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白楓高校 日常戦記  作者: ヒヨコのピヨ
図書委員の戦場

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3/19

場所と意図

久賀の視線は、まるで相手の反応を試すようだった。


「……心当たりって、どういう意味ですか?」


湊が問い返すと、久賀は図書室の奥に歩きながら、軽い調子で言った。


「簡単なことだよ。噂には“意図”がある。

それを動かしてる人にも、目的がある。

君たちは、それを知りたいんだろ?」


梨央が眉を寄せた。


「久賀くん、まさか関わってるわけじゃ……」

「直接はね。でも、気づいてるよ。

“同じ指”で打たれた文章が、何本も流れてることに」


その言葉に、湊は驚きを隠せなかった。

自分が感じていた違和感を、彼も同じように掴んでいたということだ。


「じゃあ……協力してくれるんですか?」


湊が慎重に問うと、久賀はスマホを操作しながら肩をすくめた。


「協力ってほどじゃないよ。ただ──」


スマホの画面が湊の目の前に突き出される。


「このアカウントたち。ほぼ同じWi-Fiから投稿されてる」

「えっ……?」


梨央が息を呑む。


「学校の……?」

「そう。しかも図書室の近くの電波。

つまり“このエリア”を使ってる可能性が高い」


湊の心臓が一気に早まった。

ここにいる誰かが、噂を操っている──?


「じゃあ、犯人は……?」

「特定はまだできないけど、ヒントはある」


久賀は画面を閉じ、静かに言った。


「“橘を落としたい理由”を持ってる人間。

それが、今回の鍵じゃない?」


橘を落としたい理由──

湊には、それがどうしても思いつかなかった。

橘は目立たないタイプだし、争いごとが苦手で、誰かを怒らせるような子でもなかった。

その時、梨央がふと呟いた。


「……もしかして、嫉妬とか、人間関係のすれ違い……?」


その可能性も確かにある。

しかし、湊はどうしても腑に落ちなかった。


(あの子は、そんなふうに狙われる性格じゃない)


湊は机に視線を落とし、記憶を掘り起こす。

橘が最近、誰かと一緒に帰っていた。

誰かに呼び止められていた。

下駄箱の前で、何かを差し出されていた。


(……そうだ。男の先輩だ)


顔までは見えなかったが、橘が少し頬を赤くしていたのを覚えている。

湊は口を開いた。


「橘さん……先輩に告白されてました」

「え? マジで?」


梨央が驚く。


「はい。本人は迷っている感じで……でも、断ってはなかった」

「ということは、橘さんを“好きな男子”がいて、

その相手をよく思ってない女子が……?」

「いや、もっと現実的に言うと──」


久賀が淡々と言った。


「告白した先輩の“元彼女”がいたりすると、関係は複雑になる」


図書室の空気が、わずかに重くなる。


「でも、それでデマを流すなんて……」

「人間、危機を感じると大げさに動くことがあるんだよ。

“好きな相手を取られたくない”っていう本能で」


久賀の言い方は淡々としていたが、その奥には実感のようなものがあった。


「……でもそれなら、文体の癖は女性らしくない気がします。

もっと感情があふれるような文章になりそうです」


湊の意見に、梨央が「たしかに」と頷く。


「じゃあ犯人は女子じゃない?」

「少なくとも、“感情を抑えた文章を書く人”です。

文章から……迷いが感じられない」


久賀が軽く笑った。


「湊くん、君さ。文体から人格推測できるよね?」

「え……」

「いや、褒め言葉だよ。分析が正確だから。

実は僕も同じこと思ってたんだ」


湊は少しだけ肩の力を抜いた。

久賀は敵ではないのかもしれない。


(でも……まだわからない)


慎重に判断する必要がある。


「さて。ここから先は、本格的に調べる必要がある」


久賀は周囲を見回し、声を落とす。


「犯人は、この図書室を“投稿場所”に使ってる。

つまり──この中にヒントがある」


梨央が息を呑む。


「まさか……図書委員?」

「全員が怪しいわけじゃない。でも、利用しやすい場所だからね」


湊の胸に、冷たい感覚が広がる。


(図書室は……“僕らの居場所”なのに)


その時、梨央が小さく囁いた。


「湊くん……今日の放課後、もう一度一緒に調べよう」

「はい。……絶対、止めましょう。このデマ」

「うん」


久賀はスマホをしまい、最後にこう言った。


「じゃあ放課後にまた。

たぶん──今日中に動いた方がいい。

相手も、次の一手を打つつもりみたいだから」


そう言って、静かに図書室を出ていった。

その背中を見送りながら、湊は決意を固める。


(言葉は武器になる。なら、僕は“守る側”に立つ)

放課後、図書室に残された三人は、ついに“情報戦”の核心へ踏み込んでいく──。

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