5.花火/aiko
「りゅうはaikoさんの『花火』って歌、聴いたことある?」
「ああ、夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして……ってあれだろ? はっきりと聴いたことはないけど、音楽番組の夏うたスペシャルとかでよく出てくるしな」
「そう。その、aikoさんがぶら下がっていた星座が最近特定されたそうなの。かんむり座、さそり座、そしてりゅう座。ぶら下がることのできる形と、一般的に花火が上がる時間帯の星座の位置関係。それらの条件から、この三つの星座が最も可能性が高いそうよ」
……そんなどうでもいい会話をしたのをよく覚えている。
そしてそれが、ざくろと交わした最後の会話だったことも。
なんともあっけない最期である。
人間なんてそんなものだ。死ぬときはあまりにもあっさりと。 ざくろの死をもって、僕はその事実を嫌というほど痛感することができた。
なんて言ってしまうとまるで達観してしまったようではあるが、そんなことは全くなくて、僕は泣き叫びたくなるのをずっと必死にこらえていた。
だから彼女が生き返る……否、生きていると知ったときは言葉にできないぐらい嬉しかったし、逆に同じくらいその現実を受け入れられなかったのもまた、事実である。
『夏の夜、東の空を見上げると、まず明るい三つの星が見つけられるでしょう。こと座のベガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル。これらを結んでできる三角形が、あの有名な夏の大三角形です』
三つの星が色鮮やかに輝く。
『ベガには織姫星、アルタイルには彦星という別名があり、七夕伝説で有名ですね。この二つの星の間にあるのが天の川です』
織姫と彦星。
会いたくても会うことのできなかった二人。
なぜかちょっとだけ切なくなって、思わず隣を見てしまう。
隣には心星ざくろがいる。だんだんと、二人が入れ替わっていることに驚かなくなってきている自分がいた。
「りゅうはaikoさんの『花火』って歌、聴いたことある?」
小熊とは異なり、一心に星空の説明を聞いていたざくろが、いきなり口を開く。
それは、数ヶ月前、どこかで聞いたような言葉。
「え……!?」
「なに? そんなに驚かなくていいじゃない」
怪訝そうな顔を浮かべるざくろ。むしろこちらの表情が彼女のデフォルトなのかもしれない。
「ま、前にその話しなかったか? ほら、ぶら下がってた星座が特定されたって……」
「あら、そうだっけ? した覚えはないのだけれど、私の勘違いだったかしら」
「…………?」
した覚えはない。ざくろは確かにそう言った。
前述した通り、僕は重要な話以外は、あまりはっきりとは記憶していない。
しかしこの話――このたわいもない話――は、至極鮮明に覚えている。誰が忘れられようか。だってこの話をした数時間後、彼女は死んでしまったのだから。
どういうことだろう。
話をしたという事実がなくなってしまっているのだろうか。それとも、あの日自体が夢だったとでもいうのか。
それとも、ただ単に僕の考えすぎで、彼女が話したことを忘れてしまっているだけなのかもしれない。
いろいろなことを考えすぎて頭がこんがらがってきたので、少しだけ星の世界に身をゆだねてみることにする。
『天の川を南に下っていくと、南の空の低いところに赤い星が輝いています。さそりの心臓、アンタレスです。これがさそり座ですね』
ふと一瞬、視界が暗くなる。前方にある水槽を、巨大なエイが通過したからだ。
ところでこのプラネタリウム、別に水族館で催す必要はなかったのではないか……水槽とプラネタリウムは完全に切り離されているし、今のところ双方にメリットがあるとは思えない。
その旨をざくろに話してみる。
「雰囲気よ、雰囲気」
そんなものなのだろうか。
今まで頭上にばかり気を取られていたので、今度は魚たちの泳ぐ水槽を見渡してみる。
青いライトで照らされた巨大なパノラマ水槽の中には、大小様々な種類の魚が優雅に泳いでいる……そしてその中で一際目を引くのが、さっき目の前を通り過ぎていったエイである。
こんなにたくさんの魚がいて、魚同士がケンカすることはないのかと、僕は素朴な疑問を感じてしまう。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか……はたまた、クリオネを見るように僕の脳内を見透かしてか、ざくろの次の言葉は、僕の心の内を的確に抉り取る。
「もし、突然私が死んじゃったら、りゅうはどうする?」




