが?
それにな、大きけりゃいいってもんでも無い。
店の大きさで味の良し悪しが決まる訳でもあるまいし。
そもそもがだ、祭りで売りたきゃ自分で露店でも出すわい!
なんでよそ様の店舗に提供せにゃならんのだ。
ああ解ったぞ、アンタ自分の店の商品に自信がないのか。
自信がない物をよく客に提供できるな、私なら無理無理!」
「な、な、なにをいうか!
うちの店は貴族が愛用する店だぞ!」
「だったら他人頼りにせず祭りの日も自分の店の商品を提供すりゃいいんじゃね?
別に私はお貴族様相手の商売がしたい訳でも無いからね」
「おのれ、こちらが下手に出ていれば調子に乗り追って!
いいからうちの店に来て中華丼とやらを作れ!」
「どこが下手に出てたんだか・・・
断ると言ったら断る!まったく鬱陶しい!邪魔だから出て行け!」
「きさま等平民は黙って言う事を聞いていればいいんだ!」
男が手首を掴もうとしたのだが、それよりも先に私の足が出た。
つい、条件反射と言うか癖と言うか・・・ ね?
私としては腹か鳩尾を蹴り上げるつもりだったんだけど、身長差かな。
凄く痛そうな場所に当たったらしい・・・ 南無~。
男は蹲ってしまった。
「おかん、もういいか?」
「うん、押えておいてくれてありがとう」
ハティとノアは飛び掛かりそうだったので押さえて貰ってたのだが、もういいだろうと放して貰った。
『蹴り出すか?』
『それとも埋める?』
待て待て、埋めたら駄目だろう。犯罪になってしまうじゃないか。
蹴り出しでと頼めば、器用にバスティがドアを開けハティとノアが後ろ足で蹴り出してくれた。
塩だと勿体無い気がしたので唐辛子の粉を一掴みして男にぶん投げた。
「一昨日来やがれ! ふんっ」
「キクノ、聞きなれない言い回しだけどそれはどういう意味合いなのかな?」
「一昨日来るなんて無理でしょ?暗に二度と来るなと言ってるんですよ。
って、うわぁスカイラーさん?!」
「そんなに驚かなくても。今日の丼物はまだ残っているかな?」
「あ、はい。ラストの1杯がありますよ」
「じゃぁそれを貰おうかな」
逆さ箒の時と言い今と言い、なんで変なタイミングで現れるかな・・・
店の中へと戻りスカイラーさんの中華丼を仕上げて提供した。
「うん、これも美味しいね。これなら3杯はいけそうだ」
へ?! そんなに? どんな胃袋してるんだろうか。
常連さん達もうんうんと頷いている。マジで?
「もしかして今の量だと足りない?」
「いや、足りているよ。3杯いけそうなくらい美味しいと言う事さ」
「そっか、よかった・・・」
今まで足りなかったのかと焦ったじゃないか。
完売したので立て看板を仕舞いに出れば走って来る騎士くん達が見えた。
「ああぁぁ、キクノさんもしかして・・・」
「ごめん、完売・・・」
「ぅわぁ・・・」
「なんだお前達、残念だったな。1歩遅かったぞ」
「「「 ずるいですよ団長ー!! 」」」
聞けば素振り100回を言い渡してスカイラーさんは先に来たのだとか。
それは職権乱用なんじゃ・・・ 可哀そうに。
「ああお前達、町中へ戻るならそこに転がってる男を兵士団に渡しておけ」
「この男は?」
「キクノに襲い掛かろうとした阿呆だ」
「なるほど、了解しました」
騎士くん達は男を縛り上げた後、俵のように肩に担いで町中へと戻って行った。
見送った後にスカイラーさんはのんびりと食後のコーヒーを飲んでいた。
ちょっとした出来事はあったものの、この日も完売である。
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