綺麗な女
森の中。
ねえねえ、そこの君。
どうしたんだい?困った顔してるね。
綺麗な女の人が僕に話しかける。
そしてなぜか微笑んでいる。
いえ、僕はただ歩いているだけです。
そう答えてすぐに立ち去ろうとした。
そうしたかった。
だが本能が引き留めている。
この女の人はやけに綺麗だ。美しい。
なぜかそう思ってしまう。
立ち去ろう。そう決めた時ふと口が動いた。
綺麗ですね。
慌てて僕は口を塞いだ。
だめだ遅かった。
言ってしまった。
なぜ口が勝手に動いたんだ。
これじゃあ一目惚れしている男じゃないか。
しかし彼女はきょとんとしている。
よかった。聞こえてなかったみたいだ。
僕、行くところがあるので。
そう言ってようやく足が動き出した。
右へ曲がってしばらくそのまま歩いた。
どこへ向かっているのか自分でもわからないがとにかく歩く。
まっすぐ。
しかし、その先に待っていたのは同じ風景だった。
さっきの女の人がいる。
なぜか笑顔でそこにいる。
「やあ君。また会ったね。
なんでさっきと同じ方向から歩いてきたの?もしかして方向音痴?」
おっかしいなー。...たしかに...いや...絶対さっき右に曲がって、そのまままっすぐ歩いてきたはずなんだけどなー...。
「方向音痴なわけでは...なんでだろう...僕はなんでここにきた...」
否定したかったができない。
僕は今なぜここを歩いているのかもわからない。
独り言を呟くと、女の人は不思議そうに見つめた。
ここで気がついたのだが、僕がさっき感じた一目惚れに近い感覚は消えていた。
なんだったんだろうあれは。
気を取り直して。
渋々ながらに女の人に聞く。
「あの...実は...僕迷っていまして...」
僕がそういうと女の人はやっぱりという顔をした。
「ほらね〜そう。よく言ってくれた。」
僕はあまりこの人に話しかけたくなかった。
だって...この人...井戸に挟まってんだもん。




