2.ひとりごと
「……母上には困ったものだ」
バートは深くため息をついた。
相手に悪気はないとはいえ、バートにとって気分の良い話ではなかった。
バートは足元ばかり見ていたことに気づき、顔を上げ窓から外を見る。どうやら雲が出てきたようだ。これだけ日差しが弱まっているのなら、太陽の光が目に刺さることもないだろう。
バートは庭園の白いガゼボ(柱と屋根だけで出来た風景を楽しむための小屋)で、コーヒーでも飲んで沈んだ気分を変えようと思い立ち従僕を探したが、こんな時に限って誰もいない。
バートは召使たちの部屋のそばに居たので、直接部屋に入り声をかけることにした。
バートが部屋に近づくと、ドアが開いていて話し声がしていた。かまわずドアをノックしようとしたとき「バート様はおっかないのよね」という声が聞こえ、バートは思わず手を止めた。
「いっつも眉間にしわを寄せててさあ、おっかない顔をしてるんだもん。近づいたら怒られるんじゃないかってヒヤヒヤするわ」
「大きな声を出されたことは無いんだけどねえ。あの鋭い目で睨まれると体が動かなくなるわ」
「ほんとね」
バートが、どんな顔で部屋に入ればいいか思案していたところ、通りがかった従僕に声をかけられた。
「バート様、何かございましたか?」
部屋の中でバタバタと慌てた音がする。
「ああ、大したことじゃない。ガゼボでコーヒーを飲みたいと思ってね」
バートはいつもと変わらない声音で従僕に言った。
「それでは用意しておきます」
従僕はバートに丁寧にお辞儀をして、召使たちの部屋に入って行った。
「やれやれ」
バートが窓に映った自分の顔を見ると、眉間にしわが寄っていた。中指でしわを押さえ、目をつむる。
「……おっかない、か」
バートはゆっくり息を吐き、姿勢を正して庭園に向かった。
***
バートは庭園を散歩しながら、木々の香りを楽しんだ。手入れの行き届いた庭にはいつも季節の花が咲き誇っている。今は黄色い花が咲いているが、バートには花の名前が分からなかった。
バートはガゼボに着くと椅子に座り深呼吸をした。少しすると、メイドがワゴンにコーヒーとクッキーを用意してガゼボに来た。
「バート様、お待たせいたしました。申し訳ございません」
「いや、ありがとう」
メイドはうつむいて、そそくさと去って行った。
バートは熱いコーヒーをすすりながら、風景を眺めた。
「結婚か……。まったく、私には縁のない話だな」
日差しが強くなってきて、バートは目を細めた。コーヒーを飲み終えて息をつくと、少し気分が良くなったような気がした。
バートは部屋に戻ることにした。




