10:木彫りの熊と天使のパンケーキ
後日、営業時間前にアルトワ男爵本人が謝罪にやって来た。
あの迷惑おばさんは領地へと送り返し男爵の祖母に再教育をして貰う事になったそうだ。
ああいった選民意識や差別思考はもはや時代遅れとなり先王の負の遺産の様な物なのだそうだ。
いまだにそれにしがみ付く貴族も居るが大半は意識を変える努力をしているらしい。
モルソンのジジィはきっと前者なんだろう。
なんでも先王時代にやって来た異国の異世界人にこっぴどく怒られたのだとか・・・
異国の異世界人・・・ どんな人だったのだろうか、会ってみたかったかも。
アルトワ男爵は何かお詫びをと言っていたけどお断りした。
私としては今後関わり合いたくないだけだ。まぁ普通に客として来るならいいけど。
定休日、非番だと言うスカイラーさんに誘われて町中に来ていた。
なんでも近々大きな祭りが開催されるとかで、他の町からも露天商や商隊がやって来て賑わっているらしい。
この時期人口が増えて治安も少し悪くなるのでなるべく1人では出歩かない様にと言われた。
まぁ祭りだとテンション上がっていざこざが増えたりもするからぶっそうではあるよな。
なるべく買い出しに行く回数も減した方がいいかもしれない。
そんな中出掛けて何処に行くのかと思えば、案内された先は小洒落た雑貨屋だった。
「ここは輸入雑貨も扱っている店でな。
異世界人が作った物も他国にはあるらしいんだ。
もしかしたらキクノには懐かしい物もあるのではないかと思ってな」
「そうなんですね、何かあるといいな。連れて来てくれてありがとうございます」
店内を見ながらふと思った。 異世界人ってそないにアチコチの国に召喚されてたの?
まぁ全部が同じ世界からではないだろうけど(そう願う)勝手に召喚されても皆いい迷惑だと思う。
んん? これってこの世界の物じゃないよねたぶん・・・
私の目が止まったのは木彫りの熊。そう北海道土産によくある鮭を咥えた木彫りの熊。
いやでも万が一にもの偶然って事もあるのでスカイラーさんに聞いてみた。
「これってこの世界ではよくある物なんです?」
「いや、私は見た事がないが。店主に聞いてみるか」
店主さん曰く、ド・ウォールと言う北国からの輸入品だそうで、そこには多種多様な種族が暮らしており木彫りは獣人族の作品なのだそうだ。
へぇ、多種多様な種族に獣人。実在するんだ、この世界だと。
そうか、獣人の作品だったか、異世界人じゃなかったのか。
ちょっと残念に思ったけど足の裏に『北国と言えばやっぱこれっしょ』と彫ってあった。
ぶっ、異世界人じゃん!
「どうした?」
「他の作品は獣人の作品ぽいけどこれ、これは異世界人の作品ですね」
「ほう、何故そう思う」
「ほらここ、文字が彫ってあるでしょう?」
「私には読めないが何と書いてあるんだ?」
「北国と言えばこれっしょ、と書いてあるんですよ」
あら、スカイラーさんには読めないんだ。と言う事は日本語で書いてあるって事かな?
私にはこの世界の文字も普通に読めてるし書けてもいるので違いが解からない・・・
北海道と言う地域があって、そこの有名なお土産品の1つにこの鮭を咥えた木彫りの熊があるのだとスカイラーさんに話した。
他にも何かないだろうか。
あったよ、アイヌこけしにコロポックル人形。
これ作った異世界人って北海道に縁のある人だったんだろうか。
私は北海道に縁がある訳では無いけど、せっかくだからと買って帰る事にした。
スカイラーさんも1つ買ったようだ。
お店を出るとちょうどお昼時になっていた。
どこかでお昼ご飯を食べようという事になり、先日行った『カフェ・ペンギン』に行く事にしたのだが・・・
「 ・・・ 」
「どうした? 目当ての物が無かったか?」
「いえ、そうではなくてですね・・・」
メニューのパンケーキセットの名前が『天使のパンケーキセット』になっていたのだ。
これは偶然だろうか。 まさか前回私が洩らした言葉からとかじゃ無いよね?
「あらお客さん、先日の!
お客さんの言葉でパンケーキセットの名前変わったんですよ~」
「そうなんですね、ハハハ・・・」
「お礼に今日はサービスさせて頂きますねっ」
お店のお姉さんはそう言ってウィンクを投げていった。
いや待って頂きたい。今日はパンケーキではなくてパスタを・・・・
「キクノ、その話詳しく」ニッコリ
「えぇぇ、聞くの?・・・」
渋々と前回来た時に久々の甘味だったのでつい思った事が声に出てしまったのだと話した。
スカイラーさんは納得したように笑顔を浮かべて頷いていた。
くっ・・・ 今日はうっかり声に出さないように気を付けなければ・・・
「お待たせしましたぁ、スペシャル天使のパンケーキですっ」
スペシャルって何?!
ふぉっ、パンケーキの上にバニラアイスとホイップクリームが乗せてあってその上からチョコレートソースが掛かっている。
「これは、凄いな・・・」
「まさにスペシャル・・・」
折角のご厚意なのでありがたく頂く事にした。
バニラアイスは濃厚で甘さ控えめ、ホイップクリームも甘さ控えめでほのかにお酒の香りがする。
チョコレートソースはビターになっていて見た目ほど甘くなかった。
パンケーキもフワフワと柔らかくスフレの様なのでこれならこの量でも食べられそうだ。
スペシャルなだけあってパンケーキは3段だったんだよ(前は2段だった)
スカイラーさんも甘さが控えめなので食べやすいと言っていた。
ドリンクは私がカフェラテでスカイラーさんはブラックコーヒー。
私のカフェラテもノンシュガーになっていたのでありがたい。
食べ終わったのでお会計をしようとしたのに受け取って貰えなかった。
それどころかお手製のパンケーキセット回数券まで頂いてしまった。
ギルドで商標登録をさせて貰ったから是非受け取って欲しいとの事だった。
スカイラーさんが有難く受け取っておけと言うのでそうさせて貰ったけど、いいのだろうか。
お店を出た後で教えて貰ったのだけど、商標登録をしておけばほかのお店はマネする事が出来ないので他店のパンケーキとは区別化出来るのだそうだ。
なるほど、ただパンケーキと書かれているのと天使のパンケーキと書かれているのでは天使のパンケーキの方が興味はそそられるだろうから集客にもつながるのか。
この回数券はアイデア料というか命名料って事かな? 遠慮なく使わせて貰おう。
その後も色々とお店を見て廻った。
他の町からも露天商や商隊が来ているだけあって色々な店が立ち並んでいる。
「祭りは3日間繰り広げられるんだ。
もう少し日が近付けば近隣諸国からも商隊がやってきてもっと賑わう。
出掛ける時は必ず誰かと、そうだな。非番の兵士と一緒がいいだろう」
「そんなに治安が悪化するんです?」
「警備も強化はするがどうしてもな・・・
それにこの国では禁じられているが他国には人身売買が行われている国もある。
キクノなんかは目立つし狙われる可能性はゼロではないからな」
「人身売買?!」
未だに奴隷制度が残って居たり、食い扶持を減らすために子を売る親が居たりするらしい。
うげぇ、そんな国じゃなくてよかった・・・
うーん、買い出しの回数を減らそうと思ったけどいっその事お祭り期間は店を閉めるのも有りか?
この町の人以外、特に他国の変な人がやって来ても嫌だしな。
ちょっと常連さんと相談してみよう。
スカイラーさんに送ってもらいながら帰宅すると家の前に人影が2つ。
誰?・・・
「やはり兄貴と一緒だったか」
「キクノさんお帰りなさーい。スカイラー団長こんばんは」
リコさんとデイルくんだった。どうしたんだろう、何か用事だろうか。
取り敢えず中で話した方がいいだろうと3人を中へと招きいれた。
読んで下さりありがとうございます。




