12.妖女、茶会へ行く
「あら、そちらにいらっしゃいますのは第四王子妃、玲明様でなくて?」
少し鼻にかかった声に振り向くと、そこには数人の侍女を連れ優雅に佇む女性がいた。高く結い上げた豊かな髪に、気の強そうな釣り上がった目、そして白銀のように輝く上品な衣装……。カチカチカチカチと歯車を噛みあわせるように玲明の頭は情報を総合し、相手が誰かを思い出す。第五王子妃だ。
「ごきげんよう。式典ぶりですね、芙楊様」
「ええ、まったく。玲明様ったら、私達のお茶会に来てくださらないんですもの」
「お茶会?」
そんなものに誘われた覚えはない、と玲明は眉を顰めるが、桂華が「ほら玲明様、あれです」と耳打ちする。
「式典の終わりに芙楊様が話していたことですよ。将来の王子妃で集まってお茶をいただきましょう、と」
「あれは社交辞令じゃないの?」
酒場の男達が「また飲みに行こうぜ」と肩を叩いて帰るのと似た文句ではないのか? 玲明がさらに眉を顰めると、芙楊は「あらやだ、玲明様ったら」とわざとらしく眉を八の字にする。
「社交辞令だなんて心外ですわ。王子妃同士仲良くしましょうと申し上げておりますのに。それとも、玲明様は我こそが王妃にと熱心な方かしら?」
「いーいえ、そんなつもりはなかったんですけれども」
“蹴落とす相手と仲良くする気がないイヤなヤツ”呼ばわりされ、玲明のこめかみには若干青筋が浮かぶ。派手な化粧を見た時点で直感していたが、芙楊はどんぴしゃで苦手なタイプの女性だ。
「王子妃とはいえ、どこの馬の骨とも分からぬ私が皆さまの会にお邪魔していいものかと案じておりまして。行き違いがあったようで失礼いたしました」
「あら、そんなことをご心配なさる必要はございませんわ。だって第三王妃様もお生まれのことは気にしていらっしゃいませんもの」
どこの馬の骨とも分からない下賤な身であることを否定しろ――。玲明のこめかみの青筋が深くなる。しかも、娼婦あがりの第三妃のこともさりげなく罵った。第五王子は順序的に最も王位継承から遠いにも関わらず、どうやらその妃の芙楊はずいぶん強気らしい。
それで、と芙楊のてっぷりと赤い唇が弧を描く。
「玲明様は、特にご用事もないのでしょう? いかがでしょう、私達、これからお茶会の予定ですので。いらっしゃらない?」
当然、行きたいはずもない。しかし芙楊には有無を言わせぬ圧があったし、なにより王子妃達のお茶会。恵梨の情報を得るにはこれ以上ない最高の場所だ。玲明はその顔に今日一番の笑みを張り付けた。
「ええ、ぜひ、お願いいたしますわ」