第6話 大賢者、教育する
「あはは……。すまん、ちょっと愛情《腕力》が多すぎたみたいだ」
仰向けに倒れたままピクピクと痙攣している彼に謝罪する。
しかし、私の茶目っ気を許してはくれなかった。
「テメェ! タケちゃんをやりやがったな!」
「魔法じゃ勝てねぇからって暴力に訴えやがって!」
「魔法だぞ……いちおう」
少年2人は指揮棒のサイズの杖を袖から取り出した。
そして、私に向けて魔法を唱える。
「『火の玉』!」
「『水の射撃』!」
……ふむ、恐ろしく無駄の多い魔力の属性変換だ。
その半分の魔力量で2倍の威力の魔法を放つこともできるぞ。
「へっ、テメェは杖を持ってねぇから魔法を使えねぇよな!」
「何たって、お前の弟にへし折られてたもんなぁ!」
「…………」
私は魔力を帯びた手で飛んできた水の弾と火の弾を掴み取る。
「んなっ!?」
「こいつ、魔法も使わずに!? てか、熱くねぇのかよ!?」
「いいか? よく見ておけ」
私は両手に掴んだ水の弾と火の弾を空に向けて放つ。
「――魔法とはこう使うのだ」
そして、空中でぶつけて炸裂させた。
日の光に照らされた水しぶきが――
真っ青な大空に見事な虹を描いた。
「わぁ~! 見てあれ~!」
「綺麗~!」
「虹だ虹だぁ!」
大通りの人々は空を見上げ笑顔をこぼす。
学生2人も口をポカンと開けて空の虹を呆然と見上げていた。
「どうだ? 魔法とは人を傷つける為ではなく、喜ばせるために使うものだ。分かったか?」
「――う、うるせぇ!」
「きょ、今日のところは引き下がってやる!」
しかし、私の特別レッスンは彼らの心には響かなかったようだ。
気絶したタケちゃんを2人で担いで行ってしまった。
「ふむ……残念」
私は振り返ると、背後の壁に向かって話しかける。
「ところで、君は私――僕に何か用か?」
「――ひぇぇっ!?」
何も無い空間から可愛い女の子が尻もちをついて現れた。
見事な『隠れ身の魔法』だが、残念。
磨き抜かれた私の魔力センサーには引っかかっている。
「わ、私の魔法……どうして分かったんですか!?」
「魔力の揺らぎが見えた。それと、隠れるなら壁じゃなくてもっとごちゃごちゃした場所の方が良いよ」
「そ、そんな……! 見破られたのは初めてです!」
女の子はキラキラとした瞳で俺の手を握った。
「あ、あの! それと! 今の見てましたっ! す、凄く格好良かったです!」
「うん、ありがとう」
「それでその……で、弟子にしてください! 私、同級生のミリアって言います!」
突然、そんな事を言い出して頭を下げる。
「あの……僕は劣等生だよ? 今の魔法を見る限り、君の成績はかなり良いんじゃない?」
『隠れ身の魔法』は学生にしては高度な魔法だ。
恐らく、ミリアは指折りの存在だろう。
ついでに、凄く可愛いし。
「検査結果では優等生という判定になりましたが関係ありません! どうか、お願いします!」
ミリアは誠意を込めて頭を下げる。
この身体でもまた弟子を取ることになるのか……?
う~ん、でも実は弟子にはあまり良い思い出がない。
「ごめんね、弟子はちょっと恥ずかしいから"友達"になってくれない?」
「と、友達だなんて恐れ多いですが! 光栄です! ぜひ、お願いいたします!」
こうして、私に初めての友達ができた。