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5.妖女、決意をする

「……玲明様、本当にあのお話をお受けになるんですか?」


 次の日の朝、桂華は神妙な面持ちで尋ねた。玲明本人は、こんなところにもう用はないと言わんばかりにちゃっちゃと荷造りを進める。


「受けるわよ。春まで王子妃をやるだけで金三百両。しかも報酬とは別に最上級の衣食住保証。こんなわりのいい住み込み仕事、他にないわよ」


 なんなら、第四王子は二月後に別の仕事先を斡旋あっせんすることも快諾してくれた。なおぼんくら王子が追加条件を出せるほど機転が利くはずはずはなく、なぜか背後の侍従がそう提案し、第四王子は「というのはいかがでしょう」と便乗して頷いただけだった。玲明の中で、第四王子のぼんくら度が上がった。


「宮殿内とまではいかないでしょうけど、少なくとも春以降も仕事を手に入れたも同然。この冬を越す頃には干物になってるんじゃないかと思ってたところにとんだ割のいい仕事が舞い込んできたものだわ。一石三鳥どころか四鳥も五鳥も狙えるわよ」

「……その代わり、玲明様は命を狙われる危険があるんですよ。分かっていらっしゃいますか?」


 その声からは深刻な顔つきが伝わってくるようで、玲明は荷造りをしながら振り向いた。しかし、予想に反し、桂華は悲痛な顔をしていた。


「……どうしたの、そんな顔をして」

「こんな顔もします。……金三百両なんて、私達では到底稼ぎようがない破格の報酬ですけれど、玲明様の命がそう評価されているのと同じことなんですよ?」

「でも、平民が子供を売ったって金三百両はもらえないわ。銀五両だってもらえるか怪しい。私の命が金三百両なんて、ずいぶん良い値をつけてくれたって感謝しないと」

「……そうは言いましても」

「それに、桂華。私は金に飛びついたわけじゃないのよ」


 とたった一つの荷物入れを閉じ、玲明は怪しく目を光らせた。


「恵梨お姉様が弑逆しいぎゃくを企むわけがない。それでもって、第一王子は誰がどう見たって筆頭の王位継承者だった。邪魔な第一王子を排除したかったがために濡れ衣を着せたに決まってる。この契約はお姉様の汚名をそそぐ千載一遇のチャンスなのよ」


 本来、玲明が恵梨のためにできることは、それこそ酔っ払いに酒をぶっかけて嫌味を言うことくらいだ。それがどうだろう、第四王子妃となれば、宮殿内を自由に歩き回ることができる。恵梨の事件の裏を探るのに申し分ない身分だ。


「建前は第四王子妃として立派に身代わりを務めてみせるけど、ぼんくら殿下だもの、きっと私が何をしても気にも留めないはず」


 琥珀のかんざしを巾着に入れ、キュッと紐を結ぶ。これで荷物は最後だ。


「第四王子妃をやってる間に、お姉様の無実の証拠を探してみせるわ」


 その日、玲明は第四王子妃として盛大に迎えられた。

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