「猛進」
広い空間。そこら中を、人間が行き来している。地べたに座っているものもあれば、隅の方でひとり、会話しているものもある。
空間は、隙間を失するように埋め尽くされ、人声は、言葉にならぬ言葉によって、更に空間への侵略を続けて止むことはない。
往来する人間の多くは、俯いたまま。鉛の光景である。
呼び込みの声が、やけに響く。
無論、それは、呼び込む人間の懐事情のためである。実利のためである。よく響く声は、とうとう実利に端を発するもののみに、淘汰されてしまった。
往来する人間は、満腹の様子で、また、常になにかを欲している印象である。
翼を失した、猛禽類のように、あるはずない力を悟られまいと、俯きざま、執拗に周囲を睥睨している。
生肉を常温で放置したような異臭は、どの区画を歩いていても、ついて回る。
人を嫌悪しながら、人を呪うために、人と関わろうとする人々の外発的態度は、いよいよ、機械的な人間性の構築に、成功したのか。
笑顔もみえる。笑顔は、甲高い金切り声のような叫びを伴って、現れる。
口は極端に大きく開かれ、身体は、ぎこちなく震えている。周囲にかまわず、披露されるその光景は、「我を見よ」と訴えているようだ。
私は、その空間を足早に出る。
空はいよいよ晴れ渡り、秋の、心地よい涼風が、身を洗っていく。
雀が、雨後の水溜りから飛び立って、視界から消えた。
そんな、いつもの、朝である。